OTAのプラットフォームがホールセールディストリビューションを丸ごと集約させるビジネスモデルがいよいよ確立されつつあります。先日、ブッキングホールディングスの1ブランドであるAgodaが、ホールセールプラットフォームの仕組みをさらに強化すると発表しました。

今一度おさらいをしておくと、この画期的なビジネスモデルの先達となったのは、さかのぼることコロナ前の「エクスペディアとマリオットの協業」でした。この契約により、マリオットのホテルから契約料金や在庫を仕入れることを希望するホールセラー、ベッドバンク、小規模な地域単位のOTA、ツアーオペレーターなどは、各マリオットのホテルとの個別契約やチャンネルの接続ができなくなり、代わりに、エクスペディアが提供するマリオットチェーンとしてのホールセールプラットフォーム経由の料金・在庫仕入れに一本化されました。言い換えると、マリオットのホテルから料金と在庫を仕入れたい場合は、エクスペディアの専用プラットフォームを通してのみ、そのアクセスと仕入れが可能となります。

この件で割を食ったのは、間違いなくホールセラー等の旅行会社でしょう。今までは各ホテルから直接特別料金を仕入れ、アロットメントなどの在庫の融通を利かせて貰っていたケースすら多々あったにも関わらず、今では半強制的にエクスペディアのプラットフォームを使わされ、その旅行会社のみの特別料金や在庫の融通もきかなくなりました。そこにあるのは、マリオットのチェーンとして定められた全旅行会社向け一律の契約料金と、共通在庫です。

この新たなディストリビューションの形は、ホテルにとってはメリットの大きいものになります。まずもって、多様化された様々なチャンネルの管理が不要となります。すべての料金と在庫はエクスペディアの専用プラットフォームを通してのみ管理されますので、旅行会社から提供される各チャンネルごとにチャンネルマネージャーを操作したり管理画面を操作する必要はありません。

また一元化されたプラットフォームにおいては、料金と在庫の透明性も確保されています。コロナ前、多くのホテルはレートパリティの問題に日々悩まされてきました。契約もしていない、名前すら聞いたことがないOTAに勝手にホテルの商品が販売され、挙げ句の果てには契約旅行会社に卸している料金より安く販売されるケースが頻発するものですから、ホテルとしてはたまったものではありません。販売を止めてもらおうと直接連絡したところでなしのつぶて、最終的な手段としてテスト予約をすると、思いもよらなかった契約旅行会社から予約受注の通知がある有り様です。

ディストリビューションが一元化されることにより、そのプラットフォームからさらに先の販売に関する監視と責任は、エクスペディアが代わって行うことになります。料金の不当なアンダーカット(引き下げ)が見られた場合には、ホテルはエクスペディアに連絡をし、あとはエクスペディアがその詳細を調査した上で、場合によっては該当のツアーオペレーターやリディストリビューター(Redistributor)にペナルティを課します。

日々竹の子のように生えてくる新たな、そして多様化するディストリビューションインフラの整備とアップデート、さらには新規接続等の煩わしい手間をすべて手放すことができるという点でも、ホテル側のメリットは大きいと思います。バックエンドでのチャンネルの接続作業は、膨大な量のマッピングなど、私たちが考える以上に大きな労力を要するということは私もよく耳にします。それを、言ってみれば金で解決できるわけですから、経営資源がいよいよ限られる昨今においては悪い話ではないでしょう。

また、BtoCのビジネスモデル一辺倒では心許ないOTAにとっても、既存インフラをBtoB向けに応用することでそこから新たな収入を得ることができるわけですから、おいしい話であることに間違いはありません。消費者に販売する側としてのディストリビューション、予約インフラをほとんど手中におさめ、なおかつそのインフラの独占的な使用により、多くの予約の動きをつぶさに観察することができるようになります。例えそれがエクスペディアで予約されたものでなく、全く違う旅行会社から旅行されたものであっても、そのデータはある意味エクスペディアによって丸裸にされているようなものですから、データの収集と活用という点においても、エクスペディアが得る果実は相当なものがあります。

マリオットが始めたこのディストリビューションの一元化の試みはうまく機能しているのでしょう。2022年、今度は同じく世界的なチェーンホテルのIHGがエクスペディアのディストリビューションネットワークを使用したビジネスモデルを開始を発表しました。

複雑で、もはやホテル単体では制御不能になりつつあるホールセールディストリビューションを、エクスペディアに一元化するこのビジネスモデルは、ホールセラーやOTAなどに対して対等な物言いができるグローバルチェーンのみの特権と思われる方も多いかもしれませんが、実はエクスペディアとしては、このビジネスモデルを既に一部のグローバルチェーン以外にも広げています。

報道資料では「すべての中規模・大規模施設へ展開」と記載されており、日本でも提供を行なっているのか、その契約詳細についてはわかりかねますが、今後、グローバルOTAが提供するオンラインプラットフォームに、ホールセールディストリビューションを集約させていく動きは、自然な流れになっていくものと思います。少なくとも、過去10年ほどの間に急速に複雑化し、ホテル価格の不当なアンダーカットやそれに伴うレートパリティの問題を引き起こすようになったディストリビューションを、再びホテルにとってある程度コントロール可能な状況に引き戻し、ホテルとして主体的な販売姿勢を維持するためには、現時点で取りうる最良の方法だと思います。