さて、レベニューマネジメントの仕事はなんでしょうか?先にレベニューマネジメントとは「適切な商品を、適切な顧客へ、適切なタイミングで、適切な価格で、適切な販売チャンネルを通して販売すること」だと申し上げました。要は販売戦略そのものに深く関与するのがレベニューマネジメントですが、この説明は少し抽象的かと思います。ここでは具体的にどういう仕事を行っているのか、例を挙げて説明したいと思います。

まず、レベニューマネジメントの仕事は大きくわけると「戦略的な仕事」(ストラテジック)と「戦術的な仕事」(タクティカル)な仕事にわかれます。戦略的な仕事とは、俯瞰的で中・長期的な方向性、目標の策定であり、それを達成するための設計、およびリソースの配分であると考えています。一方で戦術的な仕事とは、その方向性に近づくための細かいステップであり、戦略を踏まえたうえでの戦法といえます。ここで重要なことは、あくまでも戦術とは戦略を踏まえたものであるということです。戦略を立てずに、ただやみくもに戦術のみを一生懸命繰り出しているホテルをよく見かけますが、それは的の見えない、ただ当てずっぽうの方角に向かって、やみくもに矢を射っているようなものです。レベニューマネジメントにおいては、とかくこの戦術的な仕事ばかりが強調され、あたかもこの戦術的な仕事内容がレベニューマネジメントのすべてのような紹介をされることが非常に多いですが、これは全く正しくありません。むしろレベニューマネジメントの仕事は近年、急速に戦略的な役割にシフトしており、戦術的な仕事のウェイトは低下しています。ただ、日本においてはまだレベニューマネジメントの戦術的な仕事ばかりが強調され、この風潮が結果的に日本においてのレベニューマネジメントの価値が評価されにくい構造につながっているとすら考えています。

まずはレベニューマネジメントの戦略的な仕事について、いくつか具体的に見ていきましょう。

ストラテジック・プライシング(販売戦略)

販売戦略とは「明日のBAR料金をどうするか」、「今週の土曜日のBAR料金をどうするか」、「今後の年末のBAR料金をどうするか」といったことではありません。例えば「今後3年間で売り上げを20%上げていくために、どのようなアプローチが必要か」、「2年後、自分たちのホテルの隣に同等クラスのホテルが建設されるが、迎え撃つためにどのような戦略を取っていったらよいか」、「今年まで年間2,000室を送客してくれていた旅行会社の送客プログラムから、来年外れることになった。代わりのビジネスをどこで補填したらよいか」といった議題は、全てこの販売戦略の枠組みに入ってくるでしょう。プライシングという言葉が入っておりますので、価格設定と思われた方も多いかと思いますが、ここでは必ずしも「いくらで売ったら良いか」という、狭義の意味でのプライシングのみが命題とはなっていません。なぜならば、繰り返しになりますがレベニューマネジメントとは販売戦略そのものへの関与であり、いくらで売ったら良いかという具体的な価格の検討は、その販売戦略を構成する1つの要素にすぎないからです。したがって、ストラテジック・プライシングは価格戦略と解釈するよりかは、販売戦略と解釈した方がより自然でしょう。ここでは個々の作業についての解説は省きますが、この販売戦略はおもに以下の点を踏まえたうえでの検討と策定が行われます。

・マーケットセグメントのミックスの最適化とセグメントごとのアプローチ

・SWOT分析

・マーケットにおけるポジショニング(バリュー/料金査定)分析

・需要パターンの検討(シーズン単位、月単位、曜日単位、イベントなどの一過性需要の検討)

・顧客の予約・滞在パターンの分析(予約元、チャンネル、平均滞在日数、発地、リードタイムなど)

・顧客プロファイルとその情報の分析

・閑散期(ニードピリオド)の特定

・各部屋タイプや料金タイプごとの実績の分析

・全ての料金タイプの予約条件の再検討と見直し

・カスタマレビュー(顧客の評価)の分析