レベニューマネジメントではよく「Art and Science」(技能と理論)という言葉が使われます。また「Art OR Science」(技能か理論か)といった議論もよく目にします。このような議論は、えてして長年の経験や勘(技能)に頼りがちになってしまうレベニューマネジメントに対する戒め(今でも多くの施設でこのような要素に頼りがちなレベニューマネジメントは、時に3Kと揶揄されます。これは、長年レベニューマネジメントが「勘」、「経験」、「気合い」という3つの要素に頼ってきたことを揶揄する言葉です)といった意味で用いられることが多いですが、私はレベニューマネジメントは技能と理論の両方が必要なものであると考えています。

数字に裏打ちされたデータに基づいた理論的なアプローチは、客観的な視点を得て判断をするためには欠かせません。一方で行動に関わる学問においてよく言われているように、人間は単なる事実の列挙だけが行動の動機になっているわけではないのも事実です。例えばこのコロナにおける人々の行動はその現実を如実に表しています。人々の行動が活発になりその範囲が広がるに伴って感染者や重症患者が増加するという客観的な事実、数値が表れていたとしても、それがすべての人の行動変容につながっているかはまた別の話です。

「来月のフォーキャストは稼働が〇%で単価が〇円、残念ながら予算には達しません」が理論だとすると、「なぜ予算を下回るようなフォーキャストになっているのか」「どのような変化がマーケットに行っているのか」「突破口になりそうな販売チャンスはどこにありそうか」といったいくつかのピースを組み合わせてストーリーとして聞き手に伝える、これが技能の面であるといえるでしょう。

以前「レベニューマネージャーに求められる人材とは」で、「レベニューマネジメントにおいて1番重要な資質は伝える力である」と述べましたが、今後、理論部分はより高度なアルゴリズム、人工知能の活用によってさらに洗練され自動化されていく中で「理論面における人間の出る幕」は急速に減っていくと思います。一方で、それを読み解き聞き手にどのように伝えるかという技能の重要性はますます高まっていくように思います。

今回から複数にわたりレベニューマネジメントの要であるフォーキャストについて紹介します。既に何回も言及している通り、レベニューマネジメントとは「不確実要素を極力減らし、状況をコントロール可能な状態にしていく作業」の連続です。その前提において「容量が決まっている」「需要波動が予測可能である」という特徴を利用して行う作業がフォーキャスト(需要予測)です。

なぜフォーキャストが重要か

言うまでもなく宿泊ビジネスは容量が決まっています。100部屋のホテルがある週末の需要が旺盛なことを理由にその週末だけ客室数を120室に増やすことはできません。100室の宿泊施設は例え需要が緩んでいようと引き締まっていようと、100室という持ち札を使ってどこまで売り上げと利益を最大化することができるか、これがレベニューマネジメントの永遠の課題です。

そのような中で、もし宿泊施設があらかじめ需要をある程度予測できればそれに備えることができます。仮にあらかじめ10月の第1土曜日が満室になることが予測できれば、より売り上げを最大化するために需要コントロールなどの施策を早めに実施することができますし、宿泊稼働に応じた適切な人員配置の計画やリソースの配分(食材手配など)も可能となります。裏を返せば、宿泊施設は「正確な」需要予測なしには売り上げを最大化したり費用を適切にコントロールすることはできません。したがって、需要予測、フォーキャストはレベニューマネジメント、ひいてはホテルビジネスにとって最重要事項の1つであるといっても過言ではありません。

RMSとフォーキャスト

レベニューマネジメントシステム(RMS)を導入しているホテルは、RMSの根幹の機能の1つとしてフォーキャストを自動で行う機能がついていることでしょう。RMSは過去のヒストリーデータやパターン、マーケットのデータなどの様々な関連データをもとに、複雑に組み込まれたアルゴリズムを通してフォーキャストをはじき出します。優れたRMSを計る1つの指標はその正確性です。いくら多種多様なデータを参照している、複雑なアルゴリズムを使用していたとしても、結果はじき出されるフォーキャストが正確でなくては元も子もありません。残念ながら、正確なフォーキャストを示すRMSには人間の知能はもはや及ばないでしょう。私も仮に自分で作成したフォーキャストとRMSが示すフォーキャストを比較して、常に自分で作成したフォーキャストの方が正確であると言い切る自信はまったくありません。

