ここ2,3年でにわかに注目を浴びるようになった、レベニューマネジメントにおける人工知能の活用ですが、レベニューマネジメントシステムにおいての人工知能の活用は、何もここ数年で始まった話ではないと申し上げました。人工知能の確固たる定義はまだ固まっていませんが、機械学習という分野が人工知能の中に内包されると考えると、もうかれこれ10年以上、レベニューマネジメントシステムにおいてはこの機械学習の技術が使われております。

ちょうど先日、ホテルにおけるデータサイエンスの活用についての優れた寄稿をフォーカスワイヤーの記事で見つけましたので、その記事を抜粋してみました。

表題は「データサイエンスとは何か、それはホテルに何を可能にするのか?」ですが、このデータサイエンスは、ホテルにおいては特にレベニューマネジメントシステムの分野で1番活用されています。データサイエンスとはデータの科学的アプローチの総称であり、機械学習がそれを達成するための手段だとすれば、膨大なデータの蓄積、解析、最適解の導きを行うレベニューマネジメントシステムは、まさにデータサイエンスを行うツールであるといえるでしょう。なぜ、ホテルにおいてこのようなシステムを活用する必要があるのか、レベニューマネジメントシステムにおいて人工知能(機械学習)は一体どのような役割を果たしているのか、その点について非常に示唆にとんだ内容であるといえます。

“データ、データ、データ… 「データ活用の重要性」はまさに私たちが近年、幾度となく聞いてきた文句です。そして今、私たちはコロナ禍の真っただ中にいて、以前とは違った知見や新たな需要を見出すことが求められている中、データを駆使することはもはや「重要」から「決定的」な要素となりました。しかし「データを活用する」という号令だけが盛んに喧伝されるなか、そもそもそれは何を意味しているのでしょうか?そもそもどのようなデータがあって、どのようにデータが収集できて、それをどのように活用したら良いのでしょうか?

このデータを収集し活用するという考え方、仕事はおもにホテルのレベニューマネジメントと結びつくことが多いように思います。レベニューマネジメントにおいては、データを収集し、分析し、それを行動に移していくことが求められるからです。そしてレベニューマネジメントはレベニューマネジメントシステム(RMS)、ビジネス情報分析ツール(BI)といったツールに頼っています。これらのツールの重要性は言うまでもないことで、これだけ世の中にデータがあふれる中、どのデータに関係性があってどのデータが重要なのか、それを見きわめ、最適な答えをみちびきだしていくことは人間の頭脳だけではなかなかできないことです。

例をあげましょう。もし、あなたがBARの料金を500円上げようと考えていると想像してください。この500円の値上げによる各セグメントへの影響はどうだろうか、各チャンネルへの影響はどうだろうか、そしてこの値上げに対して競合ホテルはどのような対抗措置を取ってくるだろうか。コンピューターは「もし〇〇だったら」という何万通りものシナリオを瞬時にはじき出し、最適な決定をするのに必要な要素を導き出します。これが「データサイエンス」の要諦です。

レベニューマネジメントシステムの役割は、稼働状況に応じた価格の上げ下げ、関係性のあるすべてのデータの洗い出しから分析まで非常に広範囲にわたります。それは単に部屋価格の「値づけ」(プライシング)にとどまらず、ホテルのビジネスにおけるあらゆる経営判断を手助けします。ホテルの価格決定のプロセスを例に挙げると、あらかじめ設定されたアルゴリズムが「ホテルの売り上げを最大化する」というゴールを達成するために、全てのデータを参考にするように設計されています。ただ、一方で手元にある全てのデータが全てのホテルに関係性があるとも限りません。例えば気象情報を考えてみましょう。リゾートのホテルにとっては、需要の予測を行うのに台風などの気象情報は非常に重要になりますが、一方で大都市のホテルにとってはあまり関係性がないかもしれません。ここで大きな役割を担うのが、データサイエンスです。何万通りもの計算を瞬時に行い、どのデータが該当施設にとって関係性があるかを導き出します。結果、もしかしたら前年同月のデータはあまり関係ないと結論付けられる一方で、季節波動は関係性が高いという結論が導き出されるわけです。ビジネス情報分析ツール(BI)がデータを視覚的に表し、ホテルオーナーなどにわかりやすく表示させることに優れたツールであっても、BIははたしてどのデータが重要で、関係性があって、経営判断に影響を与えるということまでは教えてくれないのです。

レベニューマネジメントにおいてフォーキャスト(需要予測)の重要性は言うまでもないことでしょう。データサイエンスではここでも、必要なデータとそうではないデータをみわける重要な役割を担います。通常、フォーキャストはPMSから抽出された予約データをもとに、競合ホテルの予約状況や価格などを見て決定します。ここで、競合ホテルのデータが自分たちのホテルのフォーキャストと価格決定にどの程度重要視されるか、これは引き続き議論がある問題です。コロナ禍以前においては、各ホテルは需要の積み上がりの履歴、すなわち確固たるヒストリーを持ち合わせており、競合ホテルの動向や価格にもとづいて自分たちのホテルの方向性を決めることは適切ではないという声があった一方で、現下の状況においては、自分たちのホテルの方向性を定めるのに競合ホテルの動向や価格を考慮しなくてはならないのは当然のことです。ここでもデータサイエンスが大いに活用されます。状況に応じた関連性のあるデータを選び出し、最適な提案を行います。

必要なデータをすべて入手し、自分たち自身(人の手)で分析をする方が良いと考えている方もいらっしゃるかもしれませんし、レベニューマネジメントはそういった仕事を行う専門部署です。しかし最適な提案を行うために必要なことは、単なるデータの蓄積でなく、その蓄積されたデータから関連性と重要性をみきわめ、何万通りものシナリオを計算してホテルにとっての最適解を導き出すアルゴリズム、計算の設計です。これにはデータの蓄積と、その解読のための特別な環境の設計が必要です。

レベニューマネジメントは科学とアートの組み合わせであるという側面は、これからも続いていくでしょう。科学の面においては、より複雑なデータと最適解の導き出しを行うようになり、この流れがレベニューマネージャーをより、戦略的な仕事へとシフトさせます。データサイエンスは決してレベニューマネジメントに取って代わるものではありません。それは、レベニューマネジメントをさらに進化させるものなのです。”

引用:What is data science and what does it enable hoteliers to do? | PhocusWire