皆さんはいま、多くのホテルが抱えるレートパリティの仕組みとその問題について取り上げている、数少ないウェブサイトの1つにたどり着きました。今回は、現在の複雑なホテルディストリビューションが生み出した副産物の1つ、レートパリティの問題についてできる限り詳しく、皆さんにご紹介したいと思います。

誰にもわからないレートパリティの全貌

このレートパリティの現状とその課題、対処法などについて詳しく解説している情報元は、日本ではほとんどないと思います。これは、レートパリティの問題は皆さんが思っている以上に複雑でその仕組みも巧妙化しており、なおかつ日々変化していることの裏返しだと言えるでしょう。このような環境でレートパリティの問題に対処していくことは容易ではありません。

レートパリティという問題は認識していて、またOTAなどが行ういくつかのテクニックは知っているけれども、それはあくまでも「噂で聞いた」「誰かがそう言っていた」「その全容は把握していないけど、なぜかチャンネル間の料金があっていない」程度の理解で、その全体像を把握している、実際にレートパリティを崩す手法を熟知しているといったことはほとんどないのではないでしょうか。

そういう私も、このレートパリティに関するすべての情報を完全に把握しているかと言われれば、残念ながらそう言い切れる自信はありません。それほどこの問題は広範で根深いですが、しかしここに私が持ちうる情報と認識を記すことによって、日本のすべての宿泊施設がこの問題に目を向けるきっかけになってくれれば良いと考えています。

レートパリティとは

まずレートパリティとはなんでしょうか?日本をはじめ、世界中のホテルにレートパリティ問題を解決する様々なリソースを提供しているOTA Insightによると、「レートパリティとは、すべてのディストリビューションチャンネルで一貫性のある価格が維持されていることである。もしホテルの公式ウェブサイトの料金とOTAや第3者の予約チャンネルにおける価格が同じであれば、それはレートパリティが保たれていることを表している」と解説されています。チャンネル間で一貫性のある価格が維持されていない状況、つまりレートパリティを保つことができていない状況は下記の2つの側面から引き起こされます。

チャンネルごとに異なる価格を設定することによって引き起こされる側面

まず、ホテルの部屋の価格は予約チャンネルに関わらず、その予約条件が同じであればどこで予約をしようと同じであるべきです。一部のホテルでチャンネルコストを宿泊料金に転嫁した価格設定を行っている結果、チャンネルごとに価格が異なるホテルを見かけますが、このアプローチは売り上げを最大化するという観点においては望ましくないということは既に申し上げた通りです。(詳細は「なぜチャンネルごとの料金設定は機能しないか―”GDSの料金”、”OTAの料金”の限界」をご覧ください)

また、チャンネルごとに違う価格設定を行っているのであれば、そもそもレートパリティを合わせることができるわけがありません。例え自社の会員プログラムがあり、会員向けの優待料金を最安値としたい場合も、この料金設定はチャンネルベース(公式ウェブサイト経由の予約)で行うのではなく、料金ベース(メンバー料金)で行うべきです。

チャンネルごとに同じ価格を設定していても引き起こされる側面

さらに、仮にチャンネルに関わらず設定料金を統一していても、なぜか販売する段階においては、その料金がチャンネルや予約元によって異なってしまうという状況も度々起きています。例えば、スタンダードルームをOTA1にもOTA2にも公式ウェブサイトにも1泊10,000円と登録したにもかかわらず、実際のOTA1では9,500円で販売されていたということが起きています。

どちらの側面にも共通する本質的な理由

このいま挙げた2つの側面、「チャンネルごとに違う価格を設定しているからレートパリティを保つことができない」、「チャンネルごとに違う価格設定をしていないけれどもレートパリティを保つことができない」は、その原因にこそ多少の違いはあれ、本質的には次の理由から説明することができます。

チャンネルごとに価格設定を行ってはいけない、また例えチャンネルごとの価格設定を行っていない場合ですら意図した金額とは異なる金額で販売されてしまう理由として、現在の複雑なホテルディストリビューションの世界において、もはやチャンネルごとの料金管理がほとんど機能していない、そもそもチャンネルという概念が日に日に薄くなっているという現実があります。

