ここまで、フォーキャストを行う上で参照する要素をいくつか紹介しました。フォーキャストとは、予約行動の中に見られるいくつかの要素からトレンドやパターンを見出だし、それを未来の予測に当てはめる手法です。その要素として、曜日別、シーズナリティ、滞在日数、リードタイムという参照するべき要素をご紹介しました。
しかし実際には、上記で述べた各々の要素について、ひとくくりでパターンを見出だそうとしてもかなり難しいと思います。例えば、500室を有する施設の6月1日(土曜日)の稼働が80%の時、販売室売数は400室ですが、上記の「曜日・シーズナリティ」という要素を踏まえると「6月の土曜日の予約パターン」という側面で観察を行う事となるものの、ひとくくりに6月の土曜日といっても実際は400室分の異なる予約で構成されているわけですから、それをすべて同一視して1つのパターンを見出だそうとするのは、なかなか強引な作業になってしまうでしょう。
予約条件や予約行動を踏まえたグループ化とは
ここで有効になってくる作業が、観察対象(400室)を1つのくくりとしてみるのではなく、より細かくグループ化することによって、データをより見やすくしようという作業で、この作業によりデータははっきり見えるようになり、そのパターンも見やすくなってきます。
ここでいうグループ化とは、部屋タイプ(スタンダードの部屋/スイートのお部屋)ごと、ベッドタイプ(シングル/ダブル/ツイン)ごとといったグループであり、先に述べたマーケットセグメントごとのグループが該当します。(ここでいうマーケットセグメントとは、あくまでもレベニューマネジメント上の定義にもとづく適切なマーケットセグメントです。適切な定義づけがされていない場合には予約行動に基づいた需要予測ができない、つまりフォーキャストはできません)
マーケットセグメントのグループ
まずはマーケットセグメントごとのグループです。ここではマーケットセグメントの説明は省きますが(マーケットセグメントについては過去の投稿を参照してください)、先ほどの「6月1日(土曜日)400室の販売室数」という曜日・シーズナリティの要素を観察する際、一括ではなく、それをマーケットセグメントごとに細かく分類して観察してみましょう。その視界はかなり明るくなるはずです。
例えば「コーポレート」(企業出張予約)というセグメントがありますが、上記の400室の中からコーポレートセグメントだけを抜き出してそのパターンを見出だそうとした場合、そこにある程度の類似性、パターンが見えてこないでしょうか。6月の土曜日、コーポレートセグメントの予約の積み上がりである「ブッキングカーブ」は、どのような弧を描いていますか。その積み上がりの要素となるリードタイムの傾向はどうでしょうか?またそもそもの予約ボリュームに、6月の土曜日の特有のパターンは見いだせないでしょうか。
部屋タイプやベッドタイプごとのグループ
次は部屋タイプというグループで、各要素を見てみましょう。多くのホテルでは、部屋カテゴリーごとに需要の増減や予約行動がある程度パターン化しているはずです。例えば私が以前従事していたホテルでは、年末年始や桜の時期など、インバウンドを含めたファミリーの需要が高まるときには、上位部屋カテゴリーの需要が高まりました。家族での利用という背景から、スイートを含むコネクティングルームの需要も高まる時期だったからです。一方で、平日の企業出張予約需要が高まる週中などは、企業出張レートの対象であるスタンダードの部屋カテゴリーの需要が大きく高まりました。
同じように、6月の土曜日という要素を一括で見ようとするのではなく、部屋タイプごとである「スタンダードルームのパターン」や「スイートのパターン」などというように部屋タイプごとに分類すると、そこには異なったパターンがよりはっきりと見えてくるかもしれません。
またベッドタイプというグループに分類することによっても、各要素において違ったパターンが見えてくる可能性があります。
各グループや各要素を複合的に観察する
