日々宿泊施設と接していると、実に様々な部屋タイプに出会います。もちろん、それぞれの部屋タイプの物理的特徴が施設ごとに非常にユニークであることもありますが、その部屋タイプの名称であったり、部屋タイプの分け方には各宿泊施設の特徴、考え方がそのまま表れているように思います。この部屋タイプについて、とりわけ部屋タイプをどのように区分するかという点については、施設のオペレーションの観点からはもちろんのこと、レベニューマネジメントの観点でも決して見過ごすことができない重要な要素です。言い換えると、部屋タイプをどのように区分しているか、その分け方自体がその施設におけるレベニューマネジメントに大きな影響を及ぼします。今回はこの「部屋タイプ」という概念について、レベニューマネジメントの観点から考察していこうと思います。
シングルという部屋は必要か
これが日本マーケット特有の習わしであるのかまではわかりませんが、日本のホテルでは特にビジネスホテルを中心に「シングルルーム」といった部屋タイプをよく目にします。これは文字通りシングルベッド1台が設置されている部屋で定員は1名、1名宿泊用に対応する部屋タイプですが、このシングルルームという部屋タイプ、私はレベニューマネジメントの観点では売り上げの毀損につながる、日本の宿泊施設が見直すべき部屋タイプの1つであると考えています。
日本の宿泊施設の商習慣においては長らく「人数売り」が通念として採用されてきました。その商習慣は部屋タイプの設定の仕方にも如実に表れており、シングル(1名利用)、ツイン(2名利用)といった分け方は、人数売りの考え方がもとになっている典型的な部屋タイプの区分の仕方です。私はそれ自体に問題があるとは思いません。これは宿泊施設云々というよりかは日本の旅行会社側の販売都合により設定されているもので、旅行会社が基本的に旅行商品を人数売りで販売している慣習に合わせて、宿泊施設も人数売りの販売手法を採用していると考えています。だからと言って私は人数売りをしなくてはならないという考えには与しませんが、それでも販売側の人数売りをしたいという要望に対して宿泊施設がそれに呼応したいのであればそれは各宿泊施設の判断として行われるもので、その人数売りという考え方自体にレベニューマネジメントの良し悪しはありません。一方、その「人数売りの考え方」が「宿泊施設の売り上げの考え方」にそのままつながるような思考は、レベニューマネジメントの観点で少し立ち止まって考えるべきだと思っています。
どのように販売するか(人数あたり、部屋あたり)は販売側の都合もありますのでどちらでも構いませんが、レベニューマネジメントの観点ではその1部屋が1名で販売されようと2名で販売されようと、その「1室というスペース」を販売していることには変わりません。例えばシングルルームという15平米の部屋があったとして、該当部屋の定員を1名としている限り、施設としてその部屋から得られる最大の売り上げは常に1名分の売り上げです。同じ15平米の部屋でも、1名、または2名定員(ダブル/ツイン)としていれば、場合によっては同じ15平米というスペースから2名分の売り上げを得ることができる可能性があります。仮に1名のシングルが12,000円、2名のダブル、またはツインを20,000円という料金設定をしているのであれば、シングル部屋を設定している限りその「15平米というスペースから得られる売り上げ」は常に最大で12,000円である一方、ダブル、またはツインという設定にしているようであれば20,000円の売り上げを得ることができる可能性があります。つまり、同じ15平米というスペースであっても、敢えてシングルという設定をすることにより、宿泊施設自らが2名料金相当を売り上げられる可能性を断っている、まさに売り上げを最大化する機会を毀損していると言わざるを得ません。
繰り返しますが、販売する際に人数あたりで販売しようが部屋あたりで販売しようが、それは販売側の都合により調整すればいいだけの話ですが、宿泊施設として常に持っておかなくてはならない視点は「その1部屋というスペースからどれだけの売り上げを上げることができるのか」ということです。
そのように考えると、どうしても「シングルルーム」という部屋タイプの弱点が気になってきます。同じ15平米を販売するにしても、シングルルームという部屋を設定している限り、該当の部屋タイプから見込める売り上げは1名分の売り上げです。一方、コストという観点ではどうでしょうか?シングルルームだからといって宿泊客が部屋の照明を半分にして過ごしてくれるわけではないですし、シャワースペースの半分しか使わないというわけではありません。アメニティやリネンの数といったものは人数ごとに多少変動しますが、その「スペース」で宿泊客が過ごした以上、人数に関わらずそのスペースから発生するコストは同程度かかりますし、その1室を清掃するということにも変わりはありません。また、人数によってチェックインやチェックアウトの手間が大きく変わることもないでしょう。それであればなぜ、敢えてシングルルームという部屋タイプを設けてより高い売り上げを得ることができる芽を摘むようなことをする必要があるのでしょうか。
日本の出張客により受け入れられやすい価格にするため、日本の旅行会社との長い商慣習、色々な背景はあるでしょうが、時代の変化に合わせてこのシングルルームという部屋もきちんと見直されるべきだと思います。昔に比べて宿泊施設の需要は多様化しています。ビジネスホテルだからといってビジネス客ばかりという時代はもはや過去のものとなりました。さらに多くの訪日客により、実に多種多様な需要が、皆さんが想像もしない形で日々宿泊施設を探しています。一方の宿泊施設は運営コストの増加と人手不足に苦しんでいます。「より少ない手間でより多くのことを」という考え方がありとあらゆる場面で求められている中で、このシングルルームという部屋タイプは昨今の状況に逆行する、積極的に見直されるべき部屋タイプの1つであると考えています。
