レベニューマネジメントの戦略的な仕事- 2

ストラテジック・フォーキャスト(戦略的な需要予測)

フォーキャスティング(需要予測)はレベニューマネジメントの肝で、最重要の仕事の1つといっても過言ではないでしょう。正確な予測は現状と未来の正確な把握につながり、その正確な把握は適切な行動へとつながります。レベニューマネジメントで行わなくてはならないフォーキャストは大きく分けて3種類ありますが(フォーキャストについてはまた別項で詳しく解説します)、1番基本となるデマンド・フォーキャストを踏まえたうえでの価格戦略を策定してく作業が、このストラテジック・フォーキャストの役目となります。具体的には、例えばデマンド・フォーキャストにおいて予測される「制約のない需要」(アンコンストレイントデマンド)が高い期間には、ホテルとして獲得したい需要の選別と、ステイコントロールやBARの価格帯を操作して、その獲得したい需要をうまく誘導する施策を策定します。デマンド・フォーキャストと連動させ、ある程度の基準値にもとづく条件設定をしておくと取り組みやすいでしょう。例)デマンド・フォーキャストで販売室数が〇部屋に達した時点で、Non-LRAの企業契約料金を販売停止とし、BARの価格帯をBAR3からBAR4に上げる

ストラテジック・ディストリビューション(ディストリビューション戦略)

既にご紹介した通り、ディストリビューションとはホテルが使用しているネットワーク全般を指し、レベニューマネジメントにとっては特に予約ネットワークを指しています。「ディストリビューションをどのように構築するか」、「現在のディストリビューションは最適化されているか」、「ある特定のチャンネルへの依存度を減らすにはどうしたら良いか」という点は、いずれもこのディストリビューション戦略に当てはまります。

レベニューマネジメントの目的は、厳密にいえば「売り上げの最大化」ではなく、「利益の最大化」です。ただ稼働が高ければ良い、単価や売り上げが高ければ良いというだけでなく、いかにコストをおさえたうえで、売り上げを最大化するかという点が究極の目的です。そういった意味でも、ここ3,4年で特にインターナショナルチェーンホテルが積極的に推進した「ブック・ダイレクト」(ホテルへの直予約推進のキャンペーン)は、多額のコミッションを払わなくてはならないOTAへの予約依存度を減らし、よりコストが安いホテルの公式ウェブサイトからの予約を推進するという意味で、このストラテジック・ディストリビューションで検討されるべき課題となります。ディストリビューションの多様化により上がり続けるアクイジションコスト(顧客の獲得コスト)をおさえるために、ホテルとして何度も滞在してくれるリピーターをいかに増やすか、また、昨今のディストリビューションの複雑化が生み出した非常に厄介な副産物、「レートパリティ」の問題についても、この側面から取り組むべき大きな課題の1つです。最適な予約チャンネル構成の検討と策定を目指すこのストラテジック・ディストリビューションの重要性は、ディストリビューションの複雑化と多様化に伴いよりますます重要になってきています。

レベニューマネジメントの仕事は、中・長期的に今後のホテルの方向性を描く、よりストラテジック(戦略的)な仕事にシフトしてきています。今までのレベニューマネジメントはタクティカル(戦術的)な仕事が中心でした。数字を抽出しそれをレポートにまとめる、フォーキャストを作成する、競合の料金などのマーケット情報を集める、在庫をコントロールして料金を決定し各チャンネルに流す、各チャンネルの料金・在庫をコントロールする、こういった仕事に日々忙殺されていましたが、現在ではこういったタクティカルな仕事はレベニューマネジメントシステム(RMS)によってほとんど自動化されています。(日本においてはいまだにこのRMSの導入に高い壁があり、このタクティカルな仕事の自動化は、現状ではほとんど進んでいません)

これらの戦術的な仕事の自動化によって、レベニューマネジメントはより戦略的な視点に重点を移すことができるようになったともいえるのですが、上記のような販売戦略策定の全般においてレベニューマネジメントが主導的な役割を果たすことは、以下の点からも理にかなっているといえます。

・ホテル内の誰よりも数多くの、そして詳細なデータにアクセスできる

レベニューマネジメントで扱うデータは非常に広範囲に及びます。宿泊予約に関するすべてのデータはもちろんのこと、顧客のプロファイルや過去の滞在履歴といった顧客情報全般、マーケットや競合ホテルの情報、公式ウェブサイトにおけるアクセス数や予約転換率といったデータまでアクセスすることができ、それらの数字の解釈のプロフェッショナルです。ホテル内の誰よりも数多くの、そして詳細なデータにアクセスすることができ、さらにそれらの数字を解釈して他の人にわかりやすく伝える、ホテル内で誰よりも優れたデータ通訳者の役割も担っています。それが常に良い結果をもたらすかは別としても、ビジネスにおける数々の決定事項は、数字や事実にもとづいた決定が求められる中で、その決定に関わる様々な要素を提供するレベニューマネジメントが、販売戦略の策定において主導的な役割を果たさなくてはならないことは自然の流れです。

・特定の部署、個人の利益に左右されない

レベニューマネージャーの責務は「ホテルの売り上げ(そして利益)を最大化すること」です。レベニューマネージャーがくだす様々な決定は、全てこの責務に沿ってなされなくてはいけません。例えば、ホテルの販売戦略策定の過程において、ある重要な顧客(会社や旅行会社)との契約を見直さざるを得なくなった場合、その顧客を自ら担当している営業担当者やその上席がその最終決定に関わることは、はたして理に適っているでしょうか。もちろん、通念的に「最終的にはホテル全体の利益となるような決定がされるべきである」ということは言葉ではわかっていても、自分が普段から担当する顧客の反応やその影響、また自らや部署全体の営業成績への影響を考えると、なかなか客観的な判断がしにくくなるということは、これは人間であれば致し方ないことです。その点において、常にホテル全体の売り上げを最大化することのみに集中しているレベニューマネージャーが、こういった決定を主導していくことは理に適っています。一方で、そういった独立した判断がくだせる権限委譲と組織内での位置づけが図られている必要がありますが、これについてはまた改めてご紹介したいと思います。