ADR (平均単価)をあげるにはBARを上げる?―ステイコントロールで需要を誘導する(1)

先に「ADR (平均単価)をあげるにはBARを上げる?-ADRを上げるために必要なアプローチ」にて、BAR料金(ベストアベイラブルレート)の上げ下げなどの「価格コントロール」は、ADRを上げていきたいという戦略にもとづいて繰り出していく、戦術の1つに過ぎないと申し上げました。レベニュータクティクス(戦術)においてはどうしても価格コントロールの手法ばかりが注目されますが、では、例えばADRを上げたいという方向性に沿った戦術は、BAR料金をあげる以外に手法はないのでしょうか?

先の項目を通じて、価格コントールへの過度な期待をいさめたいという私の意図は皆さんに十分に伝わったかと思いますが、私は「価格コントロールはレベニュータクティクス(戦術)においてホテルが実行するべき最後の手法」であると考えています。最後の手法であると表現すると、決して行ってはいけないというような心象を与えるかもしれませんが、そうではありません。ただ、戦術は影響の度合いに応じて段階をおって実行していくべきであり、価格コントロールに入る前にホテルとして取るべき手段、戦術があります。それがステイコントロールです。

価格コントロールによる売り上げへの効果、これが実際に数字にどの程度反映されてくるかといった効用の度合いは置いておいても、それが消費者に与える心理的な影響は決して見逃せないものです。日本においては、消費税を8%から10%に2%上げるだけでも、その実行までに多くの年月を要しましたし、パフォーマンスがふるわないからといって、多くのホテルがすぐにディスカウント由来のプロモーションに走るのも、実際の効果は別として、皆さんが「価格を下げることによって需要を喚起できる」という心象を持っているということに他なりません。

したがって、価格コントロールによりBAR料金を上げるにしても、それによる消費者への心理的な影響を決して過小評価することはできず、そういった点においても、価格コントロールはその他の有効な手段がすべて実行された上で最後に検討される手段でなくてはいけません。

さらに、安易に価格コントロールに走ってはいけないもう1つの理由は、既存予約の存在です。特に価格を上げる場合、基本的に一度上げた価格をのちにフェンスなしに再度下げることは望ましくありません。

例えば、昨日まで〇月〇日の予約を15,000円で販売していたBAR料金を、まったく同じ条件で10,000円に値下げして販売したら、既に予約をしている既存の顧客はどのように感じるでしょうか?間違いなくいい気持ちはしないでしょうし、場合によっては既存予約を一度キャンセルして、新たな予約条件で再度予約しなおすかもしれません。実際に海外では、一度予約を完了した後でも同じ宿泊条件でさらに安い価格が同じホテルで販売された場合、ご丁寧に顧客に通知をして再予約を促すような仕組みを提供する第3者のアプリなどもあります。(こういったアプリの存在は、ホテルの料金体系がいかに一貫性がなく市場から信用されていないかということを表しているような気がして非常に残念です)

そうなっては、ホテルにとってもせっかく値下げをして新たな需要を取り込もうと試みたにも関わらず、既存予約を含めた予約が新たな安い価格体系で「シャッフル」されるにすぎなくなってしまいます。

以上の理由からも、私はえてして価格コントロールに頼りがちなレベニュータクティクスの風潮は好ましくないと思っていますし、レベニューマネジメントはイコール価格コントロールではないという点は今一度、厳に断言しておきたいと思います。

価格コントロールを実行する前の段階で確実に、そして十分に実行をしておきたい戦術、それがステイコントロールです。これは実際に価格の上下の操作を行う訳ではないため、どのホテルにおいても「目に見えて効果が実感できない」と過小評価、軽視しがちであり、多くのホテルがこの段階を経ずにいきなり価格コントロールを行うような現実がありますが、ホテルは適切なフォーキャストに基づいてまずはステイコントロールから実行するべきであり、その効果が十分に得られたうえでさらに次の段階の手段として、価格コントロールを検討するべきです。

ステイコントロールとはその名の通り、「滞在を恣意的にコントロールすること」です。そして「受け入れ可能な容量が条件ごと(1泊ごと)に決まっているホテルの予約が、”早い者勝ち”であってはその売り上げを最大化できないから」こそ、用いられることが必要な手段の1つです。具体的には、ある特定の滞在条件を特定の日に課すことによって、集中が予想される需要をコントロールしていきます。具体的な滞在条件を挙げながら見ていきましょう。

クローズ(Close)

これは「売り止め」に相当します。のちに解説しますが、同じ「販売停止」という行為に関してもいくつかの段階があり、その中でもこのクローズは1番厳しい措置になりますので、ハードクローズとも表現されます。

