「時間ができたらブッキングペースを見よ」―レベニューマネジメントのいろは

この言葉は、私がまだレベニューマネジメントに関わるようになって間もないころ、当時の上司から繰り返し伝えられた教えです。このブッキングペース(ブッキングカーブ)とは予約の積み上がり曲線を表し、まさに生き物のように状況に応じて形を変えます。

この曲線の形や角度がレベニューマネージャーに示唆することは様々で、優れたレベニューマネージャーは、このブッキングペースを見ただけで、例えそのホテルのことをよく知らなくても、おおよそそのホテルの販売状況を察知することができます。ではブッキングペースとはどのようなものなのか、実際に見てみることにしましょう。

100室のホテルがあると想定してください。そのホテルの21年1月12日のブッキングペースを描きます。このホテルは21年1月12日の日の予約を、その1年前の20年1月12日から取り始めると考えてください。つまり20年1月12日の予約開始以降、宿泊日の21年1月12日に向けて、予約が少しずつ積みあがってくるわけです。

例えば、20年5月1日の時点で30部屋が販売済み、7月1日の時点で50部屋が販売済みとなっていくのですが、ブッキングペースはこの「〇月〇日時点」の予約の積み上がり(販売済み)状況を、日付ではなくてリードタイムで表します。リードタイムとは予約日から到着日(宿泊日)までに日数を表し、例えば上記のシナリオにおいて、20年1月12日はリードタイムが365日、20年6月12日は半年前の180日、1か月前の20年12月12日は1か月前の30日と表現します。

便宜上、リードタイム180日前からのブッキングペースを描きましたが、この表では縦軸に総客室数100室に対する「販売室数」を、横軸で「21年1月12日の〇日前というリードタイム」を表しています。

ところで余談ですが、部屋の販売状況を確認するときには稼働率をよく用いると思います。しかしながら販売の実態を正確に把握するため、特にレベニューマネージャーは、稼働率というパーセンテージ指数ではなく、常に販売室数という数字の指数で状況を把握するクセをつけるべきだと考えます。「21年1月12日の現在の時点での稼働率は80%で、あと20%分の空室がある」と理解するより、「21年1月12日の現在の時点での販売室数は80部屋で、あと20部屋分の空室がある」と理解する方がより現状を把握しやすいのではないでしょうか。

話を戻しましょう。上記のグラフでは、滞在日の21年1月12日に向かって右肩上がりにブッキングペースが上がっており、リードタイム0日、つまり滞在日である21年1月12日には販売客室が100室に達し、めでたく満室にすることができました。リードタイムが到着日に近づくにつれて緩やかに上がっているきれいな曲線となっており、全てのホテルにとっての理想のブッキングペースとなっているといえるかもしれません。ただ、実際にはこのようなきれいな右肩上がりのブッキングペースになることは稀ですし、特にきれいなブッキングペースを目指すことが求められているわけでもありません。

続いてのブッキングペースを見てみましょう。滞在日の21年1月12日に向かって右肩上がりにブッキングペースが上がっており、リードタイム14日、つまり21年の1月7日の時点で販売室数が100部屋の満室に達しました。

一見すると素晴らしい予約の積み上がりを見せて、到着日の2週間前には早々に完売の勢いを見せたこのブッキングペースですが、実はこれは良いシナリオとは言えません。14日前に満室を迎えたブッキングペースはその後、予約のキャンセルにより一度大きく下降します。その後再び最後の積み上げをみせるものの、結局は92室の販売、稼働率92%で販売を終了しました。

ホテルの販売は決して徒競走ではなく、早い者勝ちではありません。例え到着3か月前にすべての部屋を売り切ろうが、到着2週間前に売り切ろうが、到着2日前に売り切ろうが、これらはあまり意味をなしません。ホテルの販売はマラソンのようなものであり、到着日当日を終えた時点で、販売売り上げが最大化されていること(この例では部屋を売り切ること)が肝心です。

つまり、例え到着3か月前には50部屋しか売れていなかったとしても、到着2週間前にはまだ70部屋しか売れていなかったとしても、1月12日の営業が終了した段階で部屋を売り切っていればそれがすべてです。

このように、積み上がりが早いブッキングペースに対しては、ステイコントロールやBARの料金帯のコントロールを行い、ブッキングペースを緩やかにする施策を取るのが一般的です。

例えば1月12日到着分の予約を受け付けない、言い換えると1月11日以前からの複数泊予約のみの受け付けとしたり、予約が集中しがちなリードインカテゴリー(1番下の部屋カテゴリー)の料金帯を上げるなどといったテクニックがあり、いずれも旺盛な需要を鎮める役目を果たします。(ステイコントロールと呼ばれるこのような手法については、また別の機会に説明します)

少し厳しい言い方をするのであれば、常にブッキングペースが早いホテルにおいては、レベニューマネージャーがとにかく稼働を上げることに執心しすぎるあまり、売り上げを最大化することをなおざりにしているといえると思います。

一般的に、総支配人からは「高い稼働を保つこと」に対してより強い圧力がかけられることが多い中、とにかくできるだけ早く部屋を埋めてしまうことによって自らのプレッシャーを解放させたいという気持ちはわかりますが、もしかしたら1室15,000円で100部屋の販売売り上げを、1室17,000円で100部屋の販売売り上げが達成できた可能性はありませんか?または1室19,000円の95部屋の可能性はどうでしょうか?早いブッキングペースはそれだけ需要が集中しているという状況の裏返しであり、そこには常に売り上げ最大化の余地を残しているといえると思います。

