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「稼働をおさえて単価を高く・・・」の落とし穴

2024年も残すところわずかとなりました。例年、この時期になると翌年の宿泊業界の業績予想の記事があちらこちらで見られるようになりますが、いくつかの媒体で取り上げられているアメリカのホテルの25年の業績予想では、おおむね、25年もADRの牽引を軸として売り上げ(RevPAR)の成長が続いていくという見方で一致しています。しかしその一方、STRは2024年のアメリカ市場におけるホテル業績の成長率最終予想を下方修正したようですし、それに伴い25年予測の成長率も下方修正したようです。

「成長は続くがコロナ後のリベンジ需要は一服し、従来のような大幅な成長は見込めない」ということなのでしょうが、宿泊業界ではしばしば「アメリカの宿泊業界で起こることは数年後に日本でも起こる」と言われます。日本の宿泊市場においても徐々に成長の鈍化が見られ始めるのか、そしてそのターニングポイントはいつになってくるのか、その趨勢を占う1年になってくるのかもしれません。

さて2023年、2024年と、コロナ後の旺盛な訪日リベンジ需要を受けて、日本の宿泊業界は「需要の逼迫」というかつてない課題に直面しました。全国的に見られる優れた専門人材の不足や、全般的な人手不足は未だに解消する見込みもなく今後についても望み薄ですし、一部都市においては施設数の供給不足という課題も続いています。実際、多くの施設では「稼働に制限を設ける」(受け入れ数を制限する)という手段を取ることによって、何とか限られた人員でオペレーションを回しているような状況です。旺盛なインバウンド需要を見越してこれだけ新たな施設の開業が相次ぎ、今後も予定されているにも関わらず、結果的に自らの共有能力以下のビジネスしか受け入れることができていない訳ですから、これは政策を考え実行する立場の方、計画・投資を行う立場の方、実際に運営を行う方といった日本の宿泊ビジネスに関わるすべての当事者が深刻に捉えなくてはいけない問題だと思います。

そのような中で、レベニューマネジメントにおいて多くの施設から聞こえてくる要望の1つが「稼働率を抑えたうえで、その分、宿泊単価を上げることによって売り上げの最大化を達成したい」というもので、私自身もそのような方法はないのかという問い合わせをよく頂戴します。これだけ人手がひっ迫しているわけですから、今まで稼働で90%、平均単価25,000円で運用してきたビジネスモデルを、稼働を80%、平均単価30,000円という形に変えることによって、「少ない人手」で「より多くの売り上げ」を達成することができるという一挙両得のような考え方です。

考え方としてはまったく間違っていません。確かに後者のシナリオの方が「売り上げ」という観点でいうと前者より優れていますし、またコストの点を鑑みても、変動費を踏まえると後者の方が最終的な手残りが多くなることから、売り上げのみならず「利益」という観点でも申し分ないシナリオのように思います。オペレーションサイドとしても、90%の稼働で振り回されるよりかは、80%の稼働の方が余裕を持った運営ができることでしょう。ただ、どこの世界でもそうですが「机上の考え方」と「実際の運用」は一致しないこともしばしばで、レベニューマネジメントにもそういう点がいくつかあります。上記で挙げた稼働率誘導のシナリオもその代表的な一例です。

どの施設も「自らが販売したい価格」というものが存在します。価格はその施設の価値を消費者に伝える非常に重要なメッセージですから、その価値を表すメッセージとして「x月x日のスタンダードルームはxxxx円」という販売価格は、施設の確固たる意思をもって決められるべきものです。一方、売り手と買い手の思惑が一致してはじめて売買が成立する宿泊市場においては、必ずしも売り手の一方的なメッセージのみで買い手がつくとも限りません。つまり、x月x日を30,000円で売りたいというメッセージは重要であるものの、その販売価格で80%に相当する分の需要があるかという点については、「30,000円という販売価格で購入する意思のある需要が市場にどれだけあるか」によってくると言えます。

確かに、計算上は25,000円で90%より、30,000円で80%の方があらゆる点で望ましいことに疑いの余地はありません。一方で、その通りに操作できるかというとそれは少し異なった問題で、30,000円に価格を上げても最終的に80%を固めることができるだけの需要があればそのシナリオは達成する一方、25,000円の場合は90%相当分あった需要数が、30,000円に値上げした際に80%相当数が存在するかというと、それは消費者の価格敏感性(Price Sensitivity/Willingness to pay)によってきます。30,000円を払っても宿泊したいという需要数が80%相当分なければ、それが例え、机上ではより高い売り上げと利益が達成できるようなシナリオであったとしても、残念ながらそれは絵にかいた餅に終わってしまう可能性もあります。

以上のことから「ある特定の稼働率に人為的に導くことによって売り上げの最大化を達成する」というやり方は、ある意味大きな矛盾をはらむ方法であるとも言えます。売り上げの最大化とはあくまでも「予測される最大販売室数を予測される最大単価で販売した時」に初めて達成されるもので、そのうちの片方の変数を人為的に操作してしまうと、結果的に売り上げの最大化を達成することは難しくなってしまいます。これもよくある要望として聞くことの多い「必ずxxxx円以上で販売したい」という「価格を人為的に導く」やり方も、片方の変数を人為的に操作する典型と言え、一見すると「xxxx円以上では必ず販売する」という意思が単価を上げることに注力しているように見える一方、それが知らず知らずのうちにもう片方の変数である「予測される最大販売室数」への足かせとなり、結果的に売り上げの最大化を実現するための大きな落とし穴になる可能性もあります。

販売価格を設定する際、「施設としていくらで販売したいのか」という意思と同じくらい考慮されなくてはならない点が「消費者の価格敏感性」です。その消費者の価格敏感性をもとに「どの価格帯にどれだけの需要が存在するのか」という点をきちんを把握しておくことで、その価格敏感性を踏まえた上での「販売価格 x 需要数」がもっとも最大化される組み合わせこそが、売り上げの最大化であると言えます。

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