さて、2025年も残すところわずかとなりました。この1年を振り返って、皆さんの施設のパフォーマンスはいかがでしたでしょうか?日本市場全般的な観点では、旺盛な訪日需要に支えられて日本の宿泊市場は2025年も堅調に推移したと思われます。グローバルチェーンによる日本市場での施設数の拡大も引き続き続いており、国内外の投資家による宿泊市場に対する投資も依然として盛んな状況です。
一方で、明るいニュースだけではありません。相次ぐコストの上昇や人手不足は宿泊施設の新規計画を大きく圧迫しており、多くのプロジェクトで工期の中断、ないしは遅れが見込まれている状況です。それに伴い、特にグローバルチェーンなどはホテルを新規に開業する際、施設を一から建設するのではなく既存の施設を新たなブランドに衣替えするいわゆる「コンバージョン」により注力するようになっています。また昨今の周辺国との政治的緊張は、訪日旅行者の動向に大きな影響を受ける宿泊市場にも少なからず影響を与えています。
海外に目を向けても、宿泊市場はパンデミック後から続いていた大きな需要の伸びと比べ、明らかにその潮目は変わりました。特に北米においては今年後半からRevPARの伸びの鈍化が明白で、期間によっては前年を下回るという状況も出てきました。これにより、北米の宿泊市場の業績予想は大方下方修正されています。その中でも、特にミドルスケール、エコノミークラス(日本でいうビジネスホテル)の苦戦が目立っていると言われています。引き続き業績が堅調なプレミアム、ラグジュアリーセグメント、パフォーマンスに苦しんでいるミドルスケール、エコノミーセグメントという成長の二極化は、2026年以降、日本市場でも現れてくるかもしれません。
常日頃から宿泊施設で販売に携わっている皆さんは、クリスマスから年末年始にかけての数字固めも終わり、束の間の休息を取られている頃かもしれません。また、新たな期が1月から始まるという皆さんにとっては、既に2026年の数字をどう作っていくかという点に集中し、頭を悩ませていることでしょう。新たな期が1月から始まる施設にとってはもちろんのこと、4月から来年度が始まるという皆さんにとっても、この年末年始の期間は普段できないことを確認し次に備えることができる絶好の機会です。今年最後の記事では、レベニューマネージメントとしてそのような「1年に1回は確認しておきたいこと」をいくつか挙げてみたいと思います。
1、先1年分の在庫、料金出しが行われているか
この先1年にわたって既に在庫、及び料金の登録は終わっているでしょうか?在庫と料金をできるだけ早く出すということはそれだけ長いリードタイムを確保できるということで、長いリードタイムを確保できるということはそれだけ自らの「販売期間」が増えるということです。リードタイムは決してお金で買うことはできません。そのような点で、できるだけ早く在庫・料金出しを行い結果的に長いリードタイムを確保するということは、最強の武器であるとも言えると思います。
特に、欧米の訪日客のリードタイムは長いとされています。半年先、1年先の旅行計画をする人に訴求していく場面で、宿泊施設として商品を販売していないという状況は致命的で選択肢を検討するスタートラインにも立てません。よく「半年先や1年先の販売料金がまだ決まってないので販売できません」というお声をお聞きしますが、ここで重要なことはいくらで販売するかということではなく、そもそも予約ができるのか否かということです。もし販売料金が決まっていないのであれば、料金が決まるまで今年の販売料金をそのまま登録してください。もし今年の料金で販売することに懸念があるのであれば、今年の料金から10%程度上げた販売料金を一時的に登録しておけばいいだけの話です。繰り返しますが、ここで重要なことは「いくらで販売しているか」ということではなく、「既に販売をしている、予約ができる」という事実です。
販売期間を長く確保できるということは、それだけリードタイムを長く確保できると言うことです。リードタイムが長ければ、予約の積み上がり状況に応じてその途中途中でいろいろな手段を検討することができる余地があります。逆に短ければ検討する機会、および手段は限られますし、持ち札が少なくなった結果、直前になって慌ててプロモーションをやる、価格を下げるということにもつながりかねません。
