なぜチャンネルごとの料金設定は機能しないか―”GDSの料金”、”OTAの料金”の限界

これは前回の「“ウェブ予約”や“海外個人”はマーケットセグメントか?―マーケットセグメントとは」でもご説明した、マーケットセグメントの定義づけがきちんとされていない、もしくはマーケットセグメントとチャンネルを混同する傾向にある、といった課題からくる習わしかと思いますが、チャンネルごとの料金設定を行っているホテルを非常に多く見かけます。今回はこのチャンネルごとの料金設定の限界と、なぜチャンネルごとの料金管理が機能しないのかという点について記載したいと思います。

多くの宿泊施設で、チャンネルごとの価格設定は非常に一般化していると思います。例えば同じお部屋代のみの料金であっても、電話予約は〇〇円、公式ウェブサイトからの予約は〇〇円、OTAからの予約は〇〇円、GDSからの予約は〇〇円というように、予約を経由するチャンネルによって金額が異なる価格コントロールの仕方です。

このチャンネルごとの価格設定は、日本のホテル特有の価格設定方法ですが、私の知人は、このチャンネルごとに価格をわける習慣を「一昔前、ディストリビューションにおいてプロフィットマネージメント(利益を最大化する)という考え方が急にもてはやされた時があり、その際にどのホテルもチャンネルコストや旅行会社への手数料に急に目を向けるようになった結果、チャンネルコストや手数料を転嫁したチャンネルごとの価格設定をするようになったのではないか」という背景を話してくれました。

繰り返し述べている通り、レベニューマネジメントの要諦は売り上げの最大化とともに、利益の最大化でもあります。売り上げを懸命に上げたところで、その上昇幅に不釣り合いのコストをかけてしまっては手元に残るお金は減少します。そういった点で、このチャンネルコストや手数料を意識したレベニューマネジメントは、一見すると非常に理に適っているように見えますが、やり方を間違えると売り上げの最大化が図られないままコストばかりに目を向けてしまうという、「木を見て森を見ず」といった状況に陥りがちです。

レベニューマネジメントにおいては、まず売り上げの最大化からアプローチすることが一般的です。その上で、コストの見直しができる部分について無駄をそぎ落としていく順序を踏み、その中にはなるべくコストの安いチャンネルに予約を誘導するというチャンネルマネジメントの領域も含まれます。まず売り上げの最大化を図ってから、コストの見直しを通して利益の最大化を図っていくというステップを踏む理由、それは、もしこの順番が逆になってしまい、まずはチャンネルコストありきのレベニューマネジメントを行ってしまうと、結果的に売り上げを最大化できないというジレンマに陥りがちだからです。

チャンネルコストや旅行会社への手数料と、該当チャンネルや旅行会社からの送客数に前提条件としての相関関係はありません。本来は、送客数が多い旅行会社やチャンネルの手数料は高く、少ない旅行会社やチャンネルの手数料は低いなどの相関関係があるべきだとは思いますが、必ずしもそのようにはなっていないのが現状です。

ここで1つのシナリオを考えてみましょう。あなたのホテルはあるOTAに対して15%の送客手数料を払っているとします。それに加え、予約通知の自動受信のために受注予約1件に対して5%の通信料を払っています。一方で、公式ウェブサイトの予約については特に送客手数料は発生しない代わりに、受注予約1件に対して200円の通信料を払っています。

売り上げはチャンネルに関わらず同条件で計算することができます。例えば平均単価が20,000円で月に100件の予約を受注した場合、それをOTAで受注しようが、公式ウェブサイトで受注しようが売上高は同じです。すなわち、20,000円×100件で月間2,000,000円の売り上げとなります。一方でこの売り上げにコストを加味するとこのようになります。

OTAの場合

送客手数料:300,000円(2,000,000 x 0.15)

通信料:100,000円(平均単価:20,000 x 0.05 x 100件)*全ての予約が1泊と仮定

公式ウェブサイトの場合

通信料:20,000円(200 x 100)

結果、同じ月間で2,000,000円の売り上げであったとしても、手元に残る金額はOTAの場合は1,600,000円、公式ウェブサイトの場合は1,980,000円となり、そのコストの差は歴然です。

