前回の「Art and Science、フォーキャスト(1)」では、レベニューマネジメントに欠かせない基本的作業の1つであるフォーキャストについて、その概要を説明するとともに、異なる目的で使用されるいくつかのフォーキャストについてご紹介しました。ここからは具体的にそれぞれのフォーキャストについて、その目的や作成方法などを取り上げていきます。今回はフォーキャストの中で最も重要なもの、ディマンドフォーキャストです。

前提条件、適切なマーケットセグメントの設定

ディマンドフォーキャストについてご紹介する前に、フォーキャスト全般を作成するにあたっておさえておきたい前提条件があります。それは「適切なマーケットセグメントが設定されており、その定義に沿ってデータの収集が行われていること」です。

フォーキャストは何の種明かしもなく、まるで魔法か占いのように「〇月〇日の販売室数予測は〇室、平均単価は〇円、売り上げは〇円」といきなりホテル全体のフォーキャストが導き出されるわけではありません。フォーキャストを立てるにあたっては、各マーケットセグメントごとの室数、単価、売り上げ予測を算出し、これらマーケットセグメントごとのフォーキャストの総和が、すなわちホテル全体のフォーキャストとなります。

なぜマーケットセグメントごとにフォーキャストするか

マーケットセグメントごとにフォーキャストを算出し、その総和を全体のフォーキャストとしていくアプローチが取られる理由、それはマーケットセグメントの特徴にあります。先に「“ウェブ予約”や“海外個人”はマーケットセグメントか?―マーケットセグメントとは」でご紹介した通り、マーケットセグメントとは「顧客を旅行の目的や価格感応性(敏感性)、リードタイムなどの行動形態ごとにグループ化したもの」です。おもに料金タイプを基準に区分されることが多いですが「同じ行動形態を持つ顧客をグループ化する」というマーケットセグメントの特徴、つまり同じマーケットセグメント内においてはその行動形態が似ているゆえ予約のパターン(ブッキングペース)やその単価などが似通っており、それがより正確なフォーキャストを可能にするわけです。

マーケットセグメントが設定されておらず、いきなりホテル全体のフォーキャストを算出する場合、また例えマーケットセグメントが設定されていたとしても、その定義が「チャンネル」や「予約ソース」など、必ずしも「同じ行動形態を持つ顧客ごとに区分されていない」場合、まとまりや一定のパターンがない要素から全体のフォーキャストをすることに伴う困難、またそのように導き出されたフォーキャストの正確性に対する疑念は、皆さんも容易に想像できると思います。

同じ行動形態を持つグループであるマーケットセグメントごとのフォーキャストは、より正確なフォーキャストを作成するためには欠かせないアプローチであり、そのための適切なマーケットセグメントの設定とそれに基づく適切なデータ収集がなされていることの必要性は言うまでもありません。

アンコンストレイントディマンドとは

前回少し触れましたが、ディマンドフォーキャストは「アンコンストレイントディマンド(Unconstrained Demand)」を予測します。このアンコンストレイントディマンドという考え方はレベニューマネジメントにおいて非常に重要な考え方です。私がまだレベニューマネジメントを勉強し始めて間もないころ、海外の書籍でこの言葉を初めて目にしましたが、自分の中でこの概念が腹落ちするまでに少し時間を要しました。今回は皆さんにとってその時間が少しでも短くなるよう、できるだけわかりやすく説明していきたいと思います。

既に何回も触れている通り、ホテルをはじめとする宿泊業のビジネス形態は「受け入れ容量に限りがあるビジネス」です。それは総客室数であり、言い換えると総客室数以上の受け入れは例え要望があったとしてもできません。100室の総客室数を持つ宿泊施設は、年末年始のかき入れ時に問い合わせが300室分あったとしても、その中の100室分しか予約を受け入れることができません。この「ホテルの容量などの販売制約を考慮しないすべての総需要(ディマンド)」、これをアンコンストレイントディマンド(Unconstrained Demand)と言います。

いずれにせよ、300部屋の総需要のうちホテルは100部屋分の需要しかまかなえないわけですから、そのうちの200部屋分は直接的、間接的に需要を抑制することになります。この需要の抑制は様々な方法で行われます。例えばホテルへの予約依頼の電話に対し「あいにく全館満室でございます」とお断りしたり、OTAの在庫を引き上げて予約が取れないようにしてしまうことで需要を抑制します。また「年末年始は最低3泊のご予約から承ります」といったステイコントロールであったり、需要が旺盛なことを理由に価格をあげるレートコントロールによって、その条件に合致しない需要を意図的にはじき、需要を抑制します。また宿泊施設の人員配置や食材手配の都合で、空室に関わらず一定数の需要を制限せざるを得ないこともあるかもしれません。これも需要の抑制にあたります。

このような様々な需要抑制を一切考慮せずに、マーケットの純粋な需要のみで表される指標、それがアンコンストレイントディマンドです。一方、先ほどの例でいう100部屋はコンストレイントディマンド(Constrained Demand)と言います。様々な需要抑制の施策が行われた結果、そして何よりも総客室数という言わば「最大の抑制要因」を考慮した上で得られる需要指数です。

