常にユーザーに最適な予約環境が提供できているか

先日、Googleは5月25日をもってBook on Googleの機能提供を終了することを発表しました。


Book on Googleは2015年にGoogleによって提供が開始されたホテル予約サービスです。Googleが提供しているメタサーチサービスの「Google Hotel Ads」に表示された様々な予約ソースのオプションの中からBook on Googleを選択することによって、消費者はそれぞれの予約ソースに遷移することなく、その場でシームレスに予約を完結できるという特徴を備えたサービスです。


Googleがこのサービスの提供を始めた背景には、当時のインターネット環境を踏まえてのものでもあったようです。2015年当時、インターネット検索においてはまだデスクトップからの検索が優位であった一方、スマートフォンやタブレットの急速な普及に伴い、それらモバイルデバイスからの検索が大きく伸びていた時期でもありました。このような検索環境の変化は、それぞれの事業者に「モバイル検索環境下での操作性の向上」を求めたわけですが、今現在では当たり前となったウェブサイトのレスポンシブ化も当時はまだ普及の途上にありました。


Googleの哲学は「営利企業として業績を上げること」ではないということはあまりにも有名です。彼らの哲学は「常にユーザーに最適な検索環境を提供すること」、すなわちユーザーの利便性であり、Book on Googleもまさにその目的に資する形で始められたということだと思います。そして時は流れ、Googleは同サービスを終了する決断をしました。Googleによると、その理由として「ユーザー、事業者の両側面において同サービスの利用が減ったため」という点が挙げられていますが、それはまさに「ユーザーの利便性を提供するという側面において1つの役割を終えた」ということなのだと思います。


ホテルで働いていらっしゃる、特に普段からディストリビューションの業務に関わっている方々は、Google Hotel Adsなどをはじめとしたメタサーチプラットフォームに特別な注意を払って業務をされているかと思います。メタサーチ上で正しい料金が表示されているか、自社価格が最安値同等となっているか、OTAなどのサードパーティーで料金が削られていないか、毎日欠かさず確認されていることでしょう。レートパリティの問題については私も過去にシリーズとして大きく取り上げましたし、多くのレベニューマネージャーにとって懸念が共有されている要注意事項です。


そしてメタサーチ上で「最安値同等」の料金が出ている事こそが、自社予約、ダイレクトブッキングを増やす特効薬であるという認識が長らく共有されてきました。過去の様々な調査を見ても、消費者の「ホテルで直接予約したい」という意欲は高く、せっかくのその意欲を阻害しているものがレートパリティの問題であるという構図が出来上がっていました。しかしこの度、そのような既成概念を覆すような面白い調査結果を目にする機会があり、私自身も非常に深く考えさせられるきっかけとなりました。


この調査によると,アメリカのおおよそ1500人の回答者を対象に「あなたはホテルを予約する際、ホテルへの直接予約とOTAのどちらで予約しますか?」という問いについて回答してもらったところ,おおよそ40%の回答者がOTAで予約すると回答したようです。これに対しホテルで直接予約すると回答した回答者の割合はおおよそ30%でした。調査はさらに続きます。「ホテルで直接予約する」と回答した人にその理由を尋ねたところ、28%の回答者は「付加サービス(価値)を得るため」と回答し、「ベストプライス(最安値)だから」と回答した人は21%でした。では「OTAで予約する」と回答した人はなぜホテルでの直接予約を選択しなかったのでしょうか?「ベストプライス(最安値)ではないから」が32.1%で、これはやはりレートパリティを保つことの重要性を裏付けていると言えます。一方で、この32.1%をわずかに上回る32.9%の回答者は別の理由を挙げています。


それは「予約プロセスの快適性(ホテル直接予約の際の予約プロセスが不便)」でした。これ以外の理由、例えば18.6%の回答者が挙げた「支払い時のセキュリティに関する不安」、12.2%の回答者が挙げた「OTAで予約する方が早い」という点も「ホテルが提供する予約環境に帰する課題」と考えると、実に63%の回答者が「ホテルが提供する予約環境に不満があるから」という理由でOTAで予約することを選んでいるということになります。


