前回の投稿「レートパリティの迷宮へようこそ―なぜ登録料金が登録料金通りに販売されないか(1)」では、レートパリティという考え方の説明からその仕組み、なぜチャンネル間で価格がずれてしまうのかという背景を含めた導入部の紹介をしました。

ディストリビューションはどう変わったか

「チャンネルごとの販売がもはや機能していない」、「今日の複雑なディストリビューションの仕組みを逆手に取られた」と申し上げましたが、この点についてもう少し詳しく説明していきたいと思います。

下記は、少し前(5年以前~)までのホテルディストリビューションの形です。ホテルはそのころから既に、CRS(セントラルリザベーションシステム)やCMS(チャンネルマネージャー、サイトコントローラー)を使って各チャンネルや予約元を管理する方法を取ってきましたが、その仕組みと管理方法は極めて単純でした。

(OTA)

CRSやCMSを通して料金や在庫のコントロールが行われ、登録料金通りに消費者に商品が直接、またはメタサーチ経由で販売されていた。

(Wholesale、ホールセラー)

CRSやCMSを通して、またはオフラインで料金や在庫のコントロールが行われ、ホールセラーはその卸料金をツアーオペレータに販売し、ツアオペレーターはそこに交通機関や食事、体験などのその他旅行商品を組み合わせて、リテールエージェント(店頭販売)がエンドユーザーへの販売を行っていた。

そしてその後、たった数年の間にこの単純なホテルディストリビューションは、下記の形に変化しました。

(OTA)

CRSやCMSを通して料金や在庫のコントロールが行われ、その登録料金や在庫はホテルが直接契約していないUncontracted OTA(契約外OTA)などのアフィリエイトパートナーに転売された。

(Uncontracted OTA)

Amomaなどに代表される契約外OTAは、ホテルと直接契約があるOTAから転売された料金と在庫を、完全にマークアップせずに販売した。結果、契約料金より安い料金が横行することとなった。

(Wholesale、ホールセラー)

本来は「ツアーオペレータ―向けの卸料金」という性格であったホールセール料金は、同時に「ベッドバング」にも横流しされるようになった(または、ホールセラー自身がベッドバンクにそのビジネスモデルを転換した)。そして契約外OTAは、そのベッドバンクからも料金と在庫を仕入れるようになり、本来は組み合わされるべきその他の旅行要素が一切組み合わされない、いわゆる「ホールセール料金の裸料金での販売」が公然と行われるようになった。

ベッドバンクとは

上記で何回か言及した「ベッドバンク」というビジネスモデルについて少し解説しましょう。ベッドバンクとは「ホテルの様々な卸料金(契約料金)や在庫が一括で登録されているプラットフォームと、それを運用している会社」の業態を表します。

日本でもよく「人材バンク」とか「空き家バンク」などのように、ある1つのプラットフォームに人材情報や空き家情報が登録され、ユーザーであれば、誰でもそこに見にきて情報を参照、購入などができるプラットフォーム(情報源)がありますが、それのベッド版(宿泊版)と考えればよりイメージしやすいかもしれません。

このベッドバンクの代表格がHotelBeds(ホテルベッズ)で、ホテルベッズは自らの契約ホテルの契約料金や在庫を専用のプラットフォームに登録し、取引のある大小の様々な旅行会社が、そのプラットフォーム上で(ホテルベッズを仲介して)商品を買うことができる仕組みを構築しています。つまり、例えある旅行会社が「ホテルA」と直接の契約料金を結んでいない場合でも、その旅行会社はホテルベッズなどのベッドバンクが提供するホテルAの優遇料金と在庫を入手することが可能であり、これが、逆にホテルAにとっては「契約もしていない、聞いたこともないようなOTAから予約が入ってくる」背景となっています。

私は、もう長いことホテルの宿泊予約に関わる業務に携わっていますが、私がまだ業務を始めたばかりの頃は、ホテルベッズは「ホールセラー」でした。つまり、ホールセラーとして卸料金をホテルから仕入れ、それを世界各地のツアーオペレーターに販売するビジネスを展開していたと思います。そのホテルベッズのウェブサイトは、今やこのようになっています。

これは、いつの間にホテルベッズのビジネスモデルからは、元来の意味でのホールセラーという概念はもはや消え去り、自他ともに認めるベッドバンクのプラットフォーマーとしてのビジネスを展開していることを明確に示しています。

このベッドバンクというビジネスモデルの登場により、ホテルとして「交通機関や食事などのその他の旅行要素と組み合わされて販売される(バンドル化される)ことが前提のホールセール料金」は、もはや機能していないことがおわかりかと思います。いくらホテルが、様々な旅行商品を組み合わせることを前提としてホールセール料金を提示したところで、そのベッドバンクのプラットフォームに商品を買いにきたその先の旅行会社がそれを守らなければ、いとも簡単に料金体系とその規律は崩れてしまいます。

一方でホテルベッズなどのベッドバンクも、ホテルからよほどクレームが相次いだのか、この問題を会社全体レベルでよく把握しています。適切にバンドル化されていない料金の監視を強化したり、また適切な料金販売が行われていないことが3回発覚した時点で、ホテルベッズのプラットフォームへのアクセスを剥奪される(3 ストライクスルール)など、問題の是正に真摯に取り組む姿勢を強調しています。

現在のディストリビューション

そして、現在私が把握している限り、上記でご紹介したディストリビューションの図はさらに複雑化しています。

(OTA)

自らホテルと直接取引している契約料金や在庫に加え、ベッドバンクからも料金を仕入れるようになった。その結果、契約料金とベッドバンクからの仕入れ料金を常に比較し、より競争力のある料金を提供できるようになった。

(GDS)

各GDSベンダーがAPIを基礎にした予約ネットワークの拡大を図り、GDS上でOTAやベッドバンクの料金を参照することが可能になった。例)Sabre Content Service for Lodging

特に、GDSでOTAの料金や情報をも参照できるようになったという点は、GDSから一定のビジネスを享受しているホテルにとっては衝撃でしょう。多くのホテルにとって、GDSは長らく旅行会社しか参照することができない、いわゆる「クローズドチャンネル」として取り扱われてきました。

その特殊性ゆえ、今でも「GDS専用料金」などというそのチャンネルの独立性をいかした料金コントロールを行っているホテルはまだ多いですが、引き続き旅行会社しかアクセスできないチャンネルであることに変わりはないものの、OTAやベッドバンクなど、GDSチャンネルの料金以外も参照できる環境が既にGDS内に確立されている結果、GDSのチャンネルの特殊性はもはや機能しなくなりました。

非常に長い説明となりましたが、以上が「チャンネルごとに違う価格を設定しているからレートパリティを保つことができない」、「チャンネルごとに違う価格設定をしていないけれども、レートパリティを保つことができない」理由です。ホテルから消費者までのディストリビューションがかつてないほど複雑化し、チャンネル間、または同じチャンネル内での「横の取り引き」が非常に活発になった結果、ホテルにとって販売料金をコントロールすることは、もはや至難の業となりました。

(参考)Hotel Distribution Today and the Ikea Effect – [Infographic] (directyourbookings.com)