うちは特別だから一般的なレベニューマネジメントの適用は難しいー はたして本当なのか?

言うまでもないことですが、宿泊施設には様々な業態が存在します。代表的なものでいうと、ホテル、旅館、ホステル、ドミトリーといった宿泊形態の違いにより分類されるものから、シティホテル、リゾートホテルといった宿泊施設の立地の特性により分類されるものもあります。さらには客室数の観点から大規模施設、中規模施設、小規模施設といった分類をする場合もあります。

今までの自身のキャリアを振り返ると、私は300室を超えるシティホテルでのレベニューマネジメントから同じシティホテルでも80室程度の施設、さらには30室程度のリゾートホテルでのレベニューマネジメントも実際に経験してきました。その中でしばしば会話として取り上げられたものとして「30室のレベニューマネジメントはオオバコに比べると楽でしょう」でしたり「リゾートホテルはなかなかシティホテルに比べると勝手が違うので難しいよ」といった、業態の違いによるレベニューマネジメントに関する点があります。今日は「シティやリゾート、客室数、業態といった宿泊施設独自の特性によりレベニューマネジメントはどのように異なるのか」というテーマを取り上げてみたいと思います。

先に私自身の見解を述べてしまうと、私自身は客室数や立地の特性、業態が異なるということにより「レベニューマネジメントが適用できない」「特有のレベニューマネジメントが必要である」といった特別な事情が存在するとは思いません。レベニューマネジメントとそのセオリーは普遍的な考え方です。リゾートだから、旅館だからといってレベニューマネジメントが適用できない、適用するべきでないとは一切思いませんし、むしろそのように特別視すること自体が宿泊施設の売り上げ、その価値を最大化するというレベニューマネジメントの考え方の妨げになると考えています。「うちはなかなかレベニューマネジメントを適用するのが難しくて」という施設のお話をお伺いすると、その施設のビジネス特性がそのような考え方を生んでいるというよりかは、その施設特有のオペレーションや、売り上げに対するどこか固有の考え方がレベニューマネジメントの考え方と相容れないものになっているというケースが多いように感じます。

オオバコだとレベニューマネジメントに取り組みやすい、小規模施設だと取り組みにくい(その逆もしかりですが)という考え方についても、実際に両局面を経験してきた立場として、そのような違いはないと断言することができます。客室数が多い施設も少ない施設も「その施設全体の売り上げを最大化しなくてはならない」「1室1室を販売していかなくてはならない」という事実は変わりません。つまり取り組まないといけない課題やプロセスはほとんど同じで、小規模施設だからこれはやらなくていい(プロセスを簡素化できる)、大規模施設だからこれはやらないといけないといった、客室数の大小によるレベニューマネジメント業務量や質の違いはありません。

また、シティホテルしか経験してこなかったレベニューマネージャーがリゾートホテルのレベニューマネジメントに苦労する、大規模施設のレベニューマネジメントしか経験してこなかったレベニューマネージャーは小規模施設や旅館のレベニューマネジメントができないかというと、そのようにも考えていません。私は、優れたレベニューマネージャーはより多くの引き出しを持っているものと考えています。自身が担当する施設の特性やマーケットを理解し、運営主体の意向や特性を踏まえたうえで、売り上げを最大化するためにどの引き出しを開けてそれらを組み合わせていくか、これが優れたレベニューマネージャーである所以で、「自分はシティホテルのレベニューマネジメントしか経験がないのでリゾートホテルのレベニューマネジメントはできません」「自分はビジネスホテルのレベニューマネジメントしか経験がないのでラグジュアリーホテルのレベニューマネジメントはできません」というのは理由として成り立たず、残念ながら単にレベニューマネージャーとしての引き出しが少なく能力が足りないということに過ぎないと考えています。

誤解がないようにきちんと申し上げておきますが、ここで私は「宿泊施設である以上、どの施設であってもまったく同じレベニューマネジメントのやり方が適用できる」とは申しません。言い換えると、業態や宿泊施設のロケーション、ホテルクラスや部屋数により上記で挙げた「異なる引き出し」が必要になるのは自然のことで、これも「レベニューマネジメントの数あるテクニックの中からどの引き出しを開けどのような組み合わせで実行していくか」というごく一般的なレベニューマネジメントの範疇内で対応できるもので、一般的なレベニューマネジメントのやり方がある特定の業態、ロケーションの宿泊施設には適用できない、するべきでないといった、レベニューマネジメントの普遍性を否定するものであってはならないと思います。

