ここまでは、多くの皆さんから頂戴する問いの1つである「〇月〇日のBAR料金をいくらにしたら良いか」という点について、その答えを考える上でいきなりBAR料金を導き出すのではなく、まずはその日のフォーキャスト(道筋)が常に根底にあり、そこに至るまでのポイント、ポイントにおける道標がBAR料金であるという点をご紹介しました。

つまり、適切なBAR料金を導き出すためには適切なフォーキャストが欠かせません。ぜひ「いかに正確なフォーキャストを作成するか」、そして「レベニューマネジメントの手法に基づく適切な形でフォーキャストが作成されているか」という点について、再度見直してください。いかに正確なフォーキャストを作成するかという点については、いかに精度の高い(誤差の少ない)フォーキャストを作成しているかということです。例えば、同月月初のフォーキャストと同月実績の結果に3%以上の差があるケースが常態化している場合は、フォーキャストの精度に課題があると言えます。

また、フォーキャストは必ず、適切に設定されたマーケットセグメントをグループ化することによって行います。繰り返しますが、適切なマーケットセグメントの設定なしに、正しいフォーキャストは行うことはできません。何かしらの理由で、自らの施設でレベニューマネジメントのセオリーに沿った適切なマーケットセグメントの設定が行われていない場合、残念ながらその事実を一度脇に置いておいて、別の方法で適切なフォーキャストの作成を達成する方法はありません。

さらに、仮にフォーキャストの精度が高く正確なフォーキャストを作成することができていたとしても、その方法が適切でない場合、つまり適切なマーケットセグメントの設定が行われていない中でいかに精度が高いフォーキャストの作成が達成されていたとしても、それは少なくともレベニューマネジメントにおける適切なフォーキャストではありません。そういった誤った手法によるフォーキャストは「フォーキャストが正確か否か」という一面的な側面においては良いかもしれませんが、他方、最終的に皆さんの肝心な問いである「〇月〇日のBAR料金をいくらで設定したら良いか」という課題に対して、結局は明確な答えをもたらしません。

マーケットセグメントについては過去の記事を参照してください。繰り返しますが、マーケットセグメントとは「同じような行動、予約形態を持つ料金群」です。多くの宿泊施設で見られる「国内OTA」とは、レベニューマネジメント上のマーケットセグメントには該当しませんし、「旅行代理店」という区分もレベニューマネジメント上のマーケットセグメントには該当しません。

「マーケットセグメント」という用語の定義は幅広いものがあると思います。ですから、私はここで各々の宿泊施設が活用している既存のマーケットセグメントを否定しているわけではありませんし、それを今すぐ変えるべきだという事も言っていません。それぞれの宿泊施設には各々の事情に合わせたマーケットセグメントという定義とその収集方法が存在しますので、それぞれの目的に資する形で従来通りに記録をとっていけばまったく問題ないと思います。

一方で、レベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントという定義は1つです。そしてその定義に基づいた予約データの収集を行い、その定義に基づいたフォーキャストを行うことによってのみ、適切なフォーキャストは可能となります。もしレベニューマネジメントにおけるマーケットセグメントの定義と、それに沿った料金(プラン)種類ごとの紐づけやグループ化が行われていない場合は、ぜひその運用を始めてください。どの施設においても、PMS上に現状使われていないデータ入力項目が1つや2つは必ずあるはずです。マーケットセグメントの定義を行ったうえで、新規に受注する予約に対して新たなコードを付与していけば、今日にでもその運用は始められます。

もしレベニューマネジメント上の定義に基づくマーケットセグメントの設定とデータ収集が既に行われているようであれば、あとはマーケットセグメントごとにフォーキャストをしていくだけです。実際のフォーキャストでは、各マーケットセグメントごとに見られる予約の特徴や「パターン」を見出だし、そのパターンを将来の動向に当てはめていく作業を繰り返し行っていきます。ここでは、レベニューマネジメント上の定義に基づく適切なマーケットセグメントの運用が行われているという事を前提に、実際にどのようなデータを参照し、そこから特徴やパターンを見出だしていったら良いのか、参照すべきデータの種類をいくつか見ていきましょう。

曜日とシーズナリティ

一般的に、宿泊施設における需要予測を可能にしている大きな特徴の1つは、多くの宿泊施設では、曜日やシーズナリティという点で、年間を通して需要の増減がある程度固定されている点にあります。例えば、多くの日本の施設においては年末年始に宿泊需要のピークを迎えますし、インバウンド需要が集中する桜の時期である3月下旬から4月上旬にかけても、需要は大きく膨らみます。それに加え、特に観光地のホテルではGWやお盆等、日本の祝日や連休時に連動して需要が高まるマーケットもあるでしょう。それぞれのマーケットの特徴により、年間を通して需要の季節変動、いわゆるシーズナリティはある程度固定されています。

また、同じことが曜日にも当てはまります。例えば東京マーケットでは、平日は海外/国内を含む出張者需要が高まり、週末には国内のレジャー需要や婚礼行事にかかわるイベント需要が高まる、などという曜日需要がある程度固定化されています。一方、観光地においては週末に国内需要を含むレジャー需要が高まり、平日にはその需要が下がるといった「週末型」の需要が一般的かもしれません。

まずはこのシーズナリティと曜日という観点から、その予約行動の特徴、パターンを見出だしてみてください。自らの施設の曜日別パターンは週末型ですか、平日型ですか?もしくは、ある程度平準化されているでしょうか?さらに、その曜日別パターンにシーズナリティの要素をかけ合わせた場合、そのパターンに何か違いは出てくるでしょうか?同じ土曜日宿泊のパターンでも、4月の土曜日宿泊のパターンと5月の 土曜日宿泊のパターンに違いはないでしょうか?

滞在日数(Length of Stay)

宿泊者の滞在日数という切り口で観察した場合も、何かしら規則性のあるパターンを見出だすことができるかもしれません。1泊しかしない予約と、3泊する予約では予約行動に違いはないでしょうか?例えば、上記の曜日波動に照らし合わせて「週末型」の施設であれば、必然的に土曜日から1泊という予約ボリュームが大きいと思いますが、そういった「1泊予約群」にその他の泊数の予約群と異なったパターンはないでしょうか。一方の「複数泊予約群」についてはどうですか?さらに、上記で挙げた曜日要素と組み合わせた場合も見てみましょう。まず、複数泊予約群が例えば特定の曜日に到着が集中するといったことはみられないですか?さらに、日曜に到着する複数泊予約群と、木曜に到着する複数泊予約群では何か特徴的なパターンは見いだせないでしょうか。

リードタイム

予約日から到着日までの日数を「リードタイム」と呼びますが、そのリードタイムという観点でもパターンは見られるかもしれません。かなり前もって予約をする「長いリードタイム群」と「1週間以内に予約するリードタイム群」では、それぞれの予約ボリュームや予約のタイミング、また予約する価格帯などの予約行動に違いは見られないでしょうか。そこにパターンを見出だすことができれば、どのタイミングで、いくらで、どれだけの数の予約が行われるというフォーキャストの材料につながります。