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“ウェブ予約”や“海外個人”はマーケットセグメントか?

レベニューマネジメントにおいて、マーケットセグメントは肝です。正しいマーケットセグメントの設定と管理ができないとフォーキャストができませんし、正しいフォーキャストができないということは、適切な戦術を実践することもできなくなります。また正しいマーケットセグメントの設定ができないと、そもそも適切なデータ収集ができませんので、戦略を立てることすらできません(レベニュー戦略レベニュー戦術の違いは過去の項目をご参照ください)。この適切なマーケットセグメントの設定は、レベニューマネジメントを行う上でのいわば前提条件のようなものですが、改めてこのマーケットセグメントに関して解説がされる機会は多くはないのが実情です。

しかし、私が今まで見てきた多くのホテルにおいては、このマーケットセグメントが正しく理解されておらず、ゆえにその適切な設定が行われていないため、はたしてそのような状態でどのようにレベニューマネジメントを行っているのか不思議に思った例をたくさん目にしてきました。ホテルと会話をする中で「マーケットセグメントごとのパフォーマンスはどうですか?」と質問をした際に、「ウェブ予約が好調に推移しています」といったようなコメントをよく頂戴しますが、ウェブ予約(公式ウェブサイト経由の予約)という属性はレベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントには該当しません。これはむしろチャンネルです。この「マーケットセグメントとチャンネルを混合する」、もしくは「チャンネル=マーケットセグメントと設定している」ケースは非常に多く見られ、正しいマーケットセグメントの認識については、私も非常に大きな問題意識を持っています。

マーケットセグメントは、顧客を旅行の目的や価格感応性(敏感性)、リードタイムなどの「行動形態」でグループ化することです。このグループごとのデータが、価格や在庫コントロールにおいて非常に大きな判断材料となり、ひいてはホテルにおける営業、マーケティング等の活動につながる重要な指標となります。一般的に英語で「セグメント」とは区分を表し、それぞれの分野で異なった意味合いで用いられることも多いですが、レベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントは、おもに予約される料金帯に付随し、似たような行動形態を持つ顧客を区分することで、それをフォーキャスト、価格・在庫のコントロールにいかそうという試みです。

この顧客の行動形態を把握するために、ホテル業界において使われてきた最も基本的な2つのセグメント、それはグループ(Group)と個人(Transient)であり、さらには滞在の目的、ビジネスかレジャーかに準ずるもので、もともとは旅行者から滞在の目的を聞きやすかったということもあって、非常にシンプルで定義しやすいものでした。昔は宿泊予約を受注するチャンネルも非常に限られていましたから、大半を占められていた電話予約においては「ご旅行の目的をお聞かせいただいてもいいですか?」と簡単に聞くことができましたし、数少ない電子予約の1つであったGDSについては、予約時に付随する会社名とその料金の種類で、おおよそ滞在の目的を定義することができていました。

近年では、行動形態の区分を表すマーケットセグメントを、滞在の目的から特定することは非常に難しくなっていますし、またその境目も曖昧になってきています。昨今では「ブレジャー」(bleisure)と呼ばれるビジネスとレジャーを組み合わせた旅行形態も一般化していますし、予約方法も非常に多様化しています。例えば、従来はいわゆる企業向け年間契約料金(ビジネス目的)でホテルを予約していたような企業出張者も、OTAの料金(レジャー目的)などで予約するようにもなりました。このように、滞在の目的としてのビジネスとレジャーの境界線があいまいになり、また予約された料金タイプによっても滞在の目的を類推することが難しくなってきています。

では、チャンネルをマーケットセグメントとして管理してしまって良いものでしょうか?チャンネルについても、1つのチャンネルには様々な旅行客からの予約、いわば行動形態の予約を内包していることも事実です。マーケットセグメントが、顧客の行動形態でグループ化を行うという試みである中で、例えばOTAというチャンネル1つをとっても、その中にはレジャーとしてホテルを予約する人から、出張のためにホテルを予約する人もいるでしょう。一般的に、早めに予約をして価格に敏感であるレジャー目的の顧客と、直前の予約で、予算内であればあまり価格に敏感でない出張目的の顧客の行動形態は全く異なりますが、チャンネルとマーケットセグメントを同じものとしてくくってしまうと、それはそれで行動形態ごとへの異なったアプローチを難しくします。

従来のマーケットセグメントでの定義づけが難しくなっており、またマーケットセグメントとチャンネルなどを組み合わせた、新しいマーケットセグメントの定義も模索され続けていますが、結論として、私は1つの究極の定義づけを模索し続けるのではなく、マーケットセグメントとチャンネル、ソース(予約元)のデータをそれぞれきちんとわけて収集し、数字管理をすれば良いのではないかと考えます。それぞれの定義にもとづき、データを適切に収集、管理しておくことによって、マーケットセグメントのデータを基本としつつも、時にそれを補完する情報として、チャンネルごとの数字であったり、予約元ごとの数字であったりを個別に、また必要に応じて重層的に組み合わせて見ることは可能です。

