ロボットはホテルにとっての救世主となりえるか?

ここ2,3年で、日本のホテルにおけるロボットの導入が盛んに議論されるようになり、実際に導入されるケールも多くなってきました。広義のテクノロジーという意味で、このトレンドはレベニューマネジメントシステムにも新しい風を吹き込もうとしています。しかしロボットは本当にホテルにとっての救世主となるのでしょうか?

ホテルのオペレーションにおいて、実際にロボットが導入される事例を少しずつ聞くようになってきました。あるホテルで導入されたロボットは、実際にお客様に対して挨拶などのお声がけをするそうですし、別のホテルで導入されたロボットは「デリバリーロボット」と呼ばれる、滞在のお客様からリクエストがあったアメニティなどを部屋に届けるロボットが導入されているようです。

率直に申し上げて、私はホテルでのこのようなロボットの活用方法に違和感を感じています。少なくとも現段階における作業のロボット化は、ロボットが部屋にタオルを届けるといった類のものではなく、いかに作業を自動化するかという点にもっと集中するべきだと思うからです。ロボット化されたホテルといえば「変なホテル」がその代表格ですが、私はこのホテルのコンセプトは「ホテルの未来を体現する」であったり、「ホテルにおけるロボットの可能性を実験する」といったものではなく、「ロボットを楽しむ」といったエンターテインメントの要素としてのロボット提供を行っているものと理解しています。

例えばレベニューマネジメント、ディストリビューションの世界だけを見ても、いまだに自動化されておらずに、人の手が介在しなくてはならないケースはたくさんあります。ほとんどの日本のホテルでは、いまだに料金コントロールや在庫コントロール、各チャンネルコントロールなどを大部分、もしくは一部分を手作業で行っているでしょうし、社内で作成するレポート1つをとっても、エクセルにデータをダウンロードして加工する作業を行っております。オンライン予約受注のすべてが自動化されているわけではなく、予約元から流れてきた予約通知をもとに、それをPMSに予約情報として手作業で打ち込む作業を行っています。また、例えばホテルからEDM (広告Eメール)を1本送るにも、データを抽出し、受信グループのセグメント化などをマニュアルで行い、文面を自分たちで考えて送るという手作業での「仕込み」をしています。こういった作業のすべてを自動化していくことが、ホテルにおけるロボット化に必要とされていることであり、まずはすべてのホテルに取り組んでもらいたいことだと考えています。私が言うロボット化(自動化)は確かに、いわゆるロボットが何かをするわけではないですし、あまり華々しさのない、どちらかといえば地味なアイデアかもしれません。しかし、タオル1枚を部屋に届けるロボットの開発のために長い期間と費用を投資する以上に、まずは既存の仕組みやシステムの効率化に取り組んでほしいと切に思います。

さらに、私が違和感を感じているホテルにおける新しいテクノロジーの導入事例が、フロントにおける自動チェックイン機です。ここで私の実体験を紹介したいと思います。ある地方のホテルに泊まった時の話ですが、そのホテルは最近オープンしたばかりのビジネスホテルの有名チェーンホテルでした。ロビーに到着すると有人のフロントと無人の機械が数台設置されていました。私は時間短縮のために機械でチェックインを済ませようと考え、画面を操作しようとしました。そうするとメッセージで「先にチェックインのカウンターでチェックインの手続きをしてください」という案内があったのです。結局私はまず有人のチェックインカウンターに赴き、宿帳を記載し、鍵を受け取りました。そして最後に支払いを済ませようとすると、今度は「支払いはあちらの自動精算機でしてくれ」という案内をされたのです。結局、宿泊の登録と鍵の受け取りは有人デスクで行い、そのあとの支払いは無人機械に案内されるという、非常に煩わしい経験をさせられました。

私は自動チェックイン機のアイデア自体に反対しているわけではありません。ただ、そういったテクノロジーはまず利用者(滞在者)に利便性があってしかるべきだと思いますし、その上でホテルのオペレーションを自動化する手助けとなるべきものだと思っています。上記の例のように、利用者の立場から見ると何も便利なことはないのに、ただホテルのオペレーションの簡便化だけを考えたテクノロジーの導入は本末転倒です。もし自動チェックイン機が、有人で行う場合に比べてはるかに時間を短縮できるものであるならば、それは利用者にとってもホテルにとっても大いに資するものだとは思いますが、有人で行っている作業と同じ作業を無人で行うだけという自動チェックイン機は、ホテルに少し厳しい言い方をすると、「ただホテルが楽をしようとしているだけ」に思えて他なりません。あらかじめアプリで宿泊情報の確認と登録、支払いまでをすべて事前に済ませることができ、ホテル到着時はフロントを通らずにそのまま部屋に直行し、QRコードで部屋に入室することができる、もしくはフロントに用意された自動チェックイン機にQRコードをかざすと鍵が発行されて、そのまま部屋にいくことができる、このようにまずは利用者の利便性が向上することを前提にして導入されるべきものがテクノロジーであり、利用者にとって利便性があまり実感できない、またはまったく実感できないのに、ただホテルの手間だけを省くために導入されるテクノロジーには強い違和感を感じています。

Booking.comによる調査「2020 Future of Travel survey」によると、回答者のわずか21%が自動チェックインなどを含めたセルフサービスキオスクをもっと利用したいと考えている一方、回答者の55%が「もっと自分にあった旅を提案してもらうために、テクノロジーを使ってほしい」という回答をしているようです。利用者の利便性を高めたうえでホテル業務の自動化を進めるテクノロジーとはなにか、少なくとも現段階ではそれはロボットに挨拶されたり、ロボットがタオルを届けてれることではなさそうです。

参考:HNN – Predictions for the future of travel (hotelnewsnow.com)