ではここで、OTAの販売料金にコストを転嫁した価格設定を行います。例えば、OTAへの販売についてはそのコストを加味し、通信料と送客手数料の一部、10%のコストを上乗せした販売価格とすることにしました。今度は売上高に変化が生じますので、同じ100件の予約を受注した場合、該当OTAからの月間の売上高は2,200,000円となりました。ここから算出される送客手数料の330,000円、さらに通信料の110,000円を引くと手元に残る金額は1,760,000円となり、コスト分を圧縮することで手元に残るお金を増やすことができました。

ただここでの最大の疑問は、そのOTAにおいて22,000円に価格を上げたあとも、20,000円で販売した場合と同じ数の販売室数を確保できるかという点です。価格が10%上昇することによって、本来、公式ウェブサイトの料金である20,000円と同等の金額であれば期待できた予約を逃してしまうことは十分に考えられます。また、公式ウェブサイトの方が安い料金を出しているからといって、顧客が公式ウェブサイトに迂回して予約をしてくれるという保証もありません。その特定OTAの会員であるがために、どうしてもそのOTAで予約をしたいという顧客もいるでしょうし、そもそもチャンネルによってこれほどまでに料金が違うことに不信感を持って、該当ホテルでの予約すらして貰えないということも考えられます。

計算上では、もし10%の値上げによって予約件数が10件減ってしまい90件となると、手元に残るお金は1,584,000円となり、コストの相殺はおろか、20,000円で販売していた時より手元に残るお金は減ってしまいました。これは「本来であれば期待できた予約を受注することができなかった」、すなわちレベニューマネジメントの最大の使命である、売り上げの最大化が図られなかったばかりか、コストばかりに執心しすぎてまさに「木を見て森を見ず」といった結果になってしまったということに他ありません。

チャンネルごとの料金設定がほとんど機能しなくなってきているもう1つの理由が、昨今のホテルディストリビューションの複雑化です。ディストリビューションや、旅行会社のビジネスモデルがまだシンプルだった2000年代初頭までは、1つのチャンネルで販売された商品は原則、そのチャンネルで、その金額通りに販売されていました。例えば、あるOTA向けに20,000円で販売していた商品はそのOTAでのみ、20,000円で販売されていました。ホールセーラー向けに15,000円で卸していたホールセール料金は、契約条項とおり交通や飲食、体験ツアーなどの他の旅行要素とパッケージ化されて販売されていました。

今や旅行会社のビジネスモデルはかつてなく複雑化し、それに伴ってホテルディストリビューションの世界は劇的に変化しました。特定のOTAのみで販売する意図をもって登録された料金は、ホテルの知らぬところで他のOTAに料金や在庫を横流しされ、GDS上ではOTAの料金も検索可能になりました。またホールセール料金はベッドバンクによって切り売りされ、そのまま裸の料金でウェブサイト上に堂々と販売されるようになりました。

このようにチャンネルの境目がほとんどなくなり、商品がチャンネル間をまたいで横断的に売買されるような現在のディストリビューションの環境下において、ホテルがある特定のチャンネルで販売することを意図して設定した料金と在庫が、エンドユーザーにわたるまでにその意図したとおりに販売されるという考えは、残念ながらもはや幻想です。このような状況では、もはやコントロールできない(チャンネル間の横断的な販売)ものを一生懸命コントロールしようとするより、コントロールできないことを前提に条件を平準化し(チャンネルごとに価格をわけない)、コントロールできるもの(料金タイプごとのコントロール)の制御を失わないように注力する方が、よほど理にかなったアプローチといえると思います。

チャンネルコストを念頭に、適切なチャンネルミックスを目指すことの重要性は言うまでもありませんが、注意しなくてはならないことはそのアプローチの仕方です。チャンネルごとのコストを考慮した違う価格を設定し、価格が安いチャンネルへ予約を誘導しようとするチャンネルごとの価格設定は、結局、それらの料金がチャンネル間で横断的に売買される現在のホテルディストリビューションの環境を考えると、もはや機能しないばかりか、メタサーチでホテルの販売価格がより透明化される中、ある販売チャンネルに露骨に不利になるような条件を課す販売手法は顧客の不信感さえ招くでしょう。

そしてこのチャンネルコストの問題に切り込む前にぜひ、自問自答してほしい問いがあります。「売り上げを最大化できていますか?」

木を見て森を見ず、とならないように十分注意したいところです。