前回は皆さんに「なぜ天気予報を見るのか」という一見突拍子もない問いを投げかけ、多くの方がお持ちの「どのようにBAR料金を決めたら良いのか」という疑問に通じるヒントをご紹介しました。私たちが天気予報を参照する理由は、何も明日が晴れなのか、曇りなのか、雨なのかという大気の状態を知りたいがためではありません。その大気の状態を受けて決定される行動を判断するために、天気予報を参照します。その行動、それはすなわち、明日の外出時は傘が必要なのか、明日は屋外に洗濯物を干すことができるのかということです。

「〇月〇日のBAR料金をいくらにしたら良いか」という点のみを単独でいくら追及したところで答えは出てきません。なぜならば、それはあくまでも「どのように行動したら良いか」という質問であり、その答えを知るにはその行動が導き出される根拠を知る必要があるからです。そしてその根拠こそ、フォーキャストです。

別に私はここでまったく新しい考え方を提唱しているわけではありません。特にレベニューマネジメントに携わっている方にとって、「BAR料金をいくらで設定するべきかという問いに答えるには、フォーキャストを見る必要がある」という回答を聞いても、そんなことは百も承知と思われるでしょう。一方で、レベニューマネジメントに携わっていない方にとっては、フォーキャストをもとにBAR料金が決定されているという点は意外に知られていません。例えば営業の皆さんは、レベニューマネジメントチームに団体料金の照会をする際「4か月先の〇月〇日はまだ稼働が20%しかないから、きっとかなり安い団体料金を提案することができるに違いない」と考えたことはありませんか?その期待に反する形で、レベニューチームから驚くほど高い料金を提示されたこともあるでしょう。またフロントオフィスの皆さんは「4か月先の〇月〇日はまだ稼働が20%しかないから、消防訓練のために3フロアの販売停止をかけられる」と考えて申請した手続きを、にべもなく断れられたという経験をお持ちかもしれません。

これはいずれも、レベニューマネジメントが常に「現状ではなく、フォーキャストと呼ばれる未来の需要予測にもとづいて行動を判断しているから」に他ありません。BAR料金をいくらにしたら良いかという判断についても、現状(今の稼働が〇%か、BAR料金がいくらか)を基づいて行うのではなく、「その日が最終的にどうなる見込みか」というフォーキャストをもとに判断されます。この「レベニューマネジメントにおける多くの判断はフォーキャストに基づいて行われている」という点は、ぜひ皆さんに知っておいていただきたい重要な考え方です。そしてこの理解が十分に浸透していないがゆえに、それが実際に多くの勘違いや誤った判断を招いていることも事実です。

私が「レベニューマネジメントにおける多くの判断はフォーキャストに基づいて行われている」という点をことさら強調する理由は、宿泊施設の皆さんとお話をしている中で、多くの皆さんの注意が「〇月〇日にいくらで出したら良いのか」、「〇月〇日のBAR料金をもっと上げるべきなのではないか」、「〇月〇日は稼働をもっと取るためにBAR料金を下げるべきなのではないか」という点に大きく向いていて、その根拠となる「〇月〇日のフォーキャストがどのようになっているのか」、「そのフォーキャストがどこまで正確なのか」、「そのフォーキャストによると、〇月〇日の到着日(Day of Arrival)までの道筋はどうなっているのか」フォーキャストそのものへの注意が不足しているように思うからです。

ここで「フォーキャストはどのようにされていますか」という質問をすると、残念ながらトーンダウンするケースも少なくありません。正確なフォーキャストを行うためのマーケットセグメントの設定が適切に行われていなかったり、マーケットセグメントのごとの積み上げフォーキャストが行われず、全体の販売室数のフォーキャストが一括で行われていたり、関連のあるデータの参照が特に行われず、完全に「勘と気合いと経験」だけでフォーキャストが行われているケースも見受けられます。現実は、そのように必ずしも適切とは言えない方法で導き出されたフォーキャストをもとにBAR料金を算出しようとしても、きちんとした根拠に基づいた判断にはつながりません。そこから生じる不安が、皆さんの「どのようにBAR料金を決めたら良いのか」という多くの問いにもつながっているように思います。

宿泊施設によっては、「競合で販売されている料金」のみを根拠に自らのBAR料金を設定されている例も見受けられますが、これも陥りがちで気をつけたい落とし穴です。例えば5月20日のBAR料金について、自らの施設はBAR料金を20,000円、自らが常にベンチマークをしている競合施設AもBAR料金を20,000円で設定していたとします。ある日、競合施設が5月20日のBAR料金を25,000円にあげたとします。このシナリオで、皆さんであればどうされますか?競合で販売されている料金のみを根拠にBAR料金を設定している施設であれば、当然、自らのBAR料金も25,000円にするでしょう。ただ、もしここで競合施設が料金を上げた根拠が「全体稼働の10%を占める大きな団体が決定した」という場合はどうでしょうか?そのビジネスにより競合はフォーキャストが90%, 同等のビジネスがない自らの施設はフォーキャストが60%という事態は考えられないでしょうか?その場合、自らの施設の価格を競合に追随して25,000円にあげることは理に適っているでしょうか?

逆のシナリオは、私をはじめ多くの方が経験したことがある、非常に身につまされる話かもしれません。5月20日の自らの施設のBAR料金は20,000円で、自らのベンチマークである競合施設AもBAR料金は20,000円で販売されていることから、あなたは非常に競争力のある料金を出すことができていると考えています。ある日、突然競合施設AがBAR料金を15,000円に値下げしました。その急激な値下げを見て焦ったあなたとホテルのメンバーは、競合施設Aとの競争力のある料金を維持するために、BAR料金を15,000円に下げることを決めました。ただ、もしここで競合施設が料金を突然下げた理由が「担当者の料金の入力ミス」であればどうでしょうか?「競合施設内での内輪もめの結果、マネジメントにより突然料金を大幅に下げることが決定された」場合も考えられますし、「確約されていた団体ビジネスが突然キャンセルされた」場合も考えられます。いずれの場合も、その理由だけをもってして、自らの施設のBAR料金も15,000円に調整する根拠となるでしょうか?もし、その日の自らの施設のフォーキャストが80%であった場合はどうですか?20,000円のBAR料金で80%を達成する見込みであるにも関わらず、あえてそこでBAR料金を15,000円に下げる必要はあるのでしょうか?

フォーキャストとは、自らの施設の過去の実績やそこから観察されるトレンド、パターンをもとに算出する、ある未来の時点のビジネスの状態、およびそこに至るまでの道筋です。そして販売されるBAR料金は、そのシナリオを描く、ポイント、ポイントにおける道標です。描かれる道筋なくして、その途中途中の道標を決めることができないことと同様、正確で確固たるフォーキャストなくして、それらの道標であるBAR料金を決めることはできません。

つまり「〇月〇日のBAR料金をいくらにしたら良いか」という問いに答えるためには、まず「〇月〇日のフォーキャストはどのようになっているか」という点を経る必要があり、なぜそのようなフォーキャストになったのか、そのフォーキャストの判断となった背景と要因を十分に理解することによって、それが「BAR料金をいくらにしたら良いか」という判断につながるのです。