例えば、過去にも何回も言及してきましたが、レベニューマネジメントにおいて非常に重要な考え方の1つがマーケットミックスです。各々の宿泊施設が持つマーケットミックスは、その施設の現在のパフォーマンスの状況と売り上げ最大化の可能性を判断するバロメーターです。昨今はどの宿泊施設も平均単価の向上に余念がないですが、平均単価向上のカギとなるのはBAR(ベストアベイラブル)料金を上げることではなく、現在のマーケットミックスとその見直しです。そしてこの考え方はレベニューマネジメントの代表的な考え方の1つで非常に普遍的なものです。大規模施設であれ小規模施設であれ、シティホテルであれリゾートホテルであれ、自分たちの現在のマーケットミックスがどのようになっているのか、それを今後どのように変えていくのか、変えていきたいのかで、その施設の今後の成長シナリオがおのずと描かれてきます。

シティホテルとリゾートホテルでマーケットミックスが大きく異なるのはよく知られた話です。特に離島の大規模リゾートホテルについては、飛行機との組み合わせ、また客室数規模をいかした手法を取られることが一般的で、ホールセールビジネスや団体ビジネスの割合が高くなりがちです。一方で、それゆえにイールダブル(料金の上下コントロールが可能なセグメント)ビジネスが少なく、在庫の変動、ウォッシュ率が高くなるゆえ、なかなか平均単価を上げることができないという悩みもよく聞きます。まず注意したいのは、この状況は大規模リゾートホテルというロケーションや業態が生むものではありません。つまり大規模リゾートホテルであればすべてがそうである、このような状況が宿命づけられているということではなく、あくまでもその施設におけるマーケットミックスの結果がそのような状況を生み出しているにすぎません。施設の意向によりイールダブルビジネスの割合を上げることはできますし、例えホールセールビジネスや団体ビジネスの割合が高くても、それらのセグメントを「よりコントロール可能な状況にもっていくこと」は十分可能で、ホールセールビジネス・団体ビジネスの割合が多い=ウォッシュ率が高い、単価を上げる妨げになるので平均単価の上昇に伸び悩むのはやむを得ないという考え方は誤りです。

客室数の規模の違いにより、レベニューマネジメントの取り組み方に違いがあるとも思いません。これも、組み合わせるマーケットミックスが異なることにより結果的にビジネス構成が大きく異なるというだけの話で、ホールセールビジネスや団体ビジネス、コーポレートビジネスといった束(バルク)のビジネスをよりダイナミックに動かしていくことができる大規模施設と、イールダブルビジネスの割合が高く1件1件の予約を細かく丁寧に管理しなくてはならない小規模施設の違いによるものです。また繰り返しますが、大規模施設だからこうしなくてはいけない、小規模施設だからこうしなくてはならないというものはなく、組み合わせるビジネスミックスの結果とそのビジネスミックスに応じたレベニューマネジメントの取り組み方が各施設ごとのパフォーマンス結果として表れているにすぎません。そしてそのビジネスミックスの組み合わせを考えて実行するのは、他でもないその施設自身です。

レベニューマネジメントは、そのセオリーがどの宿泊施設にも適用できる非常に普遍的な考え方です。例え施設の業態や部屋数、ロケーションやホテルクラスなどが異なっても、その論理的な考え方はすべての宿泊施設に同じように適用可能で、その数あるセオリーや手法の中から、どの引き出しを開けてどのように組み合わせていくかで宿泊施設の売り上げは大きく明暗を分けます。「自分たちの施設は一般的なレベニューマネジメントが適用できない」「自分たちの施設は特別なレベニューマネジメントをしないと売り上げをあげられない」という考え方は、往々にして自施設の固有のオペレーションに固執する結果レベニューマネジメントの恩恵を十分に受けることができていない、以前からの固定観念や過去の強い経験が自らのビジネスをより複雑なものにしていて、結果的に特別なやり方を確立してしまっている、それがベストだと思い込んでしまっているという場合も多々あり、これらは決してレベニューマネジメントを適用できないということではなく、自らレベニューマネジメントの受け入れを拒否する状況を作り出しているとすら言えるのかもしれません。

誰もが「自分たちの施設のビジネスは特別だ」と考えるのはごくごく自然のことです。しかし時にはその特別視が新たな成長の可能性の芽を摘んだり、成長できる視点を自ら捨ててしまうことにもつながりかねません。自分たちの施設には特別なレベニューマネジメントが必要だ、一般的なレベニューマネジメントの考え方は適用できないと思うことがあれば、少し立ち止まって、それとは逆の考え方「レベニューマネジメントを適用させるには、現状のオペレーションや考え方をどのように整理していったら良いのか」という視点で考えてみるといいと思います。レベニューマネジメントはどの施設にも必ず適用できる普遍的な考え方であり、その視点を持つことが、皆さんの施設にとって大きな恩恵をもたらす第一歩になるはずです。