シングルルームという部屋タイプを設定せずに、基本部屋タイプのすべてを「1名、ないしは2名」とすれば良いのではないでしょうか。「そのスペースからどれだけ売り上げが上がるか」という観点がある以上、それに対応した考え方は「1部屋あたり」ないしは「1名料金と2名料金が同じ」というものです。例えシングルルームの販売を止めたところで、私も含めて1名利用者に「宿泊しない」という選択肢はありません。したがって、私自身はシングルルームを排したことで需要が極端に落ち込むことはないと考えていますが、マーケットの状況を鑑みてどうしても価格競争力の点が気になるのであれば、いきなり1名、2名同料金にする必要はありません。それでも1名で宿泊した場合と2名で宿泊した場合のそのスペースから得られる売り上げが極力近づくよう(同料金となるよう)、中期的に価格を見直していくべきだと思います。
追加料金が発生する価値とは
特徴の異なる2つの部屋があって、その特徴の違いゆえにその2つの部屋の間に差額(追加料金)が発生することで設けられるのが部屋タイプです。部屋タイプをわけた上で差額が発生するケースとして1番わかりやすいものは、部屋の広さの違いでしょう。30平米の部屋タイプの価格が20平米の部屋タイプの価格より高く販売されていることは、広さという消費者にとっても受け入れられやすい価値の違いによるもので、多くの宿泊施設で採用されています。
一方、宿泊施設によってはわずかな広さの違いで部屋タイプを分けているケースもよくあります。20平米と22平米のまったくレイアウトが同じ部屋タイプがあって、その2つの部屋タイプがわかれておりそこに3,000円の差がある理由を尋ねると「2平米広いから」ということによるものです。いち消費者としての私個人の価値観で申し上げますと、私はたった2平米の広さのために追加料金を払う価値を感じません。その2平米があるがために何かしら追加の部屋設備がある、例えばラゲージスペースやクローゼットがあるというのであれば別ですが、廊下部分が2平米広い、ベッドから洗面の距離までが2平米広いといったことには特に価値を感じません。
また、宿泊施設によっては例え同じスタンダードルームであっても「リノベーションされたものか」「されていないものか」という違いで部屋タイプをわけて、リノベーションがされた部屋タイプについては追加料金を設定する場合もあります。これもいち消費者としての意見ですが、私自身は「リノベーションをされた」という事実に対して「追加料金に値する価値」をあまり感じません。もちろん部屋がリノベーションされてきれいになった、利便性が上がったこと自体は喜ばしいですが、私はそれを「施設の価値全体が上がった」と理解するものの、新しくなったという事実に対して消費者が追加の料金を払わないといけないという価値は感じません。例え設備が古くても、それがきちんとメンテナンスされてきれいに清掃がされているのであれば宿泊するにはまったく問題ありませんので、設備が新しくなったという事実に対して追加料金を払おうとは思いません。
「部屋の広さ」、また「部屋がリノベーションされたか否か」という2つの例をもとに、部屋タイプがわけられて追加料金が設定されている事例を紹介しましたが、私はここで「2平米の追加では部屋タイプをわけるべきではない」「リノベーションをしたか否かで部屋タイプをわけるべきではない」と言いたいのではありません。部屋タイプは「他の部屋タイプと比べて違いがあるから」という理由で異なる部屋タイプに設定され、差額が設けられるべきではありません。消費者はその違いに対して差額を払うわけではなく、「その違いがもたらす価値」に差額を払うのです。ですから、宿泊施設は「2平米広いから」「リノベーションをしたから」という事実で新たな部屋タイプを設定してわけるのではなく、「その事実が消費者にどのような価値をもたらすのか」という点で部屋タイプを設定するべきなのです。私のようにすべての消費者が「2平米の追加」という事実に対して価値を見出していないですし、例えば特にヨーロッパの文化においては「新しいもの(リノベーション)は価値が高い、古いものは価値が低い」といった価値観はありません。
40も50にものぼる部屋タイプを設けることによる負の側面も忘れてはいけません。確かに「差額を設けることができてその分売り上げが増える」という考え方もできるかもしれませんが、それは50にものぼる部屋タイプがきちんとわかりやすく整理され、なおかつ消費者がその違いを瞬時に見分けることができる場合の話です。部屋タイプの多さはそれだけ商品数(部屋タイプ x 販売プラン)の多さに直結し、商品数の多さは管理の複雑さと消費者へのわかりにくさ、混乱を引き起こします。とりわけ最近の消費行動の研究においては、選択肢が多いことによる消費者に与える負の影響、またそれが購買率の低下につながるような事例も数多く報告されています。多すぎる商品数が引き起こす予約時の混乱は予約の転換にも大きく影響しますし、部屋タイプが細かく区分されその各区分ごとの部屋数が少ないような部屋タイプの構成は、混雑時のアップグレードなどのレベニューマネジメント、オペレーションのダイナミズムも硬直化させ、それがまた売り上げ毀損の大きな要因になりえます。
部屋タイプの設定は単に「特徴の違いを見出しその違いごとに分類していく作業」ではありません。各々の部屋タイプがもつ固有の価値をどのように消費者に伝えることができるか、また施設としてその価値をどのように売り上げと競争力の向上につなげていくことができるかという価値創造のプロセスです。より多様化する需要、またひっ迫する供給という昨今の状況は、宿泊施設に自らが持つ限られた人的、金銭的リソースの中でどれだけ最大限の価値を消費者に届け、また一方でそこから最大限の売り上げを得ることができるのか、「こうしないと売れないから」「ずっとこうやってきたから」という従来の固定観念の転換を迫っています。

