自分のパイを知らぬ間に誰かに食べられていませんか?・1―マーケットシェアとフェアシェア

今日は月初、先月の結果をまとめていたあなたは、以下のような数字を取りまとめました。先月の実績は予算に対して2.9%上回り、対前年に対して12.8%上回りました。

(客室数:100)

対予算、対前年のいずれに対しても上回ったこの数字を、あなたはどのように考えるでしょうか?素晴らしい結果に終わったと考えますか?前年度を10%以上上回るような売り上げはなかなか達成できるものではありません。さぞかし満足していることでしょう。

しかし、ここで祝杯をあげる前に1つ考えてほしいことがあります。もし、あなたの競合ホテルが、あなたの実績を大幅に上回るような数字を達成していたらどうでしょうか。もしあなたの競合ホテルが、いずれも前年を20%以上上回るような実績を達成していたらどうでしょうか?そうなると話はまったく異なってくることでしょう。もはや祝杯どころではありません。なぜあなたのホテルは競合に比べて実績を大幅に伸ばすことができなかったのか、原因を突き止めたうえで総支配人に説明をしなくてはいけません。

ホテルのパフォーマンスの良しあしを判断する際は、常に内部指標と外部指標という独立した2つの指標を用いなくてはなりません。稼働率と平均単価の関係のように、それぞれの指標のみではパフォーマンスの正確な把握ができません(詳細は過去の投稿、ホテルパフォーマンス=稼働率>単価>売り上げを参照してください)。対予算や対前年といった自らの内部に依拠する内部指標と、マーケットの中でのパフォーマンス、競合と比較してのパフォーマンスといった外部指標、この2つの指標における自らの立ち位置を把握して初めて、自らのパフォーマンスを総合的に判断することが可能となります。

内部指標

既にご説明した通り、内部指標とは自らが設定しているホテルのKPIを指します。稼働率、平均単価、売り上げという指標はもちろんのこと、それらの値に対する予算やフォーキャスト、前年同月など過去の実績やそれに対する推移など、内部のパフォーマンス状況を指し示すすべての数値は内部指標に区分されます。

外部指標

翻って外部指標は、競合ホテルの情報、マーケットの情報など、自分たちのホテル以外がもたらす指標です。ホテルに限らず、すべての企業は多かれ少なかれ他社と競争環境にあります。また、それらの競合を含めた企業で成り立っている「マーケット」というものが存在します。それら競合のパフォーマンスの状況を指し示す稼働や平均単価、さらには競合と競い合っているマーケットシェアの割合など、外部の状況を指し示す数字や競争環境における自らの立ち位置をはかる指標、それが外部指標です。

競合ホテルの指標をはかる

「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉がありますが、戦いに勝つには、自分のことを知る以上に相手のことをよく知っていなくてはなりません。自らが設定している競合他社の稼働、単価、RevPARといった指標を常に把握し、競合との距離感を正しく見定めることによって、自らの立ち位置を測定することができます。競合他社を含むマーケット全体のトレンドをつかみ、自らがそのトレンドに逆行するような動きを見せていないか、また競合と同じ程度の成長を遂げているか、これらはいずれも、競合の立ち位置と自らの立ち位置を俯瞰的に見るために欠かせない測定です。

競合他社のパフォーマンス指標を入手するのは容易ではありません。競合に電話をしたところで教えてくれるはずもないですし、また、皆さん自身が競合他社に自らのパフォーマンス指標を開示することは、重大なコンプライアンス違反にあたる恐れがあります。さらには、お互いの稼働や単価などの実績、それらの推移などを競合と公式/非公式に交換することは、結果的に価格の透明性や競争性を薄め、場合によっては省庁などから談合やカルテルと認定されてしまうリスクもあります。

競合を含むマーケットデータの入手には、STRなどの独立した外部機関が提供しているデータを活用するようにしましょう。競合ホテルの個々のパフォーマンス状況がわからない形に処理されたデータを活用することによって、健全なデータの入手とその活用が保証されますし、数字を決められた同じ条件で等しく比べることができるという利点もあります。

例えば、STRにおいては提出する数字の定義が厳しく定められており、その定義に沿った数字の申告が行われなくてはなりません。例を挙げると、STRの定義において算出される稼働率は、厳密な意味での「販売室数」のみを指し、そこに無料の宿泊部屋(コンプ)や従業員の滞在部屋(ハウスユース)の室数を含めてはいけません。このように、この仕組みに参加する誰もが共通の条件にもとづいた数字を提出する環境がある一方で、もし単なる自己申告や人から聞いた情報などで得た数字は、その信ぴょう性、正確性、一貫性に疑問を抱かざるを得ません。

競合と指標を比べる

あなたはようやく、適切な方法で競合他社の指標を手に入れることができました。それによると、先月の競合他社の平均稼働は80%, あなたのホテルの稼働は82%でした。結果的に、あなたのホテルは競合より高い稼働率を上げることができたわけです。競合他社より高い稼働率を確保することができたわけですから、誰にも文句は言わせません。

常に水を差すようで非常に申し訳ないですが、ここで少し立ち止まって考えてもらいたいと思います。はたして稼働率を競合他社と同じ土俵で比べることが理に適っているのでしょうか?