ですから「100部屋のホテルの〇月〇日のフォーキャストは450部屋」といった予測が立つのがディマンドフォーキャストです。一方で、先に「ディマンドフォーキャストと比べてより現実に即したフォーキャスト」としてご紹介したレベニューフォーキャストはコンストレイントディマンドにもとづいて算出します。つまりレベニューフォーキャストは販売予測が90部屋(90%), 95部屋(95%)などとなり、ホテルの物理的容量である100部屋を超えることはありません。まさに「実際を反映したフォーキャスト」そのものなのです。

また「ディマンドフォーキャストとはすべてのフォーキャストの基礎となる」とも申し上げました。のちに紹介するストラテジックフォーキャスト、およびレベニューフォーキャストはこのディマンドフォーキャストをもとに作成されます。

アンコンストレイントディマンド、総需要を把握する(ディマンドフォーキャスト)

導き出された総需要を踏まえ、売り上げを最大化できるようなシナリオを検討する(ストラテジックフォーキャスト)

上記で検討される施策を踏まえ、容量を考慮した現実的な需要予測を行う(レベニューフォーキャスト)

またこれら3種類のフォーキャストの目的が異なるのと同様、それぞれのフォーキャストの共有対象も異なるでしょう。例えば総支配人やホテルのオーナーにディマンドフォーキャストを共有する必要はあるでしょうか?100室のホテルであるにもかかわらず「〇月〇日のフォーキャストは450部屋です」と報告をしても、総支配人は面食らってしまうだけです。ディマンドフォーキャストはレベニューマネジメントチーム内で共有され活用されるもの、レベニューフォーキャストはより幅広い部署に共有されるものと、それぞれの目的に沿ってその共有対象が異なることも留意しなくてはなりません。

正確、かつ継続的なデータ収集

ディマンドフォーキャストは下記の4つの大きな要素の総和です。

Transient Bookings (個人予約)On the book (オンハンド)

+

Projected Transient Bookings (これから予測される個人予約)

Group Bookings(グループ予約)On the book(オンハンド)

+

Projected Group Bookings (これから予測されるグループ予約)

=

 ディマンドフォーキャスト

この4つの大きな要素はさらにマーケットセグメントごとに細分化され、実際のフォーキャストはそのマーケットセグメントごとに立てていきます。

フォーキャストは過去の予約パターンや現在の予約ペース、そして現在のマーケットトレンドを考慮して立てていきます。したがって、正確なフォーキャストを立てるにはあらかじめ、過去のデータを中・長期的に継続的に収集しておく必要があります。またそのデータ収集は当然、きちんとした定義にもとづいた正確なものでなくてはなりません。ディマンドフォーキャストを立てる際に事前の正確なデータ収集が必要となる代表的な指標には下記のようなものがあります。

  • Room Nights(Transient/Group)/ ルームナイツ
  • RevPAR/ レブパー
  • Revenue/ 売り上げ
  • Out of Order/ アウトオブオーダー(販売不可部屋)
  • Complementary/ 無料宿泊部屋
  • House Use/ ハウスユース
  • Cancellations/ キャンセル
  • Lead time by market segment/ マーケットセグメントごとのリードタイム
  • Arrivals/ 到着数
  • Departure/ 出発数
  • Walk-in/ ウォークイン
  • Early Departure/ アーリーディパーチャー
  • Length of Stay by market segment/ マーケットセグメントごとの平均滞在日数
  • Denial/Regrets/ ディナイアル、リグレット
  • Group Wash/ グループのキャンセル、減室
  • Rate Change/ 料金変更の頻度やその度合い

繰り返しますが、ディマンドフォーキャストでは容量にとらわれない総需要を予測します。したがって普段、皆さんにあまりなじみのない指標もあるかもしれません。いくつか解説しましょう。

(キャンセル)

キャンセルとは文字通り、取り消しになった予約です。取り消しになった予約をなぜわざわざ記録する必要があるのか、それはキャンセル予約がれっきとしたアンコンストレイントディマンドの一部だからです。

キャンセルという予約状態はあくまでも結果に過ぎません。もともとは実績として記録される可能性のあった予約が、何らかの理由で最終的に取り消しになったものです。つまり、取り消しになったというその最終的な結果は置いておいたとしても、一度は需要の一部としてホテルが獲得したものに違いはありません。

もしある特定の滞在日に対してあらかじめキャンセル数が多いことがわかっていれば、ホテルはそのキャンセル数を考慮したうえで予約を受け入れることができます。このアプローチが特に活用されるのはピークシーズン時です。例えばどのホテルも需要のピークを迎える年末年始の宿泊、12月31日の滞在において30部屋分のキャンセルがあることがわかっていれば、あらかじめ30室分多く予約を受け入れることによってキャンセルによる損失を最小化することができます。

(マーケットセグメントごとのリードタイム)

同じ行動形態を持つ顧客がグループ化された各マーケットセグメントでは、それぞれのリードタイムも大きく異なります。一般的によく観察できるものは、おもに企業の出張予約のセグメントであるコーポレートセグメントはリードタイムが短め、航空券や新幹線などのいわゆる「アシつき」の予約が多いホールセールセグメントなどはリードタイムが長めといった特徴です。

マーケットセグメントごとのリードタイムをきちんと把握していれば、それはおのずと「これからどのようなセグメントの予約がどのようなペースで入ってくるか」といった予測の把握にもつながります。「既に到着の2週間前だけどこれからコーポレートセグメントの予約はさらに伸びる」といった詳細な状況把握につながり、より正確なフォーキャストへとつながります。

次回もディマンドフォーキャストについて続けます。