レベニューマネジメントに求められる資質とは何か、どのような人材を確保したらよいか、また優れたレベニューマネージャーとなるためにどのようなことを兼ね備えたらよいか、これは私自身もよく聞かれる質問の1つです。特にディストリビューションの領域がかつてないほど複雑化し、めまぐるしく変わる環境の中で、常に高度な専門知識が要求され、かつレベニューマネジメントの役割が日々のタクティカル(戦術的)な役目から、ホテルの中・長期的な方向性を見定めるストラテジック(戦略的)な役目にシフトしている中、このレベニューマネジメントにおける優れた人材の確保は近年ますます難しくなってきています。

最近は、日本に進出しているインターナショナルチェーンホテルでレベニューマネジメントを担当する人材を見渡しても、「エックスパッツ」と呼ばれる海外採用の外国人の人材が直接送り込まれるケースがより顕著になってきました。もちろんこういった外資系ホテルも、まずは日本での現地採用を念頭に人材を探すものの、最適な人材を見つけることが叶わないゆえ、最終的には非常に高額なコストをかけても、海外から人材を連れてこざるを得ない状況になっているということだと思います。特に日本の国内ホテルにおいては、いわゆる「メンバーシップ型」と呼ばれる雇用形態が主流となっており、数年単位でその役職がローテーションしていくことから、強い専門性と常に世界の先進性についていかなくてはならないスピードが要求されるレベニューマネジメントの分野において、なかなか優れた人材が育ちにくいという点もぜひ、留意しなくてはならない点だと思います。

私はよく「やはり数学が得意なのですか?」ということを聞かれます。「正直言って私は数学は得意ではありませんでしたし、余弦定理を使用してフォーキャストを立てるときはいつも吐き気を催しています」といつも冗談で返していますが、レベニューマネジメントのスキルに数学といえるような高度な知識は要求されません。いわゆる算数レベルの知識で十分に事足りますし、実際の計算は電卓やエクセルがすべて自動でやってくれます。もちろん「数字を見るだけで嫌です」という方には少し難しいかもしれませんが、数学・算数のスキルというのは特に必要だとは考えていません。またレベニューマネージャーの募集要項を見ているとよく目にする「PMSのスキル」「サイトコントローラーのスキル」についても、私個人的には必ずしも必要なものだとは考えておりません。もちろんそういったスキルはあるにこしたことはないとは思いますが、レベニューマネージャーにはそれにもまして必要な「資質」があります。

まずは、スキルと資質の違いについてはっきり区別しておきましょう。資質というのはその人に備わっている能力、適性であり、ホテルの業務とはおおよそ関係ないところで、その人間を方向付けるものだと思います。「あの人は何事にも積極的である」「あの人は緻密である」といったことはすべて資質であるといえます。一方でスキルというのは技能を表し、ある仕事や活動を通して獲得していくものです。エクセル、PMSの知識があるか、操作できるかについてはすべてスキルに該当します。このスキルについては、学習を通していくらでも身につけることが可能で、例え新しく採用した方がホテルで使用しているPMSのスキルがなくても、その使用方法について学び、毎日触れることによって、そのスキルは自然と獲得していくことができるものです。その一方、資質というものは一朝一夕で獲得できるものではなく、おのずとその人間を形作っているものになるため、入社後に学習をして学んでいく、身につけていくものではありません。したがって、レベニューマネージャーとしてPMSのスキルや、他にも使いこなさなくてはならない様々なツールの操作の習熟度の度合いについては、もちろんあるに越したことはないですが、いずれもレベニューマネージャーの資質を問うものではなく、その優先順位は高くありません。

私がレベニューマネージャーの資質として最も重要だと考えるもの、それは「人に伝える力」です。人にものを伝えるためには、ただ、人と話すことが好きであればいいというわけではなく、まず自分の中でその対象を完全に咀嚼し腹落ちさせ、わかりやすい言葉に置き換え、ストーリーを伴って相手に伝達する必要があります。レベニューマネジメントでは、その業務内容の中で多くの数字に接します。「3か月後の4月の予算稼働は80%ですが、現時点でのフォーキャストは70%です」、これでは単に事実の数字を列挙しているだけに過ぎません。レベニューマネージャーに期待されることは、その背後にあるストーリーの組み立てであり、なぜ予算を下回ってしまう見込みなのか、取り戻すためにどのようなことができるのか、という一連のストーリーとシナリオを提示し、皆に腹落ちしてもらうことです。人は、単に事実や目標を伝えられただけでは動きません。各々の中で一連の事象がすべて咀嚼され納得した結果、人は初めて腹落ちし、自発的に行動するようになります。レベニューマネージャーに必要とされる資質、それはホテルにおける戦術、戦略を発信する司令塔として、提示される数字から様々なシナリオを描き、さらにそこから腹落ちするストーリーを組み立て、それをわかりやすく発信していく、この一連の「人に伝える力」であり、これは今の日本のホテルにおけるレベニューマネジメント全体が必要としている資質といえると思います。どうしても、レベニューマネジメントにおいては、そのスキルばかりが偏重される傾向がありますが、レベニューマネジメントはホテル全体を進むべき方向へ導いていくためのドライバーとなる存在であり、その車輪をまわすために欠かせない資質、「人に伝える力」を備えている必要があるといえます。