続いてのブッキングペースです。滞在日の21年1月12日に向かって非常に緩やかにカーブが上がっており、リードタイムが7日、つまり到着日の1週間を切ってから突然カーブが急になり、最後までその勢いは衰えませんでした。

このブッキングペースは全く異なる2つのシナリオを示唆しており、どちらのシナリオかで明暗は大きくわかれます。まずは良いシナリオの場合です。

到着日の7日前までブッキングペースは非常に緩やかで7日前の時点でもまだ65部屋の販売、稼働率にすると65%の状況です。ただレベニューマネージャーが予約の積み上がり方をよく熟知しており、あらかじめ到着日の7日以内に最後の大きな波が来ると読んでいた場合、ラストミニッツ(直前)の需要をうまくつかむことができたというシナリオです。

重要なことは、7日前を切ってからのラストミニッツの積み上がりの段階でも、販売価格を下げることなく、むしろ緩やかに上げることによって売り抜けているとどうかということです。

次に悪いシナリオの場合です。到着日の7日前の時点でまだ65部屋の販売、稼働率にすると65%である状況に我慢ができなくなり、もしくは総支配人から強い懸念を共有され、大幅な安売り、いわゆる直前割に走るシナリオです。価格を大幅に下げたおかげで予約は立て続けに入りましたが、決して売り上げが最大化できているとは言い難いでしょう。

価格を下げたからといって必ずしも販売室数が伸びるとは言い切れませんが、このようにラストミニッツになってブッキングペースが急速に上がっている場合、そこに何かしらの急激な価格コントロールの作用が働いているということを示唆している場合もあります。いずれの場合も、平均単価や価格の遷移を見るとより詳細な意図がわかります。

最後にもう1つ、ブッキングペースを見てみましょう。滞在日の21年1月12日に向けて右肩上がりにブッキングペースが上がっており、到着日の7日前の時点で販売室数が100室を越えたあとも、3日前には110室まで膨れ上がっています。ただ滞在日の21年1月12日には最終的に販売室数は100部屋に落ち着きました。

これはなにも、ホテルが10部屋のお部屋を急遽作って総客室数を増やしたわけではありません。あらかじめのキャンセルを見込んで、販売室数が100室を越えた以降も予約を受け続けた結果、一時、100室の総客室数に対して110部屋分の販売が行われた状況になったのです。この状況をオーバーブッキングと言います。

このオーバーブッキングは、まさに販売の売り上げを最大化するための代表的な手段の1つです。冒頭できれいな右肩上がりのブッキングペースを紹介した中で、「このようなきれいな右肩上がりのブッキングペースになることは稀」と申し上げましたが、残念ながら予約の受注は完全にコントロールできるものではありません。

ある程度流れを誘導するテクニックはいくつかありますが、それでも想定を超えて予約が立て続けに入ったり、予期しなかったキャンセルが入ることも多々あります。ここで到着日当日の営業終了時に売り切っていれば良いという状況を逆手に取り、直前のキャンセル分を見越して多めに予約を確保しておくという手法が、このオーバーブッキングと呼ばれるテクニックです。

地道な積み上げを通して当日の完売を狙う方法は、どうしても細かいコントロールが要求されます。直前の予約キャンセルなどを鑑みると1部屋売っては1部屋がキャンセルといった攻防戦になりますし、残り1,2部屋になった段階ではオーバーブッキングにも注意をしなくてはなりません。どうしても販売手法としては守りの守勢に入りがちです。

一方でオーバーブッキングの手法は、1つずつ予約を積み上げていくよりはダイナミックな販売方法を貫くことができます。あらかじめキャンセル分を見越して予約を確保するため、総客室数という「タガ」に過度に束縛されることはなく、販売手法としては攻めの姿勢を貫けます。

しかしながら、予約キャンセルの予測やコントロールを見誤ると顧客を「ウォーク」させる必要が出てきます。つまり想定を下回る直前キャンセル数となり、例えば総客室数100部屋に対して102予約が最後まで残ってしまった場合、2部屋分の顧客を他のホテルへ案内する事態です。

オーバーブッキングの手法を取るには、替わりとなる、一般的には自らのホテルよりホテルクラスが上の代替ホテルが近隣にあるか、そしてそれらのホテルの空室を確保できるかというマーケット条件の事前の精査が必要ですし、予約のキャンセル率やその動向の詳細を把握していたり、その日のすべての宿泊予約内容をあらかじめ確認しておく必要があるなど、レベニューマネージャーにも一定以上のスキルを要求します。

このブッキングペースの把握には、詳細な日々の販売状況の記録が欠かせません。レベニューマネジメントシステムを導入しているホテルは、これらの記録と管理がすべて自動で行われていると思います。一方でそのようなシステムを導入していないホテルにとっても、毎日、その日時点での販売状況を細かく記録しておくことにより、その変遷を見ることは容易となります。

全体のブッキングペースを記録することはもちろんのこと、全体の構成要素である各マーケットセグメントごとのブッキングペースも記録しておくことで(マーケットセグメントについては、過去の投稿「ウェブ予約」や「海外個人」はマーケットセグメントか?」を参照してください)、より細かな分析による的確な現状把握と、適切な戦術の適用が可能となります。