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前回の「レベニューマネジメントの「3ない宣言!」―これからレベニューマネジメントを始める方へ・1」において、レベニューマネジメントへの取り組みはまずデータを地道に記録していくことで予約のパターンを知ること、それは自らを知ることとなり、レベニューマネジメントを始めるうえでの非常に重要な一歩であるということを申し上げました。

しかしいくらデータが重要だといっても、それは、ただむやみやたらに収集可能な数字をすべて記録していけばよいというわけではありません。集めるデータの種類やその数が多ければ、より正確な数字の把握ができるかというと、個人的にはあまりそうは思いません。特にRMSなどの専用のシステムがなく、人間の頭脳でその把握や分析を行う場合、あまりにも色々な種類の多くの数字を前にすると、逆に本当に必要なデータの取捨選択を難しくし、いったいどのデータに関連性があるのかわからなくなってしまうということは、皆さんにも経験があると思います。

予約のペースを知るうえでぜひ収集、注意を払っておきたいデータをいくつか紹介します。

予約のリードタイムを知る

予約のパターンを知る過程で特に注意を払いたいデータが、自らの宿泊施設のリードタイムです。リードタイムとは「予約日から到着日(宿泊日)までに日数」を表します。つまり、ある滞在日における予約の入り方の温度を表しています。例えば21年4月3日滞在の全予約のリードタイムはどのようになっているでしょうか?

この時に、リードタイムの平均値を取ってはいけません。リードタイムはその数値の幅が非常に大きく、いわゆる「外れ値」に影響を受けてしまう可能性があるからです。例えば計5件の予約があり、そのうち4件の予約はリードタイムが1、つまり滞在日の前日に予約された予約だとします。そして残りの1件はリードタイムが365、つまり滞在日の1年前に予約された予約だとしましょう。ここから平均を出してしまうと、そのリードタイムは後ろに大きく引っ張られてしまいますが、事実として5件中4件が前日に予約されているのであれば、その傾向は間違いなく直前予約の傾向であると言えるでしょう。リードタイムは平均ではなく、その分布で見るようにする方がより適切です。

分布で見ていくと、リードタイムにはいくつかの波があることに気づくと思います。予約のペースというのは、ある特定のリードタイム、〇日前だけに集中して予約が行われるということは決してなく、予約が盛んな期間と予約があまり入らない期間がわかれることが一般的です。例えばリードタイムが30日前の時に予約の波が来て、その後は一度落ち着いて、再度、14日前の時に予約の波がくるというような、予約パターンが見えてくるでしょう。

また、リードタイムは早すぎても遅すぎてもいけません。既に何回か言及している通り、宿泊施設における予約の積み上がりは、徒競走、早い者勝ちではありません。その滞在日の営業を終えた時点で売り上げが最大化されていること、これがすべてで、例え滞在日の7日前に満室になっていようが、前日にいくつか空室があろうが、当日の営業を終えた時点で売り上げが最大化されていなくては意味がありません。

そのような中で、あまりにも早いブッキングペースについては、宿泊施設にとってはキャンセルのリスクをより長い期間抱えることになり、何よりも、適切な価格設定を含めて、その宿泊施設としてきちんと売り上げを最大化できるような環境になっているのかという点で、疑念を残します。一方であまりにも遅すぎるブッキングペースについても、宿泊施設にとっては堅実な予約の積み上げを期待できないことにより、不用意な直前割などに走りがちな不安定な環境を生み出します。ブッキングペースは、宿泊施設によってそれが早めである、遅めであるといった特徴はありつつも、ある程度そのピークが分散された形で堅実に積みあがってくることが望ましいと言えるでしょう。

また可能であれば、このリードタイムのマーケットセグメント別やチャンネル別の詳細を把握しておきましょう。消費者のマーケットセグメントやその予約チャンネルによって、リードタイムに明らかな違いがある場合はよくあります。その典型的な例が「レジャー予約」と「出張予約」におけるリードタイムの違いです。一般的にリードタイムが長く早めに予約されてくるレジャー予約のセグメントに対し、最後まで予定が固まりにくいことも多い出張予約は、リードタイムが短く予約行動が直前になることが多いと言われています。

また同じレジャー予約の区分には入るものの、ホールセールセグメント(ホールセラー向けの料金群)とリテールセグメント(公式ウェブサイトなどで販売している一般料金群)ではリードタイムが異なるかもしれません。一般的に「足」と呼ばれる交通機関と組み合わされることも多いホールセールセグメントは、交通機関と組み合わせて予約されるという商品特性ゆえ、その出発地が遠方になる(目的地まで、飛行機や新幹線などの交通機関が必要な出発地)こともあり、出発地が近隣の、事前に交通機関の手配が特に必要ないリテールセグメントとはリードタイムが明らかに異なってくることもあります。

ここにも簡単な「解」、どの宿泊施設にも適用できるような「解」はありません。「レジャーよりビジネスの方がリードタイムは短い」、「ホールセールセグメントの方がリテールセグメントよりリードタイムが長い」というのはあくまでも通説に過ぎず、どの宿泊施設にもこの通説が適用できれば、ビジネスがこんなに楽なことはありません。ビジネスの状況や予約のパターンは、宿泊施設によって必ずといっていいほど異なるものであり、例え同じ目的地にある宿泊施設であっても、その宿泊施設クラスや業態、価格などによっても大きく異なってくるでしょう。重要なことは、このような通説を知っておいてそれに沿った運用を行うことではなく、まずは自らの宿泊施設の傾向、ビジネスの特徴をきちんと把握することです。

