前回の「ADR (平均単価)をあげるにはBARを上げる?―ステイコントロールで需要を誘導する(1)」では、得てして料金コントロールの手法ばかりが先走るレベニュータクティクス(戦術)において、料金コントロールを実行する前に十分検討、実行しておきたいもう1つの戦術であるステイコントロールについて、その考え方をご紹介するとともに、代表的なステイコントロールの1つであるクローズ(Close)を取り上げました。

今回はクローズ以外のステイコントロールとして、ミニマムステイ(最低宿泊日数制限)のステイコントロールをご紹介します。クローズのステイコントロールは「販売するかしないか」という言わば両極端の要素を、その強度の度合いによってコントロールします。一方でこのミニマムステイは、販売することを前提にそこに最低宿泊日数制限を設け、滞在するならできるだけ長い日数を滞在してもらうように誘導する手法です。

この手法の背景には、これまた「売り上げ(と利益)を最大化する」というレベニューマネジメントの至上命題が関係しています。レベニューマネジメントにおいては、基本的に予約の数よりも室泊数を追求します。この室泊数(ルームナイツ)という指標は、特に日本のホテルにおいては取り上げられることが少ないと感じていますが、レベニューマネジメントにおいては非常に重要で欠かすことのできない指標です。簡単に解説しておきましょう。

予約数(No of Bookings):予約の数、1件で1泊しようが5泊しようが予約数は1となる

室泊数(Room Nights):予約の数に泊数をかけあわせたもの。例え予約数が1件でも、該当予約が5泊すれば5室泊となる

例えば1泊の予約を5件受注しようと、5泊の予約を1件受注しようと室泊数は5ですが、私たちはあくまでも1件の予約で5泊を追求します。その理由は、その裏に関わるコストと労力との関係です。

特にオペレーションで勤務されている方はよくわかるでしょうが、1人の顧客が5泊するのと5人の顧客が5部屋、1泊するのでは関係する労力やコストは大きく異なります。前者は1部屋分のチェックインの手続きをし、滞在中は毎日の簡単な滞在中清掃、そして最後にチェックアウトの手続きをして終わりですが、後者は5部屋を用意しそれぞれの部屋にチェックインの作業が発生、さらに5部屋分の完全清掃とアメニティ、さらにはチェックアウトの作業が必要となります。例えまったく同じ金額で販売されていたとしても、滞在に関わるコストを鑑みると5泊の予約を1件受注する方が、最終的に手元に残る金額(利益)ははるかに良いものとなります。

またオペレーションへの影響も決して軽視できません。5部屋分のチェックイン/チェックアウトおよび各部屋の完全清掃と、1部屋分のチェックイン/チェックアウトと滞在中清掃の手間は、私がわざわざここでその労力の違いを力説するまでもないでしょう。

したがって「いかに少ない予約数でできるだけ長い滞在日数の予約を獲得するか」、言い換えると「1件当たりの予約の平均滞在日数を伸ばしていくアプローチ」は、売り上げとその利益を最大化するレベニューマネジメントの理念に完全に沿う手法で、それを達成するために用いられるのがミニマムステイです。具体的には以下のような手法が用いられます。

ミニマムステイアライバル(Minimum Stay Arrival)

このステイコントロールは、最低宿泊日数制限を伴うコントロールです。「最低〇泊の滞在が求められる」という制限を課すことにより、例えば「土曜1泊集中」のような需要の一極集中を分散させられる効果があります。日本では連泊をより「プラン」として扱うことが非常に一般的で、レベニューマネジメントの観点からステイコントロールの一環として活用する手法はまだまだ普及の途上ですが、最低宿泊日数を課すことにより需要を誘導する方法は、需要を平準化する上でも、また必要以上に価格コントロールに頼る必要はないという点でも、ぜひ積極的に活用したい戦術です。

このミニマムステイのステイコントロールも、該当日に到着する予約に絞ったものと、該当日以前からの宿泊(ステイオーバー)も含めた予約に適用するものという強度の違いがあり、このミニマムステイアライバルはその中でも「その該当日に到着する予約に焦点を絞ったもの」になります。

ミニマムステイスルー(Minimum Stay Through)

上記と同じ最低宿泊日数を伴うステイコントロールですが、このミニマムステイスルーは該当日に到着する予約のみならず、前日以前から滞在していてその該当日にも続けて滞在する予約にも適用されるステイコントロールです。

ここで改めてミニマムステイアライバルと、ミニマムステイスルーの違いを見てみましょう。ある土曜日に最低宿泊日数を「3」に設定したうえで、ミニマムステイアライバルとミニマムステイスルーの違いを見てみましょう。

まずミニマムステイアライバルの場合、到着日である土曜日到着の予約に対して最低宿泊日数の3日が適用されます。結果、まず土曜から2泊の予約は条件を満たしません。一方で、例えば前日の金曜から滞在する予約があって結果的に金、土の2泊の予約であったとしても、土曜の到着ではないことから条件からは外されます。

一方で、ミニマムステイスルーは対象予約に前日以前からの滞在も含みます。土曜からの2泊が最低宿泊日数の3に満たないことから予約不可となることに加え、例え前日の金曜から滞在する予約であっても「土曜に滞在するいかなる予約に対しても最低宿泊日数の3が必要とされる」という条件が適用され、結果的に金曜からの2泊は宿泊不可となります。

あまりこの2つのステイコントロールを厳密に使い分ける場面は多くはないと思います。より広範囲にわたって適用するという意味ではミニマムステイスルーを使用する一方で、ミニマムステイアライバルはその日の到着予約のみに絞った限定的なものとなります。特段の意図がなければ、ミニマムステイスルーを使用しておけば間違いはないでしょう。

