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自分のパイを知らぬ間に誰かに食べられていませんか?・2―フェアシェアがホテルに伝えること

前回の「自分のパイを知らぬ間に誰かに食べられていませんか?・1―マーケットシェアとフェアシェア」において、自らのホテルがマーケットにおいて取るべきシェアが取れているかを表す「フェアシェア」についてご紹介しました。説明では、販売部屋数を例に用いてフェアシェアの仕組みと考え方をご紹介しましたが、業界で広く使われている「稼働率の観点から取るべきシェアを取れているか」という指標をMPI (Market Penetration Index) とよんでいます。

MPI/ARI/RGIとは

a. MPI (Market Penetration Index): 稼働率の観点から取るべきシェアが取れているかを表す指標

計算式: 自らのホテルの稼働率/マーケットにおける稼働率

同じように同様の指標をADRとRevPARに当てはめることもでき、考え方はまったく同じです。

b. ARI (Average Rate Index): ADRの観点から取るべきシェアが取れているかを表す指標

計算式: 自らのホテルのADR/ マーケットにおけるADR

c. RGI (Revenue Generation Index): RevPARの観点から取るべきシェアが取れているかを表す指標

計算式: 自らのホテルのRevPAR/マーケットにおけるRevPAR

いずれの指標も、フェアシェアを取れている状態の数値を100とします。つまり、例えば数値が103であった場合、ホテルは取るべきシェアに加え、3ポイント多くのシェアを競合から奪っていることを指します。一方で数値が95の場合、ホテルは取るべきシェアを取れておらず、5ポイント分のシェアを競合のどこかに奪われていることを指します。

ここで、ある日の私のホテルと競合ホテルを含めたマーケットにおけるMPI/ARI/RGIの結果を1つの表にまとめてみました。皆さんもレベニューマネージャーになったつもりで、この結果からわかることを類推してみてください。

a. 私のホテル

マーケットサイズにおける部屋数の割合は100部屋と1番少ないですが、稼働率のシェアを表すMPIは104.4と、取るべきシェア以上の稼働率を確保できていることがわかります。ADRについても101.2と、取るべきシェアはきちんととれており、RGIも107.2であることから、私のホテルはマーケットでかなりの優位性を確保していることがわかります。

b. 競合A

該当マーケットにおいて1番部屋数が多い競合Aですが、MPIは101.6と稼働率においては取るべきシェアをきちんととれているようです。一方のARIは95.1とこのマーケットにおけるフェアシェアを取りきれていません。結果的にRGIは100を下回る97.9で終わっています。この結果からわかることは、競合Aは販売室数では健闘しているものの、ADRの側面においてはまだ取るべき販売機会があるということを示唆しています。

c. 競合B

競合BのMPIは108.8と稼働率のシェアは十分に取れているようです。一方でARIは98.2とふるいません。結果的にRGIは108.3と該当マーケットの中で1番のシェアを獲得しておりますが、この数字からは、必要以上の稼働の確保に走りすぎている可能性も読み取ることができ、稼働とADRのバランスについては少し見直す必要がありそうです。

d. 競合C

競合CのMPIは96.6と100を下回っており、本来取るべきシェアを私のホテル、競合A, 競合Bに取られている状況です。一方で、ARIについてはその取るべきシェアをきちんと確保しており、結果的にRGIにおいてもほぼフェアシェアに近い取り分を確保できています。

e. 競合D

競合DのMPIは82.7と、稼働率のシェアを大きく他のホテルに取られてしまっている状況です。ARIは104.3ですので取るべきシェアはきちんと取れていますが、MPIの大きなマイナス分を補うには十分とは言えず、RGIは87.4に沈んでいます。販売室数の確保に大きな課題があり、室数において自らのパイの取り分を取り返す戦略の策定が求められます。

いかがでしたでしょうか?このフェアシェアの観点から見るそれぞれのインデックスは、稼働率や平均単価、RevPARなどのそれぞれの絶対値を、単体で見るのとはまったく違った視点を私たちに投げかけます。

例えば、一見すると他のホテルと比べ高い稼働率を上げることができているように見えても、マーケットシェアの点から見ると十分なマーケットシェアを取れていなかったり、ADRのマーケットシェアは取れていても稼働のマーケットシェアは取れておらず、結果的にRevPARのマーケットシェアを大きく取りこぼしているという事も起こりえます。

マーケットの状況に左右されない指標

そして、このコロナのような「マーケットの状況が平時とまったく異なる時」にも客観的な指標としてその意義を提示し続けるのが、フェアシェアです。

今回のコロナのように、マーケットが何らかの事由により大きな影響を受け、稼働率などの指標が極度に落ち込んでしまった場合、「自らのホテルの稼働は30%でした、競合Aは40%でした、競合Bは35%でした」と数値の絶対値を比べたところで、それがはたして良いのか悪いのかはっきりしませんし、「みんなが悪いんだからしょうがない」といった結論に陥りがちです。

また、マーケットが異常な盛り上がりを見せているときはどうでしょうか?「自らのホテルの稼働は93%でした、競合Aは90%でした、競合Bは94%でした」という状況から「どこのホテルも稼働が90%を超えたみたいだし、うちも似たような水準だからよかったのかな」などと雰囲気でパフォーマンスを判断してはいけません。