常に1年先まで料金と在庫が登録されていて、予約できるような状況になっているか、これは誰もが取り組むことができる、それでいて非常に効果が高い取り組みといえます。
2、在庫の最適化が行われているか
各販売先に在庫はシームレスに(自動で、人の手を介さず)供給されているような状況になっているでしょうか?すなわち、在庫登録は各販売先ごとに施設が毎日手入力で入れていくものではなく、共通在庫として全販売先に同じ在庫が自動的に流れている必要があります。各販売先に在庫を任意で配分し、その数を手入力で入力していくということは、同時にそれだけ販売機会を毀損している可能性があるということの裏返しであるとも思います。
当たり前ですが、どの販売先で予約するかを決めるのは消費者であり、施設ではありません。施設としてこの販売先で予約してほしい、もしくはこの販売先では予約して欲しくないといった要望はあるでしょうが、それは残念ながら施設がコントロールできるものではありません。それをコントロールできると考える、コントロールしようとする「幻想」が各販売先ごとに任意に在庫数を割り振るという行動につながっているのだと思いますが、そのような「コントロールできないことを一生懸命コントロールしようとする」のではなく、消費者が予約を取りたいと思ったその瞬間に、その販売先にきちんと在庫と料金が供給されていることにより注意を向けましょう。
共通在庫の仕組みに作り変える、またPMSから各販売先に自動で在庫が供給される仕組みに作り変える(2-way)には手間もかかるでしょうし、場合によっては追加の接続費用もかかってくるかもしれません。しかし、在庫や料金が登録されていなかった、なくなっていたことにより「そもそも予約ができなかったこと」が原因である販売機会損失の影響を侮ってはいけません。少しの手間と費用で、1件ずつ予約を積み上げていく苦しみを軽減できるわけですから、その投資に似合う効果は十分に得られると思います。
3、施設のコンテンツは常に最新の情報に保たれているか
特に、レベニューマネージメントに関わる方は販売価格に非常に敏感です。一方、消費者が宿泊予約をする動機は必ずしも販売価格だけではありません。それどころか「その施設を紹介するコンテンツ」は予約転換における非常に重要な要素と言われています。
施設の基本情報は最新の情報になっているでしょうか。今年半ばに実施した修繕工事のお知らせがまだ掲載されたままなんてことはないでしょうか。写真は魅力的な写真が掲載されていますか。施設への口コミに対してはきちんと返信されているでしょうか。このような施設の情報1つ1つが消費者へのメッセージであり、その施設の価値を表しています。1年に1回は公式ウェブサイトはもちろんのこと、OTA、検索エンジンなどの各販売先の情報も含めて、すべてのコンテンツを再確認し最新の情報へ、より良い情報へアップデートしていく習慣をつけましょう。公式ウェブサイト上の「ニュース」欄は定期的にアップデートしているかもしれませんが、施設情報やアクセス情報、予約エンジンの部屋タイプ情報など、普段は「きちんとアップデートされていることが前提」となっていて、見向きすらしないコンテンツを今一度すべて確認してみると、案外古い情報や間違った情報が見つかるかもしれません。
繰り返し申し上げていますが、宿泊施設の販売は小さなことの積み重ねです。価格を大胆に動かすこと、画期的なシステムを導入すること、有料広告やプロモーションに参画することがすべてではなく、上記でご紹介したような「小さな心がけ」が確実に行われ、その積み重ねが知らぬうちに売り上げを着実伸ばしていく原動力となり、中・長期的な成長につながっているものです。また上記でご紹介したような「この先1年間の在庫・料金出しをする」、「コンテンツを再確認する」などは決して施設側の「金銭的投資」を必要とするものではありません。いくらお金をかけて広告を売ったりプロモーションに参画したりしても、肝心の在庫や料金が登録されていなければまったく効果はないですし、誤った情報や古い情報が掲載されていてはマイナスの影響を与えかねません。今しかできない、今だからこそできる「たった1時間の見直し」が、2026年の売り上げを左右するカギとなるのです。