ここまでは、曜日・シーズナリティ、宿泊日数といった要素を、全体の販売室数という大きな1つのくくりで見るのではなく、さらにマーケットセグメント、部屋タイプ、ベッドタイプといったグループに分類して見ることによって、より鮮明に特徴的なパターンを見出だすことができるようになるというご紹介をしました。
さらにもっと言うと、これらは上記の単一的な側面のみならず、複合的にすら観察することができます。例えば6月の土曜日(曜日・シーズナリティ)の、3泊(宿泊日数)の、スタンダードルームのキングベッドタイプ(部屋タイプ・ベッドタイプ)の、リテールセグメント(マーケットセグメント)という組み合わせで、1つのパターンが見いだせるかもしれません。もちろん、それはさらに7月の月曜日であったり、1泊であったり、パッケージセグメントであったりといった多くの形に派生し、それぞれに違ったパターンを見出だすことができるはずです。
上記の手法をひたすら繰り返し、そこから共通するパターンを見つけ出すことによってそれを将来のシナリオに適用していくことで、ディマンドフォーキャストが出来上がってきます。(ディマンドフォーキャストについては過去の投稿を参照してください)一方、実際に上記の手順に沿ってフォーキャストを作成しようとしていくと、現実的には途方もない作業量になってくるとも言えます。複数にわたるそれぞれの各要素の観点において、それをマーケットセグメントや部屋タイプ・ベッドタイプごとのグループ別に観察していくわけですから、参照しなくてはならないデータだけ数十種類のデータが目の前に並ぶでしょう。各々のデータを見比べてそこから類似するパターンを見出だしていく、それだけで気が遠くなりそうです。
だからと言って、フォーキャストの作成を諦めてはいけません。面倒くさいからといって、「勘と経験と度胸」に基づいて全体のフォーキャストを一気に出してはいけません。何においてもそうですが、世の中は「0か100か」ではありません。少しずつ始めていって、5を10に、10を20にする努力を続けていきましょう。私自身も、マニュアル作業でエクセルを使ってフォーキャストをしていた時は、決して上記のすべてのプロセスを、常に忠実に経て作業を行っていたわけではありません。「適切な方法で正確なフォーキャストを作成すること」は、確かにレベニューマネジメントにおける非常に重要な仕事の1つですが、もちろんレベニューマネジメントの仕事はそれだけではありませんし、「フォーキャストにもとづいて考えた施策を実行に移すこと」も同じように重要な仕事であり、その仕事の履行にも大きな努力とエネルギーを必要とします。
様々な事情により、マニュアルでのフォーキャスト作業をしなくてはならない環境にいらっしゃる皆さんは、少なくともマーケットセグメントグループごとのフォーキャストだけは、どんなに忙しくてもできるように心がけましょう。それだけでもかなり正確なフォーキャストが出来上がってくると思いますし、その後の施策を立てる上で大いに参考になるでしょう。
また何かしらのツール、システムを用いてフォーキャストの作成が自動化されている場合も、個人的にはぜひ、マニュアルでのフォーキャスト作成を並行して行うことをお勧めします。これは何もシステムが信用できないから、システムや自分の能力の信ぴょう性を確かめるため、といった理由ではありません。自らも上記のプロセスに沿ってフォーキャストを行うことで、ビジネス環境への理解がより深まるからです。「フォーキャスト」という、完成された出力結果ももちろん大事ですが、その過程で、上記に挙げた様々な要素をグループごとに、複合的に自ら観察していく過程で得られる洞察は、完成された出力結果に勝るとも劣らない価値のあるものだと言えるでしょう。
ここまで4回にわたり、フォーキャストの重要性とその仕組みについてご説明してきました。フォーキャストはレベニューマネジメント、さらにはコマーシャルエリア全体におけるアクションを考える上でのもととなる基礎で、そのフォーキャストをないがしろにして、またそのフォーキャストが適切なプロセスを経て作成されていない事実を置いておいて、実効性のある効果的なアクションの計画と実行はできません。皆さんのフォーキャストへの理解がより深まり、その正しい理解により、フォーキャストへの多くの関心と、さらなる議論が深まることへの一助となれば幸いです。