この結果は、実は私たち(レベニューマネージャー)が常に考えている「レートパリティが保たれていないからホテルでの直接予約が増えない」という懸念はともすると視野が狭い考えで(もちろん、レートパリティを保つことの重要性がこの結果によって減ぜられることはないですが)、多くの消費者はそれよりも「ホテルが提供している予約環境に不満を抱いている」ということを示唆する非常に興味深い調査結果であると言えます。


また年代によって好まれる予約チャンネルが分かれていることも興味深い点であり、示唆に富むものです。同じ調査によると、35歳以下の消費者はOTAを好んで予約するのに対し、35から45歳のレンジではホテルでの直接予約を、そして45歳以上はツアーオペレーターでの予約を好むという結果も明らかになっています。早くからインターネットに慣れ親しんで生活の一部となっているデジタルネイティブ世代は、予約時の操作性という点についてより敏感になっているという結果なのかもしれません。


ホテルの予約エンジンは実にないがしろにされがちです。ホテルの開業する際に「安いから」「使用しているPMSなどのベンダーがサービスで付けているから」「開通までが早いから」などの理由でいとも簡単に決定されがちですが、この調査結果はそれがいかに危険な意思決定であるかを示しています。また開業後に入れ替えを検討することも稀ですし、例え入れ替えが検討、実施されたとしても「入れ替えること」に目的を見出してしまい、入れ替えることでホテルのダイレクト予約が増えるという誤解を抱いてしまうことも多々あります。


予約エンジンの操作性は、レートパリティと同じく「継続的に検討、改善され続けられなくてはならないもの」です。もともとの要件として優れた操作性や自由度の高いカスタマイズ性が備わっていることはもちろんのこと、ベンダーにも大規模な予算と労力を投じて日々、操作性の向上に向けて開発に取り組み続ける姿勢が求められます。(世界のメジャーOTAが検索・予約画面の向上のために大規模な精鋭開発部隊を持ち、日々その開発とテストが行われていることは有名です)


またホテル側も「導入して終わり」であってはいけません。写真やビデオなどのリッチメディアは常に最新のものが掲載され、定期的に見直しが行われているでしょうか。プランや部屋の紹介文は、商品の魅力を十分伝える内容になっているでしょうか。予約のプロセスは極力簡略化されていますか。いずれにせよ到着時に再度記入して貰うような情報を予約時に取得しようとしていませんか。


業務上レートパリティばかりにどうしても目が行きがちになる中、この度の調査結果を記載した記事は私にとっても、自戒を含め非常に考えさせられる内容でした。最後に、もう1つ興味深い結果をご紹介したいと思います。同じ調査で「ホテルは直接予約を促すために何をするべきだと思いますか?」という問いがありました。


これについてもまさに多くのホテル、宿泊施設が実際に取り組んでいる課題で「ベストレート保証」(最安値相当であること)や「ダイレクトブッキング特典」などとして特別アメニティや飲食のサービスなどを付与することが一般的です。多くのホテルが日々価格調整に腐心し、限られたコストの中から何とか意味のある付帯サービスを生み出そうと苦労している中で、1番多かった回答は「VIPサービス」(37.1%)でした。(大幅なディスカウントは22%、大幅な付加サービスの提供は19.7%でした)


この調査によると、多くの消費者が求めているのはディスカウントなどの価格由来のものではなく、また特典を付与するなどの付加サービス由来のものでもありませんでした。そこに求められているものは「大切なお客様である」という認知であり、そのレコグニションに過ぎなかったわけです。私たちはついつい「価格」や「付加サービス」といった「目に見える形での対価」を提供しようとしがちですが、ヒントは案外「ホテルとしてすべてのお客様を温かくお迎えする」という基本に隠れているのかもしれません。