グループ料金をどのように導き出していますかーディスプレイスメントアナリシスとは(1)

多くのホテル、宿泊施設は大小の規模の差はあれ、団体予約、いわゆる「グループビジネス」を受注していることと思います。グループの定義は「10部屋以上」や「30室泊以上」などとホテルによって様々ですが、このグループビジネスは、ホテルにとって良くも悪くも大きな影響を及ぼします。

良い点として挙げられるとすれば、それはまさにそのビジネススケールでしょう。通常は1部屋、1部屋とコツコツと売っていなくてはならないところを、グループビジネスは1件に対して10部屋、20部屋の単位での需要をもたらします。ましてやそれが複数泊にわたり、例えば20部屋で3泊などといった規模になると、このたった1つの予約がホテルにもたらす恩恵は非常に大きいものとなります。

そしてこのような大きなビジネススケールは、場合により、ホテルにとって足かせとなる場合もあります。規模が大きいゆえ、どうしても料金交渉が厳しくなったり、該当グループビジネスがその他のビジネスに影響を与えることもあります。グループビジネスを取ってしまったがために、他のビジネスを断らないといけなくなったという事態になることもしばしばです。

このような中で、皆さんはグループ料金をどのように算出していますか?該当グループの予算を踏まえたうえで、その金額を軸として料金を考えるでしょうか。あるいは、自らの中である程度のガイドラインのようなものが定まっていて、「例えば〇月に〇室以上のグループの引き合いについては〇円」といったような指標をお持ちでしょうか。

逆に営業に携わる方は、自らのホテルのレベニューマネージャーにグループ料金を貰いにいくとき、どのような説明を受けますか?そして、そのグループ料金の算出と判断、その説明に一貫性はあるでしょうか?「レベニューマネージャーの気分によって貰える金額とその判断にバラツキがあるから、機嫌がいい時に聞きに行こう」なんて思っていませんか?

私がレベニューマネジメントに関わるようになったばかりの頃、グループ料金というのはてっきり「相手の予算があってそれを軸に交渉するもの」とばかり思っていましたが、その判断、および金額を導き出すのにきちんとした手法「ディスプレイスメントアナリシス(Displacement Analysis)」というものがあるということを教わった際に受けた衝撃は、今でもよく覚えています。

そして、その時に同時に教えられたことは「グループビジネスに対する判断とその金額の算出は、あくまでも客観的に提示してあげなければならない。営業の人が苦労して取ってきたビジネスに対して、なぜ、そのビジネスを取ることができないのか、もし取ることができるのであれば、なぜ1部屋当たり〇円以上の金額で取らないといけないのか、きちんと道理が通るように説明してあげなければいけない。その判断が主観的であっては決していけないし、ましてや決して「気分で決めている」というように思われてはいけない」ということです。

あなたはレベニューマネージャーとして、営業の方にグループ料金に関する「客観的な説明」ができているでしょうか?私は今まで「グループ料金は営業が勝手に決めてくるので、私たちはよくわかりません」というレベニューマネージャーや、「理由はよくわからないけど〇〇円以下のグループ料金は出したくないんだって」と訝る営業マンに数多く出会ってきました。もちろん「客観的な説明」と「それを踏まえた上での最終判断」は異なる場合も多くありますし、いかに客観的な説明であったとしても、何か別の要因でその判断が覆る場合もあります。しかし、1つの判断材料として客観的な説明を提示することは、レベニューマネージャーと営業の信頼関係を築くうえで、欠かせないプロセスであると言えるのではないでしょうか。

特定のグループビジネスの問い合わせに対して、ホテルがその受け入れ可否をどう判断するか、その料金設定を1室あたりいくらにするべきか、客観的な説明を提示するのが、このディスプレイスメントアナリシスです。

ディスプレイスメントアナリシスとは

まずは、ディスプレイスメントアナリシスの目的とその仕組みをご説明しましょう。ディスプレイスメント(Displacement)とは、英語で「置き換え」を意味します。この言葉の通り、ディスプレイスメントアナリシスとは、ビジネスの置き換えが発生する状況において、その置き換えが妥当であるか、妥当であるなら販売価格をいくらで販売することが適切であるかということを分析する仕組みです。

グループビジネスにおけるディスプレイスメントが発生する状況、つまりビジネスの置き換えが発生する状況は、需要が高まっているときです。例えば、あなたのホテルが100部屋の総客室数を持っており、ある日の販売室数のフォーキャストは80部屋だったとします。そこに、同じ日に対して50部屋のグループの引き合いがあった場合、もともとのフォーキャストの80部屋に対して、さらに50部屋を追加で収容することはできませんし、そのグループの引き合いが起因して当初のフォーキャストが80部屋より変更されることもありません。そのような中、あなたのホテルの総客室数は100室と決まっているわけですから、もしあなたのホテルがこのグループの引き合いを受け入れる場合、「グループの引き合いがない前提で組んでいたフォーキャスト」の80部屋のうち、30部屋分のビジネスをこのグループビジネスに「置き換え」なくてはなりません。

総客室数が100部屋のホテルの、下記の4つのシナリオを見てみましょう。下記の1から3のシナリオについては、いずれも当初のフォーキャストに対して、総客室数を上回るグループの部屋数の引き合いが来ている状況です。101室を超えてビジネスを受け入れることはできませんので、このグループを受け入れる場合、ホテルは101室を超える分について、あらかじめ想定していたフォーキャストの中からそのいくつかを、該当グループのビジネスに置き換える必要があることを示しています。

一方で、シナリオの4はどうでしょうか?当初のフォーキャストは50部屋なのに対し、グループの引き合い数は30部屋です。このグループをすべて受け入れたところで、既存のフォーキャストで勘案していた既存ビジネスとの置き換えは発生しないどころか、さらに20部屋分の余裕すらある状況です。この場合は、ディスプレイスメントが発生しませんので、ディスプレイスメントアナリシスも必要ありません。

ディスプレイスメントアナリシスは、あくまでもビジネスの置き換えが発生する際に必要となる分析です。理論上は、もし既存ビジネスとの置き換えが発生しないのであれば、ホテルにとって、そのグループを受け入れることによる損失は、その金額がコストを下回らない限り、ありません。むしろ、受け入れれば受け入れるだけ、プラスの売り上げとして計上されていくようになります。

シナリオの4において、このホテルの部屋の販売にかかるコストが1部屋当たり3,000円だった場合、ホテルはこの30部屋のグループの引き合いに対して、3,001円のグループ料金を提示したとしても、そこには30円(1円 x 30部屋)の儲けが発生します。例え、このホテルのBAR料金が10,000円であったとしても、です。どうせこのグループを受け入れようと受け入れまいと、もともとのフォーキャストは50部屋でした。そこに30部屋のグループの引き合いが飛び込んできてくれたわけですから、ホテルにとってはむしろありがたい話とも言えます。

それでは、このグループの引き合いを3,001円で引き受けるかというと、それはまた別の問題でしょう。グループを引き受けるにあたっての可否やその販売金額は、必ずしも、その日の売り上げの損得のみの観点からでは判断できないからです。あくまでもディスプレイスメントが発生するときに、そのグループを引き受ける妥当性とその販売金額を1つの客観的な視点として提示するのが、ディスプレイスメントアナリシスです。

次回は、実際にこのディスプレイスメントアナリシスの手法を用いて、ある条件のグループの引き合いを受けるべきか、そして受けるのであれば1室あたりの料金をいくらで設定すればよいのかという点について見ていきます。