正確な予約情報から始まる─ガベッジイン・ガベッジアウトが表す現実

昨今はレベニューマネジメントにおける需要予測、フォーキャストへの皆さんの意識がかなり高くなっていると身をもって感じています。以前は「いくらで出したらいいか」という価格設定に対する関心がその大半だったと思いますが、それと同じくフォーキャストに関する関心、とりわけ正確なフォーキャストを出すためにはどうしたら良いかということに多くの皆さんが腐心されていることがよく伺えます。

私自身は既に何回も言及していますが、フォーキャストは宿泊施設の販売活動における礎です。いくらで価格を設定したら良いのか、いつ価格を上げたらよいのか、需要が期待されたほどない場合はどのような施策を取るべきなのか、ピークシーズンはどのように需要を選別したらよいのか、これらすべての問いの前提となるのがフォーキャストで、きちんとしたフォーキャストがあって初めて、このような問いに向き合い、必要な戦術を繰り出していけるものだと考えています。そういった点で、数年前と比べて明らかに皆さんのフォーキャストに関する関心が高まっていることは非常に素晴らしいことであると感じます。

一方で、多くの皆さんが引き続きフォーキャストに対して多くの課題を感じているように思います。フォーキャストに対する意識が社内で統一化されていない(予算とフォーキャストを同一視する傾向にある)、フォーキャストが社内事情で意図的に歪められる(ゴールの意味合いを含むフォーキャストが作られる)、そして正確なフォーキャストを作ることに苦労しているなど、皆さんのフォーキャストに関する関心が高まっているのは歓迎すべき一方で、引き続き多くの皆さんがフォーキャストという行為に課題を感じている状況のように思います。

フォーキャストについては以前、多くの場を用いてその目的ややり方等について説明しております。レベニューマネジメントにおけるフォーキャストの作成とそのプロセスは、決して施設ごとに独自のやり方があって、レベニューマネージャーの「勘と経験と気合」だけで作られるものではありません。フォーキャストのプロセスはレベニューマネジメントのセオリーできちんと定められており、適切なやり方に沿って作成されてこそ正確で意味のあるフォーキャストができうると定義されています。裏を返すと、きちんとしたプロセスを踏まずに作成されたフォーキャストは、その有効性や正確性に課題が出てきてもおかしくはなく、適切なプロセスを踏まずに作成されたフォーキャストが合わないというのはそもそも議論として適切ではありません。また会社の意図が介入し多くの思惑が絡み合ったフォーキャストが合わないという場合も同様で、そもそも会社の意図が含まれたフォーキャストはフォーキャストとすら言いません。

私は現在レベニューマネジメントシステム(RMS)を提供する立場でレベニューマネジメントという考え方の普及に努力していますが、フォーキャストを提供する、正確なフォーキャストを提供するというのはレベニューマネジメントシステムにとってはその根幹であり、そのシステムの存在意義すら左右する非常に重要な要素です。当然、私も日々「このシステムはどれだけ正確なフォーキャストを出すのですか?」「フォーキャストの誤差はどれくらいですか?」という質問をよく頂戴します。実はこの問いに回答することは容易ではありません。逆に、私自身がもし同様の質問をする立場にある場合、質問に対して「3%以内には確実におさえられます」「5%は問題なく狙えます」という答えがシステムベンダーからあれば、私にとってそのシステムは残念ながら信用に足りません。なぜならば、フォーキャストの正確性というのはシステムの性能や作りによってのみ決まってくるものではないからです。

レベニューマネジメントシステムの文脈でよく使われる「ガベッジイン・ガベッジアウト」(Garbage in, Garbage out)という言葉があります。日本語に訳すと「ゴミが入ればゴミが出る」という意味で、このたった1文に前段の「どれだけ正確なフォーキャストを出すことができるのですか」という問いに対しての簡単な、そして一律の数字では答えを出すことはできないという意味がそのまま反映されています。

レベニューマネジメントシステムはPMSから予約情報を受け取り、それをもとにフォーキャストを生成します。そしてさらに、そのフォーキャストをもとに「いつ、どこで、どうやって」販売するべきかという販売指示の生成につなげます。むしろ、ここにシステム介在の有無は問いません。例えレベニューマネジメントシステムがなくマニュアルでフォーキャスト作成を行っている環境であっても、プロセスは同じです。PMSに入っている予約情報を参照し、それをもとにフォーキャストを作成し、フォーキャストをもとに販売戦術を組み立てる、皆さんが普段から意識せずとも取り組まれていることです。つまりすべての起点となるのはPMSに入っている予約情報で、「ゴミ」という過激な言葉の是非は置いておいても、PMSに入っている予約情報が正確でなければ、それを踏まえて出されるフォーキャストや販売指示も正しいものは出てきません。

