先の「レートパリティの迷宮へようこそ―なぜ登録料金が登録料金通りに販売されないか」では、現在の複雑なホテルディストリビューションにおいて確立されている「チャンネル間の横の販売」という実態をご紹介することで、「なぜチャンネル間で異なる料金を設定してはいけないか」、「例えチャンネル間で異なる料金を設定していないとしても、なぜその料金がエンドユーザーに示される頃にはチャンネル間で料金が異なってしまっているのか」という点について解説しました。

レートパリティの定義は「すべてのディストリビューションチャンネルで一貫性のある価格が維持されていること」と申し上げましたが、それではなぜ、そもそもすべてのチャンネルで同じ価格が維持されている必要があるのでしょうか?ホテルや宿泊施設がこの問題に真剣に取り組まざるを得なくなった背景には、ホテルの価格がマーケット上でどんどん透明化されていること、そしてその手段であるメタサーチの存在を無視して語ることはできません。

過去にチャンネル間の独立性や秘匿性が確保されている時代においては、一部のチャンネルや料金は、いわゆる「クローズド」のものでした。GDSなどは、旅行会社のみがアクセスできる端末として、OTAなどとは完全に独立して運用されていましたし、ホールセール料金についても、他のパッケージ要素と組み合わされることが前提で個別のホールセラーに対して提示されているもので、それがベッドバンクのようなプラットフォームに登録されて世界中に販売されていくなどというビジネスモデルは想定されていませんでした。

このように、料金やチャンネルにもとづく「棲み分け」が行われていた環境においては、ホテルとしても「ホテル全体としての料金体系」に気を配る必要はあまりなかったかもしれません。なぜならば、棲み分けが行われている中では、互いの料金やチャンネルはそれらが独立して運営されているゆえ、お互いの関係性、そもそもお互いに関係があるということなど、考慮する必要がなかったからです。ホールセール料金はホールセール料金単独で、その費用体系を考えておけばよかったのです。ホールセール料金が、いわゆるパブリック料金の一部として一般の消費者の目に触れることは絶対になかったわけですから。

この状況に巨大なインパクトをもたらしたのが、ホテルディストリビューションの複雑化と、メタサーチの登場です。ホテルディストリビューションの複雑化がチャンネルの独立性と秘匿性を消し去り、メタサーチによって、ホテルが販売しているあらゆる料金が、それが例え一般に販売されるべきものではなくても、白日のもとにさらされるようになってしまいました。

メタサーチとは、価格比較エンジンです。トリップアドバイザー(Tripadvisor)やTrivago (トリバゴ)などの昔からの価格比較サイトに加え、最近はグーグル(Google)も自らの検索エンジン上に価格比較エンジンを搭載するようになり、消費者はグーグルの検索エンジンにホテル名や、該当する検索クエリ(例:東京 ホテル)を入力するだけで、各OTAや予約元で販売されている販売料金を、検索エンジン上に表示させることができるようになっています。

このメタサーチの登場により、消費者は非常に簡単に、一度にホテルの価格を販売元ごとに比較することができるようになりました。価格を一度に比較できないような環境下においては、ホテルとしても比較されないことを前提に「チャンネルごとの料金設定」や「ある特定の予約元の特別料金」などを設定することができたかもしれませんが、あらゆる販売元の料金が一括で検索され、その料金が透明化されるような状況では、ホテルにとってもはや「隠しごと」はできません。

そして、このメタサーチ上で予約元ごとに料金が異なってしまうような状況は、同時にそれぞれの販売元にとっての販売条件格差を生み出します。消費者の購買行動において価格が与える影響は依然無視できない中で、表示される価格が他の販売元に比べて高い場合は、その販売元で予約される機会を著しく減じてしまうことになってしまいます。それがホテルの公式ウェブサイトの場合、さらに問題は深刻です。

ホテル自らが公式ウェブサイトで販売している、いわゆる「直販料金」が他の販売元よりも高いとなると、まずもって消費者の不信感を買うでしょうし、往々にしてアクイジションコスト(Acquisition Cost)が安い公式ウェブサイト経由の予約からそのコストが高いOTAへ、安い価格をエサに「ホテル自ら送客している」という滑稽な状況にもなってしまいます。

ディストリビューションの複雑化によって、ホテルは、今までクローズドとされた多くの料金やチャンネルがもはやクローズドではないという前提で、それらのチャンネルで販売されている料金がメタサーチによって一般の消費者の目にさらされることを前提で、料金体系を組んでいかなくてはなりません。そして何よりも、自らのホテルや宿泊施設がすべての販売元で一貫した販売料金を維持しているかどうか、常に自らの目で、消費者目線(メタサーチ上)で確認していかなくてはなりません。

レートパリティが保たれていない状況を発見した時

メタサーチ上などでレートパリティが保たれていない状況を確認した場合は、内部要因→外部要因の手順でその理由を突き止めていきましょう。個人的には、レートパリティが崩れているケースのほとんどは内的要因に起因するものであると考えています。

(内部要因)

まずは当然ですが、登録料金に誤りがないかを確認しましょう。料金を販売元に直接入力している場合、チャンネルマネージャーを使ってコントロールしている場合も、その登録料金に誤りがないかを確認しましょう。また、販売在庫状況に相違はないでしょうか?OTA1ではスタンダードルームの在庫があるのに、OTA2ではスタンダードルームが売り切れになっていることによって販売部屋タイプが異なってしまっている結果、それがレートパリティを崩していることも考えられます。

また税金、サービス料の表記・表示はチャンネル間で統一されていますか?レートパリティが保たれていない時に、他の販売元より安い料金は税・サが含まれていなくて、その他の販売元は税・サが含まれているという状況になっていないでしょうか?

総額は変わらないものの、メタサーチ上であえて税・サ別の表示を見せることによって特定のOTAに誘導しようとする手法は、OTAがよく使うテクニックの1つです。グーグルなどでは、ホテル側の料金登録の方法に関わらず、消費者の市場により税・サの料金を統一して表示させる仕組みを導入していますが(例:日本では一律で込込表示を導入、アメリカは別々表示を導入)、その仕組みに沿っていないOTAを見つけた場合は、該当OTAのマーケットマネージャーに相談しましょう。

さらに、もし誤った料金表示を発見した場合は、メタサーチ上の画面だけで判断をするのではなく、実際にその販売元を訪問して料金表示を確認しましょう。自身が使っているウェブブラウザのキャッシュや、在庫・料金・空室状況(ARI)のPUSH/PULL(アップデート方法)のタイミングにより、メタサーチ上の料金と実際の販売元の料金が異なっている場合もあります。表面的に判断するのではなく、必ず原因元まで事象を確認しに行くようにしましょう。