このクローズというステイコントロールは、他のどのコントロールよりも厳しい措置となります。従ってホテルが満室になった場合、もしくは予定されたオーバーブッキング数をさらに上回ることを防ぐために使用され、「どんな条件であってもこれ以上の予約を受け付けることはできない」という状況を表します。それは裏を返せば「可能な限り売り上げは最大化された」という状況を指し、売り上げを最大化することがその使命であるレベニューマネージャーにとっては、それ以外のどのような理由であっても実行することが許されない最後の手段です。

このクローズを実行するということは、それ以上はもう売り上げを見込めない(予約を入れることはできない)ということを指しますので、例えキャンセルなどが入っても再販もできないというリスクもあり、私が施設で実際にレベニューマネジメントに携わっていた時は、このクローズは総支配人の許可なしには実行することができないステイコントロールでした。実行することによって時に簡単に販売機会損失にもつながる、もろ刃の剣であると言えるでしょう。

クローズドトゥアライバル(Closed to arrival/CTA)

クローズという言葉が含まれている通り、これも販売停止の一形態です。上記のハードクローズと異なるところは「その該当日の到着のみ販売停止をする=その日の到着分を受けつけない」というステイコントロールであるという点です。上記のクローズとの違いを見出すために図に表してみましょう。例えば、宿泊日1月3日に対してクローズとクローズドトゥアライバル(CTA)をかける場合、その滞在条件はどのように異なってくるのでしょうか。

ハードクローズは、いかなる滞在条件にも関わらずその日の滞在は受け付けないとするため、前日からの連泊の顧客(ステイオーバー)であっても1月3日にかかる予約をすることはできません。一方のCTAはその日の到着分のみに絞ったステイコントロールとなるため、前日以前の日程からから滞在(予約)しているステイオーバーの顧客については影響を受けません。

売り上げを本当に最大化できていますか?

同じクローズ(販売停止)という作業ですが、影響の度合いから見るとハードクローズの方がはるかに大きな影響を与えます。もし現在のステイコントロールの使用において、ハードクローズをかける頻度が多いという場合は、今一度「売り上げを本当に最大化できていますか?」という点を自問自答してみてください。ある特定の日にちに対していきなりハードクローズをかけることが多いホテルは「その特定の日にちのみの売り上げを最大化すること」に固執していないでしょうか?

日本の多くの宿泊施設において、このハードクローズは特に土曜宿泊で非常に見慣れた光景です。空室状況を調べたときに、毎週土曜だけがきれいに「X」(満室)となっている空室カレンダーを皆さんもよく見かけるでしょう。そして多くのホテルが、その土曜日にいかに稼働を上げて平均単価を上げるかということに執心しています。何回も申し上げている通り、レベニューマネジメントは売り上げを最大化することをその使命としております。その観点に立った時、はたして土曜日のパフォーマンスだけに執心する姿勢は理にかなっているのでしょうか?

例えば土曜日の1泊を20,000円で販売できたとしても、もし金曜から3泊する予約があって、仮にその1泊あたりの料金が各日10,000円にしかならない場合でさえ、総額の売り上げは20,000円と30,000円でその差は歴然です。土曜からの1泊20,000円の予約よりも、いかにして金曜から3泊の予約を取っていくかということを考え、そのための施策を実行していくのがレベニューマネジメントです。

CTA<ハードクローズ

ステイコントロールは段階を踏んで、計画的にかけていくものです。もし現在、いきなりハードクローズをかけないといけないような状況に頻繁に陥っているようであれば、ブッキングペースの管理とフォーキャストの正確性を一度見直す必要がありますし、早め早めにまずはCTAのステイコントロールを始めることにより、ブッキングペースを緩やかにする効果を期待できます。また、CTAを部屋タイプや部屋カテゴリーごとにかけることも有効な手法です。通常、予約のペースが早いスタンダードタイプの部屋カテゴリーにCTAをかけた上で予約のペースをなだめつつ、それ以上の部屋カテゴリーにおいては特にステイコントロールをしないという使い分けは、部屋カテゴリーごとの異なる需要のコントロールに寄与します。

予約のキャンセルが入ればすぐに再販をするべきであるという観点においても、ハードクローズは最後の最後まで実行の是非が慎重に検討されるべきステイコントロールです。同じ販売停止であってもそのステイコントロールはCTAにとどめ、予約の流れを完全に止めるような状況をホテル自らが作り出すことは、極力避けたいものです。

個人的に、日本の宿泊施設で現在行われているステイコントロールのそのほとんどは「クローズ一辺倒」であると考えておりますが、ステイコントロールはこのクローズの他にもいくつか種類があり、あらゆる角度から、違った形で需要を緩やかにする効果があります。次回はもう1つのステイコントロールの大きな柱である、ミニマムステイ(最低宿泊日数制限)について見ていきたいと思います。