RMSなしにフォーキャストはできないのか

RMSがますます進化し、より正確でダイナミックなフォーキャストをはじき出すように日々進化している一方で、まだ多くの宿泊施設がフォーキャストをマニュアルで作成している、もしくはフォーキャスト自体をまったくしていないという状況でしょう。しかしRMSがないからといって心配はいりません。レベニューマネジメントにおける要ともいえるフォーキャストは、黎明期からその理論や仕組みが盛んに議論され既に確立されて現在に至ります。RMSのように、より複雑な計算式や要素の組み込みは難しいかもしれませんし、場合によってはRMSに比べると正確性に難がある場合もあるかもしれませんが、理論をおさえることによってきちんとしたフォーキャストをたてることは十分可能です。

一方で、RMSがないことで正確性に難があることを肯定してはいけません。RMS導入の有無に関わらず、レベニューマネージャーは正確なフォーキャストの提供に不断の努力をするべきですし、いかに正確なフォーキャストをはじき出すかはレベニューマネージャーの能力そのものを表します。現にまだRMSの導入が現在ほど盛んでなく、多くのホテルでマニュアルでのフォーキャスト作成が行われていた時、多くのレベニューマネージャーの評価指標の1つは「フォーキャストの誤差」でした。多くの外資系ホテルでも、月初時点での販売室数のフォーキャストとその最終実績の誤差をおおよそ3%以内におさえるという具体的な指標さえありました。

誤差3%以内は至難の業のように思われますか?実際にやってみるとそうでもありません。例えRMSを使用しなくても、理論を踏まえたきちんとしたフォーキャストを行えばほぼ正確なフォーキャストをはじき出すことは十分可能です。逆に現在マニュアルでのフォーキャスト作成を行っていてその誤差が多くの場合で3%を超えてしまう場合、一度フォーキャストのやり方を見直してみることをお勧めします。またレベニューマネージャーを監督する立場の方は、レベニューマネージャーがどれくらいの誤差でフォーキャストを出してくるか、ぜひ注視してみてください。

フォーキャストの種類

フォーキャストにはいくつか種類がありそれぞれ目的があります。すべてのフォーキャストを作成するかは別にして、それぞれのフォーキャストとその目的を紹介します。

a. Demand Forecast (ディマンドフォーキャスト)

いくつかあるフォーキャストの中でも最重要のフォーキャストです。仮に1種類のフォーキャストしか作成しないとしたら、それはディマンドフォーキャストです。また他のいくつかのフォーキャストはこのディマンドフォーキャストをベースとして作成するため、他のフォーキャストにも派生する重要なフォーキャストです。

b. Strategic Forecast (ストラテジックフォーキャスト)

上記で挙げたディマンドフォーキャストをベースに作成するフォーキャストです。ディマンドフォーキャストで予測される需要をもとに、具体的な料金戦術や需要コントロールを策定します。例えばディマンドフォーキャストで需要の高まりが予測される期間についてはBARの料金帯をあげる、ステイコントロールを適用する、コーポレートセグメントのNon-LRAの料金を閉じる、アロットメントを回収するなど、需要予測に応じた具体的な戦術を計画していきます。

c. Revenue Forecast (レベニューフォーキャスト)

ディマンドフォーキャストと非常に似通っていますが、ディマンドフォーキャストと比べ「より現実に即した」フォーキャストを提示するのがレベニューフォーキャストです。ディマンドフォーキャストとの最大の違いは、ディマンドフォーキャストはUnconstrained Demand (アンコンストレイントディマンド)で予測していくのに対し、このレベニューフォーキャストはConstrained Demand(コンストレイントディマンド)として予測をしていきます。この2つの用語はレベニューマネジメントにおいて非常に重要です。またのちほど、詳しく説明します。

d. Operational Forecast(オペレーショナルフォーキャスト)

このオペレーショナルフォーキャストは、文字通りホテルオペレーションを円滑に進めるために特化したフォーキャストです。上記のレベニューフォーキャストをベースに、同様のフォーマットで、またはより簡易的なフォーマット作成されます。このオペレーショナルフォーキャストは各オペレーションの部署に配布され、各部署はこの需要予測をもとに人員配置のシフトを組んだりリソースの発注、配分などを行います。

上記の4つのフォーキャストは、それぞれ違う目的と異なる手法で作成されますが、実際にはこの中のいくつかのフォーキャストは統合されている場合も多くあります。レベニューフォーキャストとオペレーショナルフォーキャストを1つのフォーマットとして作成している施設もあるでしょうし、ディマンドフォーキャストとストラテジックフォーキャストを1つのフォーマットで作成している施設もあるでしょう。

次回以降はこのそれぞれのフォーキャストのより詳しい目的とその作成方法、活用方法について紹介していきます。