少し大げさな例えですが、ある旅行客が「旅行会社を通して、自らが懇意にしているホテルのメンバー料金の予約を、ホテルの公式ウェブサイトから予約してもらった」場合、もしホテルに「ウェブ予約」というマーケットセグメントしかなければ、このデータは「ウェブサイトから予約した人」、つまり「どこを経由して予約したか」というチャンネルの一義的情報でしかありません。一方でマーケットセグメント、チャンネル、予約元のデータがそれぞれの定義に沿った形で個別に収集できていれば、「メンバー料金」で(マーケットセグメント)、「ウェブサイト経由」で(チャンネル)、「旅行会社から」(予約元)予約されたという3側面からのデータを取ることができ、それぞれの目的に沿った形で、また必要に応じてそれらを重ね合わせてデータを分析することが可能になります。したがって、マーケットセグメントの定義に関して多くの議論があることは確かですが、その新たな概念の設定に向けて終わりのない探求を続けるのではなく、その活用法を工夫すれば、それで十分に事足りるのではないと考えています

ホテル会計にユニフォームシステムが導入されているアメリカにおいては、この統一会計基準により、様々な会社の違うホテルのパフォーマンスを公平に比較することを可能にしておりますが、マーケットセグメントの定義についても、このユニフォームシステムにおいて明確に定義されています。レベニューマネジメントにおいても、ひいてはホテルとして、このユニフォームシステムに沿った会計報告が求められるわけですから、マーケットセグメントはこのユニフォームシステムに沿った定義がなされております。

日本において、このユニフォームシステムを採用しているホテルはまだまだ少数で、それがマーケットセグメントの定義をバラバラにしている大きな理由の1つでもあると思いますが、マーケットセグメントはレベニューマネジメントの手法においては常に軸となる考え方です。採用している会計基準は別にしても、適切なレベニューマネジメントを行うために、ぜひ、マーケットセグメント、チャンネル、ソースはきちんとわけてデータを収集、管理してほしいと思います。

特にチェーンホテルなどでは、会社としてマーケットセグメントが決められており(ローカルチェーンホテルについては、レベニューマネジメントの点から見ると、マーケットセグメントとチャンネルとソースが混合したものになっている場合が多いですが)、個別のホテルで、新たな定義づけとそれに基づいたデータ収集をすることができないという悩みもあるかと思いますが、それであれば、例え個別のホテルベースのものであっても、チェーン単位のマーケットセグメントとは別に、本来の意味でのマーケットセグメントのデータを1施設としてきちんと収集すべきです。それほど、マーケティングセグメントはレベニューマネジメントにとって決定的なデータの1つです。

レベニューマネジメントで使われるマーケットセグメントの定義の一例は以下の通りです。

エアライン(Airline):契約されているエアラインクルー向けの料金帯で予約された予約

コンソーシア(Consortia):コンソーシアエージェントが持つ料金帯で予約された予約

企業団体(Corporate Group):団体旅行(最大部屋数が1日あたり10室以上)で、企業契約料金帯にて予約された予約

政府団体(Government Group):団体旅行(最大部屋数が1日あたり10室以上)で、政府契約料金帯にて予約された予約

インセンティブ(Incentive):団体旅行で、企業などのインセンティブ目的である予約

ネゴシエート(Negotiated):契約されている企業契約料金帯にて予約される予約

パッケージ(Packages):朝食つき、スパパッケージなど、部屋代とその他の要素がパッケージ化されているパッケージ料金帯で予約される予約

リテール(Retail):誰でも予約することができるBAR料金などの一般料金帯や、エージェンシーモデル(コミッション後払い)のOTAなどを含む料金帯の予約

ネットリテール(Net Retail):マーチャントモデル(手数料マークアップ)のOTA用の料金帯の予約

ホールセール(Wholesale):契約している旅行ホールセーラーから受注する、契約ホールセール料金帯の予約

ノンクオリファイドディスカウント(Non-Qualified Discount):誰もが予約することができる一般料金帯で、上記のリテール料金より安い価格の料金帯の予約、例えば早割、連泊割など

基本的には「料金帯」という言葉に表されている通り、料金(レートコード)によって区分されているものが、レベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントです。

先に述べたように、レベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントは、ユニフォームシステムにおけるマーケットセグメントとほぼ定義を同じくしますが、例えばユニフォームシステムにおいては、上記のリテールとネットリテールの定義は同じ「リテール」として区分されます。一方で、レベニューマネジメントにおいては、同じOTAからの予約でも、あらかじめコミッションを引いた金額を設定する「マーチャントモデル」のもの(エクスペディアなど)と、滞在時には一般料金と同じ料金を支払い、のちにコミッションとしてOTAに支払う「エージェンシーモデル」のもの(日本のOTAやブッキングなど)は、その平均単価に大きな違いが出ることから、この2つを異なるセグメントのもとに管理しているなど、いくつか異なる管理をしているマーケットセグメントもあります。

行動形態ごとの仕分けを、予約される料金帯という視点から区分しているのがレベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントであり、現在の消費者の複雑な行動形態という観点からのこの分け方の正否は置いておいても、1つのある基準と定義に基づいたデータとして必ず収集したいデータ項目ですし、現在確立されているレベニューマネジメントの手法は、このマーケットセグメントを基本とした管理体系を取っています。

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