かつてプロパティ(施設)でレベニューマネジメントに関わっていたころ、社員通用口ですれ違ったある同僚から、このようなことを言われました。「先ほど郵便物を届けに経理部のオフィスにお伺いしたのですがいらっしゃいませんでした。またのちほど届けます」

またある時は、有名ホテルの総支配人を歴任した方にご挨拶をする機会を頂戴し、レベニューマネジメントにたずさわっていることを伝えたところ、「私はあまりレベニューマネジメントをよく思っていないんですよ。商品の価格を上げたり下げたりしてね、不誠実ですよ」と言われたこともあります。

このレベニューマネジメントという仕事は、例えホテルで働いている人にとっても、ほとんど知られていないといっても過言ではないと思います。正確を期すと正しく認識されていないといった方が良いかもしれません。かつての同僚のように、経理部で数字とにらめっこしている人と思われていたり、上記でご紹介した総支配人のように「レベニューマネジメントとは価格をコントロールすること」と誤解されることは日常茶飯事です。

社内では、総支配人から売り上げの成否をにぎる魔法使いのように扱われる場合もあり、売り上げが良くないときは「なぜ売り上げが上がらないのか(魔法を使わないのか)」となじられます。かといってその背景にある数字については、お互いに真剣に議論することはあまりありません。レベニューマネージャーは数字が意味することについてあまり積極的に伝えようとせずに、総支配人も半ば「数字オタク」とでも思われているようなレベニューマネージャーとあまり話をしようともしません。

ここで私は、レベニューマネジメントが正しく理解されていない現状を恨んでいるのではありません。なぜならばこの現状は、私を含むこの国でレベニューマネジメントにたずさわる全ての人間が、その価値を十分に伝えることができていないからであり、また残念ながらその真価を十分に発揮できていない結果だと考えるからです。そして、その仕事の特殊性ゆえ「どうせ説明しようとしてもわかってもらえないだろう」という姿勢がさらにレベニューマネジメントの仕事を特殊化させ、ますますその価値を伝えることができないという悪循環をうんでいます。

世界的な物理学者であるアルバート・アインシュタインは、かつてこう述べました。「You do not really understand something unless you can explain it to your grandmother」(あなたがそれをあなたの祖母に説明できるくらいでないと、何かを理解したとは言えない)また、アメリカ人の著者マイケル・クライトンは、専門用語が氾濫する医学書について「Highly skilled, calculated attempt to confuse the reader」(高度に仕組まれ計算された、読者を混乱させようとする企み)と表現しました。

レベニューマネジメントのような専門分野も、とかく専門用語を巧みに操ることによって自らの権威づけを行ったり、その分野の専門性をより際立たせようとする試みに数多く出会います。ただ、専門用語などを巧みに用いて、レベニューマネジメントを権威づけようとするこのような試みが続けられれば続けられるほど、それを理解しよう、理解したいと思っている人はどんどん離れていくのではないでしょうか。

私はこの場を通して、ホテルレベニューマネジメントをできるだけ多くの人にわかりやすく説明したいと考えています。実際に日々、レベニューマネジメントにたずさわっている方には、できるだけ実践的な内容を伝えていきたいですし、宿泊予約や営業の方、またレベニューマネジメントをこれから始める方、始めてまだ日が浅い方には「レベニューマネジメントとは、単に料金や在庫をコントロールすることだけではないこと」を伝えたいと思います。また、総支配人やオーナー企業の方には「なぜレベニューマネジメントが重要なのか」という点をお伝えしたいと思います。

そして何よりもレベニューマネジメントの価値がより幅広く認識され、その地位の重要性と真価が広く認められることを期待しています。