チャンネルごとの料金は、「ホテルディストリビューションにおいて、それぞれの予約チャンネルが独立して販売・予約活動を行っており、販売元(ホテル)で登録した料金が、その登録した料金通りに予約元(消費者)に販売、予約されている」という大前提のもとに成り立ってきました。

しかしOTAやメタサーチ、ベッドバンクといった中間業者のビジネスの急速な伸長により、予約チャンネルは「ホテルディストリビューションにおいて、それぞれの予約チャンネルはもはや独立した販売・予約活動を行っておらず、販売元で登録された料金が、その料金を切り分けられて多くの予約元に販売、転売、予約されている」という形にすっかり様変わりしました。あるチャンネルに登録された料金は隣のチャンネルに横流しされ、さらにその料金を切り売りされて、また別のチャンネルで転売されるというビジネスモデルが横行するようになったのです。

結果、ホテルがあるOTA向けに登録した料金は、別のベッドバンクから仕入れたより安い料金にすげ替えられ、さらにそこに本来行われるべきマークアップ(15%のマークアップ契約であれば、販売する際には15%を上乗せして販売すること)の利率が完全に上乗せされず、最終的には、ホテルが本来、そのOTA向けに登録した料金とは似ても似つかない、まったく違う格安料金が消費者に提示されるようになりました。

また、この複雑なホテルディストリビューションは、多くのホテルを長い間悩ませてきた「ならず者OTA」の1つ、Amoma(既にそのビジネスを終了)など、ホテルが契約を一切していない、自分たちが聞いたことすらないようなOTAに格安料金が提示されているような状況も作り出しました。そしてホテルにとって何よりも許容できないことは、こういった料金の切り売りや契約外OTAへの料金の横流しが、すべてホテルが関知しない場所で、裏でコソコソと行われている点です。

なぜOTAは契約料金通りに販売してくれないのか

それでは、なぜOTAは登録した料金をそのままの金額で販売しないのでしょうか?登録料金がない(契約がない)ならまだしも、施設と正式に契約をして料金や在庫ももらっているのに、なぜその料金とは異なる料金をあえて販売する必要があるのでしょうか?

これは「OTAとして価格が持つ購買力を認めているから」に尽きると思います。つまり価格、「1円でも安く販売すること」が消費者の購買において1番重要であることを、OTAが強く認識している結果だと言えるでしょう。もし仮にそのOTAとの契約料金(登録料金)が他のOTAや予約元の料金と比較して高い場合、著しく競争力に欠けてしまうことを非常によくわかっているのだと思います。

商品の価格が常にホテルの商品購買決定における最大の要因になるかという点は、必ずしも正しくありません。一方で、自らが価格や商品を決めたり在庫登録をしているわけではない、いわゆる、仲介業者としての存在でしかないOTAにとっては、ほとんど価格でしかその強みを生かすことができないことも事実です。

私たちホテルへの戒め

そして、このような「OTAが契約料金を契約料金通りにきちんと販売してくれない」という状況を作り出した責任の一端は、われわれホテルサイドにもあります。上記で紹介した「チャンネルごとに価格を管理するという文化」に加え、「ホテル自身がきちんと設計された、一貫性を持った料金体系を維持することに注意を払ってこなかった」結果、料金面や販売条件で明らかに形勢不利を被る販売元が出てきたためです。手数料をその生業としているOTAにとっては、送客できるかできないかは死活問題です。

私は、ここでこのようなOTAの商習慣を正当化するつもりは全くありませんが、OTAは多くのホテルにおいて、必ずしも戦術的、戦略的に適切とは言いがたい不適切な料金体系の隙をついて、昨今の複雑なディストリビューションの仕組みを逆手にとってそのビジネスを展開するようになった結果、われわれホテルは、今日のもはやコントロール不可能な販売網を作り出すことを許してしまいました。

次回以降、数回にわたりこのレートパリティについてさらに詳しく取り上げていきます。