先に紹介したレベニューマネジメントのおもな仕事、販売戦略の策定とその実行を踏まえたうえで、それを達成するための様々な戦法を日々のタスクとして落とし込んでいくのが、レベニューマネジメントにおいての「戦術的」(タクティカル)な仕事です。レベニューマネジメントの戦術的な業務としては以下のようなものがあげられるでしょう。
・レポートの作成
「ホテルでの宿泊における実地オペレーション機能」に特化しており、もともと宿泊予約やレベニューマネジメントの機能が充実していないPMSにおいては、様々なデータを参照するためのレポート機能が非常に乏しいのが現状です。したがって多くのホテルにおいて、現時点でのホテルの将来のパフォーマンスの状況を表す「オン・ザ・ブックレポート」(オンハンドレポート)などはPMSに存在するローデータ(Raw Data)と呼ばれる、ほとんど加工されていない数字をエクセルなどのアプリケーションに落とし込んで、そこから使いやすいように加工していくことが一般的です。このレポートでは、日ごとの販売室数や平均単価、売り上げ、アウトオブオーダーの数、マーケットセグメントごとの販売室数と売り上げなどが、一目でわかるような様式になっていることが通例です。気を付けたいことが、「レポートを作成することが仕事となっていないか」という点です。レベニューマネージャーによっては、このレポートの作成だけに毎日30分、1時間と時間をかけているようなケースもよく見られますが、このオンザブックのレポートはそれを作成することが目的ではなく、そこから現状を把握し、状況を読み取るための前準備です。この毎日のレポートの作成は、長くても5分-10分以内に終えることができるようにしたいものです。
・フォーキャストの作成
オンザブックレポートで状況をつかんだのち、フォーキャストの作成(または既存のフォーキャストの検討や修正)に入ります。ここでは詳しい説明は省きますが、フォーキャストはレベニューマネジメントの要です。正確なオンザブックレポートは、正しい現状把握と、より正確なフォーキャストにつながり、正確なフォーキャストは適切な行動をもたらします。
・インベントリーコントロール(在庫調整)
部屋の在庫を調整します。在庫が減っているところを中心に、複数日(ステイスルー)の予約ができるだけ取りやすいように、各部屋タイプごとのオーバーブッキングの手法などを用いて在庫状況をならします。また同じ部屋タイプでのキング/ツインのバランスを調整し、適切に振り分けます。必要に応じてオーバーブッキングの処理を行います。
・レートコントロール(料金調整)
ストラテジック・フォーキャストを参考にしながら、適切な料金戦術が取られているか確認をします。フォーキャストより予約のペースが速い場合は、BARの価格帯の変更、ステイコントロール、料金プランの販売停止などの手法を用いて調整しますし、フォーキャストより予約のペースが遅い場合はその逆の手法を検討します。
・マーケットの情報の確認
在庫調整、料金調整の参考情報とすべく、マーケット、特に競合ホテルの価格や販売条件などを確認します。また価格だけでなく、競合ホテルのオンザブックがどれくらいなのか、またチャンネルごとのパフォーマンスの確認など、幅広いマーケット情報を収集します。
・チャンネルコントロール
先に行った在庫調整と料金調整の結果を、各販売チャンネルに反映させていきます。先々の在庫状況を確認し、在庫がなくなっている日には新たな在庫を投入します。また既に在庫が少なくなってきている日については、先んじて販売チャンネルを販売停止にすることを検討します。
・団体料金や新規料金の設定
営業部が持ってくる団体案件の料金決定を行います。フォーキャストを参照したうえで適切な団体料金を計算し、該当案件への販売可能室数とともに回答します。また新規プランの作成やその価格設定、プラン内容の詰めなども行っていきます。
上記にご紹介した仕事内容が、レベニューマネジメントにおける戦術的な仕事の一例です。現在のレベニューマネジメントにおいては、このような戦術的な仕事はレベニューマネジメントシステム(RMS)によって自動化されていることが多く、フォーキャスト、料金や在庫の調整と反映、マーケット情報の収集とその反映、各チャンネルへの情報のアップデート、個別の団体料金の料金提案などはすべて、ほとんど人の手が加わらずに自動でおこなうことができます。
しかし現実は、インターナショナルチェーンホテルを除き、日本のホテルにおいてはディストリビューションの問題から、RMSの導入とこの戦術的仕事の自動化はほとんど行われておらず、上記にあげたような仕事がほとんどレベニューマネジメントの仕事を表しているといって良いでしょう。ビジネス環境の複雑化により、これからはますます迅速かつ高度で、かつ的確な判断が日々求めらえるなかで、今後はレベニューマネジメントの業務、宿泊予約業務の中央一元化の流れが加速していくと思いますが、それには上記にあげたレベニューマネジメントの戦術的業務の自動化は避けては通れない道である一方、残念ながら、日本においてはまだその環境すらほとんど整っていないのが現状です。