施設のパフォーマンスを左右するものとして、グループビジネス(団体ビジネス)は重要な要素の1つだと思います。レベニューマネージャーもその動向を気にしており、「うちは団体が多いから単価を上げられなくて・・・」とか「こんな安い価格で団体を取ってこられたら、単価を上げられないじゃないか」というボヤキをよく耳にします。

どの施設でも見られる営業部とレベニューマネジメントの攻防であるグループビジネスのは、おおよそ下記の2つの視点が議論されることが多いように思います。

1,グループビジネスが安すぎるから全体の単価を上げることができない

2,グループビジネスなどのベースビジネスなしには単価を上げられない

言うまでもなく、1の見方はレベニューマネジメント側から出てくる不満や主張、2の見方は営業部側から出てくる意見です。1の見方としては、「全体の単価を上げていきたい中で少しでも単価の高いビジネスで固めていきたいのに、その出鼻をくじくような安い価格でグループビジネスを持ってこられ、最終的に全体の単価の足を引っ張る」というものです。一方の2の意見としては「グループビジネスは単価こそ安いかもしれないが、まずはバルク(束)ビジネスを使ってベースビジネスを固めて、その後、単価の高い個人レジャーの予約を使って全体の単価を上げていけばいいじゃないか」というものです。

最近、この2つの見方に対して数字の観点で示唆を与える記事を目にしましたので、ぜひ、皆さんに紹介したいと思います。

施設のベンチマークレポートを提供するSTRがアメリカの施設を対象に行った調査によると、「価格の低いグループビジネスでベースビジネスを固め、その後に入ってくる個人ビジネスを使って全体の単価を仕上げていくやり方は、一般的に施設に及ぼす売上、そして利益という観点で良い影響を与える」というものでした。調査を行ったアメリカの施設の間では、「全体のビジネスに占めるグループビジネスの割合が高い施設は、全体のRevPARとGOPも高くなる傾向が見られ、双方に相関関係が見られた」ということでした。具体的には、全体のビジネスに占めるグループビジネスの割合を「0-10%」, 「11-25%」, 「26-50%」, 「50%以上」と4つのグループに分けてそれぞれのRevPARを観察したところ、グループビジネスの割合が高くなればなるほど、RevPARは高くなることが確認できたという事です。

一般的に私たちは、施設のホテルクラスが上がって全体の単価が高くなればなるほど、ともすれば単価の上昇基調に水を差す事にもなりかねないグループビジネスを警戒しがちです。冒頭で述べた「安いグループビジネスの影響で全体の単価を上げられない」という見方も、この懸念から来ています。しかし調査では、対象施設のホテルクラスを「Luxury」(5つ星)と「Upper- Upscale」(4つ星)に限定した場合、グループビジネスの割合が0- 10%であった施設の平均のRevPARは$173, それに対してグループビジネスの割合が50%以上あった施設の平均のRevPARは$199で、例えホテルクラスが高い場合においても、グループビジネスが占める割合が高ければ高いほど全体のRevPARが高いという結果が確認できたようです。

なお、この傾向はGOPという観点で見た時にさらに強い裏付けが取れているようで、グループビジネスが高い施設についてはRevPARのみならず、そのGOPも高いものが観察できるようです。(グループビジネスは往々にして、客室売り上げのみならず、ミーティングスペースのルームレンタル、またイベントに伴う飲食の売り上げも付帯収入として上がる場合が多くありますので、グループビジネスがGOPに与える影響がRevPARに与える影響より大きいという点は、自然の成り行きのように思います)

上記の実証により、特にレベニューマネジメントの方にお伝え出来ることがある点は、文字通り「グループビジネスの割合が高ければ高いほど、全体のRevPARは上がる傾向にあるという裏付けがあります」という事実そのものです。特に、昨今のBAR料金の上昇基調、それに伴う単価の上昇基調は著しいものがあり「料金全般」に対して皆の注意がより注がれる中、その反動として販売料金や単価が低くなりがちなグループビジネスに対しては、ともすれば後ろ向きな気持ちを抱いてしまいがちで、それが結果的に冒頭のような不満につながることもあるかと思いますが、どのビジネスにおいても「常に100%理想の形」というものはありません。そしてレベニューマネジメントとは、その日の売り上げを最大化することのみならず、前後の日にちを含めて売り上げを最大化すること、その週の売り上げを最大化すること、そしてその月、その年全体の売り上げを最大化することです。一見すると、12月31日から1泊の売り上げが十分に最大化できていないように感じても、それが12月30日や1月1日の売り上げにも貢献しており、さらに引いては12月全体、1月全体の売り上げに貢献していれば、12月31日のみの売り上げに固執することは些末な懸念です。

私たちは何においても「物事の単純化」を好みます。「xxxxxすればxxxxxなる」といった方程式を求めがちですし、そういった一見わかりやすい、明快な手法に飛びつきがちです。しかし、ホスピタリティビジネスやレベニューマネジメントにおいて「これをすれば必ず売り上げが上がる、これだけやっておけば大丈夫」といったセオリーはありません。何においても、物事はaかbかという二分論でわけられるものでもないですし、セオリー通りのことをやっておけばすべてが上手くいくというような、単純な話でもないように思います。

したがって、明快な回答を期待している方には非常に申し訳ないですが、私は上記の「グループビジネスの割合が多ければ多いほどRevPARが上がるという裏付けがあるので、どのような時もベースビジネスとしてグループビジネスは必要」といった見方にも与しません。例えばローシーズンでディスプレイスメント(ディスプレイスメントについては過去の記事を参照してください)が発生しないような時には、ベースビジネスとしてのグループビジネスは非常に大きな役割を担うでしょう。一方、ハイシーズンにおいてフォーキャストベースでディスプレイスメントが早い段階から予想されるにも関わらず「グループビジネスはベースビジネスとして重要だからとにかく取るべきだ」という一辺倒な考え方に固執することには賛成しかねます。

また、いわゆる「ベースビジネス」と呼ばれるものにはグループビジネスの他、コーポレートビジネスやクルービジネス、ホールセールビジネスなどといった他のセグメントのビジネスも含まれます。このような他のベースビジネスのビジネスミックスを考慮せずに、「グループビジネスはベースビジネスだから常に取るべきだ」という画一的な考え方は、結果的に売り上げを最大化する上での障害になる場合もあります。

今回のSTRの調査とその結果は、グループビジネスというだけですぐに消極的なイメージを持ってしまいがちな方々にとっては、ぜひ、心に留めておいていただきたい事例の1つです。一見すると全体のパフォーマンスに影響しそうなビジネスであっても、それがその他の売り上げ要素やセグメントのビジネスと組み合わさって最終的に仕上がってきた際、良い形に作用することがあるという側面をぜひ頭に入れておいて頂きたいと思います。

一方、このような物事の単純化や、一見すると耳当たりの良いセオリーだけで物事を判断することも慎みたいものです。こういった調査結果に深く考えず飛びついてしまったり、物事を単純化して考えてしまったり、ある出来事の概念的・表面的な部分のみを解釈しそれを行動に移そうとしても、決して皆さんが期待されるような、単純に物事は運ばないでしょう。このような事例を知識としてきちんと蓄えたうえで、自らも考えることによって自分自身で解を見出だしていってほしいと思います。