もっと言うならば、予約情報のみならず、レベニューマネジメントシステムに入力されている、登録されているすべての情報、設定が正確、言い換えると宿泊施設の意思を正確に反映されたものでなければ、その意図に沿ったフォーキャストと販売指示が出てこないのは当たり前のことです。この一見すると当たり前のように思われる「予約情報が正確でなくてはいけない」、これが簡単なように思えて私自身が認知している宿泊施設における大きな問題の1つです。例えば販売システムやPMSとの連携が十分に取れていない施設においては、いまだに多くの施設で「マニュアルでの予約入力業務」が公然と行われています。そして多くの宿泊施設では、日々受信する予約情報をマニュアルでPMSに即時反映させるほど人手に余裕がありません。受信した予約はとりあえず通知として置いておいて時間があるときにそれをPMSに入力する、1週間ごとにまとめて入力する、このような作業が行われているのが実情です。またタイムラグを経て入力された予約についても「時間がある時に詳細のアップデートをするとして、とりあえず在庫だけ引いておく」といった作業のみが行われるということも想像に難くありません。

また、システムから自動で予約を受信しそれをPMSに反映できる接続が確立されているからといって、それが正確な予約反映を意味するものではありません。例えシステム間が接続されていたとしても、予約受信にはすべて「前準備」が必要です。プランを登録し内容をアップデートしコード同士を紐づける、この前準備がきちんとできていないと、PMSが予約受信をした際に正確な予約情報がアップデートされることはありません。「予約を受信した」ということは認識されるものの、それが「どのような予約であるか」という内容がきちんと反映されていない限り、その情報は正確とは言いません。予約を受信したけれどもなぜか販売金額が0円で入ってきた、正しいマーケットコードが紐づいていない、これによりせっかくタイムラグなく予約が入ってくるという環境が実現されていても、正確な予約情報を受信するという点は達成されていません。

さらに、他にも正確な予約情報の登録と相反する行為は日常的に発生します。例えば、営業部が団体予約受注の時にビジネスをより円滑に進めるために行う、また団体に限らず中途半端な予約プロセスで発生する仮予約、これは残念ながら「正確な予約情報」とは言いません。この情報を人間が扱うか(マニュアルでフォーキャストをするか)、レベニューマネジメントシステムが扱うかに関わらず、仮予約、つまり来るか、来ないかわからない予約は、正確なフォーキャストを作成するための大きな阻害要因です。アロットメントについても同じです。アロットメントの適切な管理を行っていない限り、その影響の度合いにより正確なフォーキャスト生成への大きな妨げとなります。オペレーションの理由で売り上げへの影響や販売チームへの確認なく、不必要に乱発されるアウトオブオーダーや部屋おさえも然りです。アウトオブオーダーをかける、お部屋をおさてしまうということは、販売上「それ以上該当の部屋を販売できないようにする」ということであり、その事実は当然、フォーキャストと販売指示にも大きな影響を与えます。オペレーションの観点では「あとでまた販売可能な状態に戻すから」「2日間だけおさえるだけだから」と簡単に考えることもありますが、期間に関わらずある部屋を販売できない状態にするということは、まぎれもなく正確なフォーキャストへマイナスの影響を与えます。

私がかつて宿泊施設で実際にフォーキャストを管理していた立場でまず毎朝確認することは、上記のような「正確なフォーキャストの作成を妨げるような要因となる予約、部屋のおさえがないかということを確認すること」でした。これは基本的な予約の知識があり、前日から当日に入った予約を毎日簡単に確認する仕組みさえ整っていれば、まったく負担になる作業ではありません。むしろ、前日から当日の予約の動きをおおまかに確認することができ、今起きていることを瞬時に把握するにはうってつけの作業だと思います。正確な予約情報の入力が行われているか、言わばゴミが入っていないかということをまずは確認してこその、その後のフォーキャストのアップデート、販売指示の検証とアップデートにつながっていくのです。

既に皆さんもお気づきの通り、私が「システムのフォーキャストの正確性はどれくらいですか?」と聞かれた際に即答できない理由はここにあります。入っている予約情報が正確であれば、システムはかなり正確なフォーキャストを出す能力をもっています。一方で、システムは「今月の現時点での販売室数2,200室のうち、100室が仮予約である」ということを知りません。また「既に100%のフォーキャストを出している来週の3連休初日のオンハンドの中に、5部屋の仮予約と3部屋のオペレーション事由の部屋押さえがある」ということも知りません。これはシステムの有無に留まりません。レベニューマネージャーが自分でフォーキャストをする時に「リテールのマーケットセグメントとして登録されている150室分のオンハンドが、実はホールセールのマーケットセグメントかも」と疑問を持つことはありません。入力されている予約情報を100%の正として、それを前提としてフォーキャストをするのが自然な流れです。正確な予約情報が登録、運用されている環境で正確なフォーキャストが出せないのはレベニューマネジメントシステム、またレベニューマネージャーの力量不足かもしれません。そもそも正確な予約情報が登録されていない中で正確なフォーキャストを出すのは、もはや魔法であり議論として適切ではありません。

正確なフォーキャストの必要性への理解が明らかに高まっていることはとても喜ばしいことです。しかし正確なフォーキャストとは、熟練のレベニューマネージャーや優れたレベニューマネジメントシステムのアルゴリズムだけが生み出すものではありません。その前提となる「正確な予約情報」という土台があってはじめて成り立つものです。「正確なフォーキャストが作成できない」という課題だけに焦点を当ててしまっては、その問題は永遠に解決できません。「ガベッジイン・ガベッジアウト」、この言葉が示すのは、宿泊予約のプロセスやオペレーションそのものへの警鐘であり、その基盤が整わない限り、皆さんの悩みへの解決の扉は決して開かれません。


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