年末年始を例にステイコントロールを実践する

日本のホテルにおいてはとりわけ、土曜やお盆、年末年始などに過度に需要が集中するというビジネス環境があります。そのような環境であるがために、どうしても「次の土曜日の稼働を満室にするためにどうすれば良いか」とか、「1か月後の年末年始のADR(平均単価)を〇〇円以上にするためにどうすれば良いか」など、ある特定の日にちのパフォーマンスのみに執着し視野が狭くなってしまうことはよく起こりえますが、売り上げを最大化することが使命のレベニューマネジメントにおいては、ある特定の日にちの状況だけに固執するのではなく、その週全体の、そしてその月全体の売り上げをいかに最大化するかという視点を常に持たなくてはなりません。

例を挙げましょう。年末年始に稼働が高くなるホテルは多いと思います。日本では、年末年始は家でゆっくり過ごそうという文化がある一方で、年末年始はあえてホテルに滞在して家族水入らずでのんびり過ごそうという需要は、昔から健在です。近年は、もともと健在だった年末年始はホテルで過ごすという需要に加え、日本の年末年始の雰囲気を味わおうと海外からもあえてこの時期に訪日する需要も増え、多くのホテルにとって、この年末年始需要というのは見過ごせない要素になっていると思います。

しかしながら、一言で年末年始需要といっても、日ごとに見ていくとその需要には細かい波があるのが現実です。12月31日宿泊こそ満室に近い稼働を確保できるホテルは多いものの、ホテルによってはその前日の30日や翌日の1日のパフォーマンスはふるわなかったり、また29日のパフォーマンスは良いものの30日のパフォーマンスだけ悪く、また31日の稼働は良いといった「稼働状況のデコボコ」に悩まされているホテルも多くあるでしょう。このような中で、いかにピークの日にちの前後も含めた数日単位で売り上げを伸ばし、稼働のデコボコをなくしてその週全体のパフォーマンスを上げていくか、この課題を解決する上でも計画的なステイコントロールの実行は非常に有効です。

まずは繰り返しますが、ある1日のみのパフォーマンスに執着する姿勢を強く戒めなくてはなりません。ある特定の日にちについて「100%にしよう」、「今までで最大のADRを達成しよう」と考えているうちは、決して売り上げの最大化は達成できません。年末年始の例を引用すると、31日のパフォーマンスをいかに上げようかという邪念があるうちは、前日の30日や1日のパフォーマンスを含めたその週全体の売り上げを最大化することはできません。

そして「ホテルは1日に販売するできる容量に限度があるということ」これをしっかりと肝に銘じたうえで料金や在庫のコントロールをしていかなくてはなりません。100室のホテルが需要の増加を理由にお部屋を急造することはできません。その限られた手持ちの100室からいかに売り上げを最大化することができるか、この課題に取り組むのがレベニューマネジメントで、在庫数が限られているという環境の中で、「早い者勝ち」で予約を承っていては決して売り上げを最大化することはできないがゆえに用いられる手法の1つが、ステイコントロールです。

ある特定の日にちのみに需要が集中する場合

ある特定の日にちのみに需要が集中する、これは年末年始の需要であれば12月31日にあたるでしょう。一方で、前日の30日や1月1日の宿泊は伸び悩むという場合は、31日や1日の宿泊を含めた連泊を促すステイコントロールを、あらかじめ実行することが有効です。状況に応じて、前回のご説明したクローズトゥアライバル(CTA)かミニマムステイのステイコントロールをかけましょう。両方とも結果的には複数泊を促すステイコントロールではありますが、かけ方によって少し影響の範囲が異なります。

31日にCTAをかける

31日到着のいかなる条件の予約も受け付けません。31日到着分に過度な集中が予想され、31日に宿泊する予約については前日からの連泊分(ステイオーバー)のみとしたい場合にはCTAが有効です。31日にCTAをかけることで、同時に30日やそれ以前の稼働の向上も期待できます。

31日にミニマムステイスルーの2をかける

31日の1泊需要を減らしたいが、一方で31日到着でも以降に連泊をする予約は受け付けるというステイコントロールです。31日にCTAをかけるよりかは制限幅は緩やかで、それでいて30日以前の稼働、さらには1日以降の稼働の向上も期待できます。

稼働のデコボコを修正する場合

稼働が日ごとにデコボコしている状況は、特に連泊需要を取り込むうえも不利です。その場合もステイコントロールを使用して、需要の谷となる日にちの宿泊を抱き合わせて販売していくような誘導を行います。例えば、12月29日の稼働は高く30日は低い、また31日稼働が上がる場合のステイコントロールを考えてみましょう。

29日にミニマムステイスルーの2をかけ、31日にCTAをかける

このシナリオでは30日のパフォーマンスに課題がある一方で、29日と31日の宿泊分については少し予約の勢いをなだめたいという事情があります。30日から1泊の予約を受け付けるのはもちろんですが、前後の日にちにステイコントロールをかけることで30日を含む宿泊の予約を優先的に取ることにより、29日と31日のブッキングペースをおさえつつ、30日の稼働を上げ、この3日間の稼働のデコボコを修正することを目指します。

これまで実践的なシナリオを用いて、代表的な4つのステイコントロールの手法をご紹介しました。この4つの手法はおもに「コントロールの強度」を表すもので、適切な場面で適切な手法を用いることによってそのコントロールに強弱をつけることができます。実際は他にも様々なステイコントロールの手法があり時と場合により使いわけられますが、個人的には、ご紹介した4種類だけでもそのコントロールは十分に可能と考えています。なぜならば、この4つの手法にさらに「コントロールの範囲」がかけあわされることで、そのコントロール手法は実に多様になるからです。次回はその「コントロールの範囲」について紹介します。