セグメントによってリードタイムが違うことは、実際のレベニュータクティクスにおいてどのような形でいかすことができるのでしょうか?例えば先に、同じレジャービジネスであっても、ホールセールセグメントのリードタイムとリテールセグメントのリードタイムは異なるかもしれないと申し上げましたが、もし本当にそのような傾向が表れていて、ホールセールセグメントのリードタイムのピークがリテールセグメントに比べて比較的早い場合、それぞれのセグメントリードタイムの傾向に応じた対策が必要です。

例えばリードタイムがまだ比較的長い間の対策(例えば到着の60日前から30日前まで)については、ホールセールセグメントのリードタイムにピークがあるわけですから、該当予約元向けの在庫を集中して出しておく必要があります。通常のアロットメントに加え、場合によっては追加のアロットメントも、売り切れになる前に先んじて出していかなくてはなりません。

一方でリードタイムが短くなってきてからの対策(例えば到着の30日前を切ってから)については、徐々にリテールセグメントにあわせた戦術に転換していかなくてはなりません。リードタイムが短くなってきて、もはやほとんど予約が期待できないようなホールセール向けのアロットメントはできるだけ早く回収し、リテールセグメント向けの在庫をできるだけ充実させておくことによって、直前まで予約の機会を逃さずに最後まで売り上げを最大化させることにつながります。

またご紹介したもう1つの例、もし出張予約などのビジネスセグメントのリードタイムのピークが直前で、それに先んじてレジャーセグメントのリードタイムのピークが観察できる場合、一般的に年間固定料金でBAR料金に比べ大幅に割引がされているコーポレートセグメントが直前に入ってくることによって、当初期待していたよりも平均単価の伸びが抑えられることがあります。予約のペースの中で、当初は平均単価が順調に伸びていたのにも関わらず最後に失速するようなパターンが見られるのであれば、それは料金コントロールに問題があるのではなく、各セグメントの予約ペースに起因する現象であることも考えられます。このような背景を把握せずに、例えば到着日直前にさらに価格を上げるような料金コントロールを行うことは、完全に状況を見誤っているといえるでしょう。

キャンセルの傾向と、その理由を把握する

いかに売り上げを最大化するかということは、いかにキャンセル(特に直前キャンセル)を減らすかということにもつながります。予約キャンセルは大きな不確実要素の1つです。できる限り不確実要素を減らすことが要求されるレベニューマネジメントにおいて、いかに予約のキャンセルを減らすかということは非常に重要な課題の1つです。一口に予約キャンセルといっても、そのキャンセルについては宿泊施設においてある程度コントロール可能なキャンセルと、ほとんどコントロールできないキャンセルがあります。予約キャンセルだから仕方ないと一律に割り切ってしまうのではなく、すべてのキャンセル予約をきちんと把握し、その背景を探ることによって、可能な限り不確定要素を減らしていく努力が必要です。

(コントロールできないキャンセル)

顧客の不測の事態発生による予約のキャンセル、これは宿泊施設にとってコントロールできないキャンセルです。病気になってしまった、家族に不幸があった、このようなある種の不可抗力のキャンセルについては、残念ながら宿泊施設としてできることはありません。フォーキャストなどの需要予測に組み込むことも、なかなか難しい変数と言えるでしょう。コントロールできないことに対してあまり突き詰めてしまうと、大局を見失います。幸い、このような事由での予約キャンセルは決して多くはありません。ある程度、割り切って考えてしまうしかないでしょう。

(コントロールできるキャンセル)

このコントロール可能なキャンセルについては、宿泊施設の管理次第でその影響を最小限におさえることができるキャンセルです。例えば同じ名前の重複予約について、顧客に積極的に連絡を取って早めにルーミングリストをもらったり、予約のリコンファームも兼ねて到着メール(アライバルメール)などの手段を使って顧客とのコミュニケーションを図っていく、いわゆるエンゲージメント(顧客関与)を高めることによって、不要な予約のキャンセルを促したり、キャンセルする予定の予約をできる限り早めにリリースしてもらうことが可能になります。

また厳密な意味でのキャンセルではありませんが、ホールセール向けのアロットメントについても、手仕舞い日までおとなしく待つのではなく、特に予約のペースが良い滞在日のアロットメントについては、積極的に、かつ、早め早めに返室依頼をかけて自分たちの手元在庫を増やすことが、売り上げの最大化を図るうえで欠かせません。

予約のペースによっては、返室日を待ってから再販したのでは既にピークのリードタイムを過ぎていることも大いに考えられます。ホールセール向けのアロットメントは、販売を完全に旅行会社に丸投げするのではなく、「なかなか販売できない閑散期などは最後まで販売に協力してもらう」、「予約ペースが良い繁忙期は早めに返室依頼をし、直販在庫を増やすことによって最後まで売り上げを最大化していく」という、あくまでも宿泊施設が主体となった管理方法の強弱をきちんとつけることが重要です。