各ホテルが有する部屋数は往々にして異なります。例えば、あなたのホテルは全客室数が100室である一方、あなたの競合ホテルAの客室数が500室であった場合、同じ80%の稼働率であっても販売室数は大きく異なります。あなたのホテルの月の販売室数は2,480室(100 x 31 x 0.8)、競合ホテルAの販売室数は12,400室(500 x 31 x 0.8)で、そこには実に5倍もの差があります。「ハコ」の大きさが大きく異なる中で、はたしてこのような稼働率の単純比較は公平であると言えるのでしょうか?

マーケットシェアとは

シェアという言葉があります。そのマーケットにおいて、どれだけの販売優位性を確保しているかという際に用いられる指標です。皆さんにとっての1番身近な例を挙げると、例えばビール会社はどうでしょうか。アサヒ、サッポロ、キリンといったいくつかのビール酒造メーカーがある中で、缶ビール市場における「アサヒのシェアは〇%, サッポロは〇%, キリンは〇%」というように、販売本数や売上高においてそれぞれの会社がどの程度の販売優位性を持っているのか、推し量ることができます。

ホテルにも同じ考え方を適用することができます。販売室数や稼働率をシェアという指標に表すことによって、競合と比べてどれだけ優位性が確保できているかを知ることができます。しかし、ここで考慮しなくてはならないホテルビジネス特有の事情があります。例えば先ほどのビール市場の例を出せば、ビールメーカーは自らの販売本数(もしくは売り上げ)が上がれば上がるほど、それが全体の伸びを下回らない限り販売シェアは増えていきます。そしてビール市場全体もどんどん拡大していきます。

一方のホテルビジネスはどうでしょうか。もちろん、各ホテルとも自らの販売シェアを増やすべく販売室数を伸ばしていくことはできるわけですが、それにもやがては終わりがきます。ホテルの提供客室数には制限があるからです。先ほどのホテルの例を挙げると、例えば客室数が100室のホテルの1か月の最大販売可能室数は3,100室/泊です。問い合わせが多いことを理由に、急遽お部屋を建造して、ある月だけ販売可能室数を4,000室にすることはできません。同様に、客室数が500室のホテルの1か月の最大販売可能室数は15,500室/泊です。

このように、販売容量の上限があらかじめ決まっているホテルビジネスにおいては、おのずと各ホテルで確保することができる販売シェアの割合、およびその最大マーケットサイズも決まってきます。そして各ホテルの客室数に応じた相応の販売シェアの割合、それをフェアシェア(Fair Share)とよんでいます。

下記の、私のホテルと競合ホテルとの表の例では、それぞれのホテルの客室数の総和である1,280がマーケットサイズ、すなわち同マーケットの販売容量の上限となります。私のホテルは、例えばビール市場のように、需要が多いからといって100室以上の販売をすることはできませんし、このマーケット自体に需要があるからといって、マーケットサイズが1,280から増えるわけでもありません。この特定のマーケットの最大マーケットサイズは、常に1,280部屋で固定されています。

そして、この決められたマーケットサイズの中での自らのホテルの客室数の按配分が、自分たちのホテルのフェアシェア、相応の販売シェアです。例えば、私のホテルは常に、全マーケットサイズに対する8%分の客室数を販売することで、取るべき販売シェア、フェアシェアを確保していることになります。

下記は、ある日のそれぞれのホテルの販売室数、マーケットサイズを表したシナリオです。私のホテルを含むそれぞれのホテルの、ある日の販売室数は下記の通りとなっており、この日の全体のマーケットサイズは981です。この981を、あらかじめ計算した各ホテルのフェアシェアの割合に当てはめたのが、右側のシェアという箇所に明記された数字です。あらかじめ計算されている「フェアシェア」と比べてどうでしょうか?例えば私のホテルと競合Aは、取るべきシェアであるフェアシェアと比べわずかに上回るシェアを獲得できています。つまり、「自らが取るべき取り分」をきちんととれていることになります。

一方で、競合Cと競合Dはどうでしょうか?いずれも自らのフェアシェアを下回っており、自らのフェアシェア相当分のビジネスを取れていないことを示しています。

このフェアシェアは、よくパイの絵を使って説明されます。例えば、丸いパイを4人で均等に分けようと思った場合、パイがきれいに4等分されることによって、それぞれのパイの取り分は均等に割り振られます。

もし、あなたの友達の太郎君が4均等分より大きなサイズのパイを取っていってしまった場合、ホールパイのサイズを大きくすることはできませんから、当然、そのしわ寄せが誰かにくるわけです。つまり、あなたを含む誰かのパイの取り分が、4均等分より少なくなってしまい、このケースでは4均等分以上のパイを手にした太郎君がフェアシェア以上を獲得している、そしてそのしわ寄せをくい、4均等分に満たないサイズのパイしか手にできなくなってしまった誰かが、フェアシェアを獲得していないということを表しています。