このフェアシェアを表すインデックス、MPI/ARI/RGIの優れているところは、稼働や平均単価、RevPARといった絶対値に左右されないところです。例えば、今回のようにコロナが原因でマーケットが大きな影響を受け、どのホテルも稼働が著しく低い場合であったとしても、その少ないマーケットサイズの中でマーケットシェアが取れているか、取れていないかというインデックスは、厳然とその結果を示します。

どのホテルの稼働も低く、稼働率を比べただけでは「どのホテルのパフォーマンスも落ち込んでいる」と一言で片づけてしまいがちですが、このように、少ないマーケットサイズの中でも取るべきシェアが取れているかという指標であるフェアシェアのインデックスは、数値の絶対値が参考にならない時だからこそ、ぜひ活用したい指標の1つです。

もし、このコロナの状況においてもフェアシェアを取れているようであれば、今後、コロナがおさまって国内旅行が戻ってくる、国境が開いて訪日外国人の需要が戻ってきた際に、マーケットサイズの膨張とともにホテルのパフォーマンスも上がっていくことが期待されます。

一方で、現時点で既にマーケットシェアが取れていないようであれば、需要(マーケットサイズ)の大きさに関わらずそのホテルは取るべきシェアを取れていないという事を示唆し、今後、需要のより戻しがあったとしても、マーケット全体や競合ホテルほどの戻り幅を期待できない可能性もあります。

「今はコロナだからパフォーマンスが低くてもしょうがない」と一言で片づけるのではなく、マーケットシェアの観点から、自らのホテルや競合ホテルとのマーケット全体における立ち位置を継続的に確認することは、こんな時だからこそぜひ身につけたいスキルです。

陥りがちな落とし穴

ここまで、マーケットシェアの指標について、その意義や仕組み、特に現在のようにマーケットの状況が平常時と異なる際に参照にしたいということを説明してきました。一見すると万能の指標のようにも見えますが、それでも、このフェアシェアのインデックスは数ある1つの指標にすぎません。これら単独の指標は、あくまでも表面的な情報しか伝えていないということに留意し、これらの指標を含めて常に俯瞰的に判断する能力が求められます。

例えば、先ほど紹介した例で、競合DのホテルはMPIが82.7と大きく落ち込んでいる一方で、ARIは104.3を示していました。つまり稼働率のシェアはかなり大きく負け越している一方で、ADRのシェアは取るべきシェア以上を獲得している状況です。この結果を踏まえ「ADRに少し余力があるのであれば、一般料金、BAR料金を少し安くして、その分稼働のシェアを取りにかかれば良いのではないか?」という戦術は、多くの人が考えることなのではないでしょうか?

ADR ≠ リテール 料金

ここで注意しなくてはならない事は「ADRとリテール料金(パブリック料金、一般向けの販売料金)は決してイコールではない」という点です。一般料金とは、ホテルの数ある料金体系の中の一料金体系で、ある特定のセグメント(リテールセグメント)に出している料金体系をあらわし、一方のADRはすべての料金体系が合わさった複合的な結果です。

例えば「ADRが常に高いホテルは、パブリック料金、一般向けの販売料金が常に高い」ということは言えるでしょうか?該当ホテルのセグメントが非常に限られており、例えば受け入れているビジネスの100%がリテールセグメントのビジネスである場合、確かに一般料金とADRは大いに相関関係があるでしょう。一般料金が高ければADRも高いということは言えそうです。

しかし現実的に、ホテルは複数のセグメントからビジネスを受けています。それは、旅行会社への契約卸料金帯である「ホールセールセグメント」であったり、都市にあるホテルであれば、企業の年間契約料金である「コーポレートセグメント」でもあります。規模の大きいホテルであれば、団体予約である「グループセグメント」が占める割合も大きいでしょう。ADRは、あくまでも「これらすべてのビジネスの組み合わせから導き出される結果」であり、リテールセグメントのみの価格を表す一般料金、パブリック料金、BAR料金とは性質が異なるものです。

つまり、あるホテルのADRが高いからといって、それは決してホテルの一般料金が高いという事を意味しません。一般的にADRを下に引っ張る要因となる、コーポレートセグメントやグループセグメントの占める割合が少なければ、一般料金の価格体系に関わらず、おのずと全体のADRは高めで推移しますし、コーポレートやグループセグメントの割合が多いホテルにとっては、ADRを維持するために、逆に、リテールセグメントの料金、一般料金を高く維持しなくてはいけないかもしれません。一口に一般料金が高いといっても、その背景には様々なシナリオが考えられるわけです。

ホテルが最終的に叩き出してくるADRの背景には、その数字に至るまでにいくつもの要因が複雑に絡み合っており、それに対して、私たちが実際に自らの目で確認できる一般料金、リテール料金は、ADRの背景にあるいくつもの要因、そしてその構成要素の1つに過ぎません。そのADRやそれに関連する指標であるインデックスのみで自らと競合の状態を判断し、それにもとづく戦略を策定してしまうことは、どのホテルも陥りがちな、それでいて1番避けたい落とし穴の1つです。

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