前回の「レートパリティの迷宮へようこそ―彼を知り己を知れば百戦殆からず(2)」においては、外部要因に起因するレートパリティが崩れる要因について、OTAが価格を操作する具体的な手口を紹介しながら、それを実際の画面でもご紹介しました。実例として、予約元(予約者)がアクセスするIPアドレスごとに違う価格表示を行うこと、また異なる予約条件(キャンセルポリシーなど)を提示して価格を安くするテクニックなどがあります。

しかし、特に多くのホテルと直接契約のある「A」「B」「C」「E」などの四大OTAなどは、施設が管理画面に直接料金を入力、もしくはチャンネルマネージャー経由で直接料金登録を行っているはずです。いくつかの手法を駆使してそれより安い価格を消費者に提示していることはわかりましたが、それではその「安くした分」の差益はどのように捻出しているのでしょうか?

暗躍するベッドバンクの存在

もしホテルにとって見覚えのない料金が販売されており、それが外部要因に起因すると考えられる場合、そこに働いていると思われるトリックはおもに2つです。

まず1つは、登録料金以外の料金(前回の例でいえば返金不可の料金)を、ベッドバンクなどの第3者から仕入れているケースです。Contracted OTA、つまりホテルと直接契約しているOTAは、ホテルが契約OTAに直接提供している料金や在庫と同時に、ベッドバンクなどの他の販売元から提供されている料金や在庫も比較し、より良い条件の料金を消費者に表示する仕組みを確立しています。ベッドバンクから仕入れた料金であっても、それを仕入れた販売元(OTAなど)は当然、指定された販売金額まで割り戻して販売しなくてはなりませんが、それを守らずにホールセール料金などを裸で販売することによって、直接契約料金よりも安い金額で販売をしています。

また、OTA自らが手数料を削って販売していることも考えられます。これは特にマークアップモデル(ホテルは始めから手数料を差し引いた卸料金を提供し、販売元は販売時にその手数料分を割り戻して販売する)に多く見られますが、本来であれば契約上、例えば15%の手数料分を卸料金に上乗せして販売しなくてはならないのにも関わらず、意図的に10%分のみを上乗せして残りの5%分は割引相当分と見せかけ価格を安く見せる方法です。当然その5%分はOTAが身銭を削るわけですが、例え一部の身銭を削ったとしてもその分予約数が増えれば、「5%の販促費くらいは大したことない」ということです。

事前決済モデルがすべての抜け穴

そして、これらのトリックのほとんどに使用されるのが「事前決済」の支払いモデルの場合であると言われています。逆に、現地決済ではあまりこういうことは起きません。なぜでしょうか?

現地決済は顧客がホテルで直接支払いをするケースですから、当然「OTA、顧客、ホテル」の関係者全員がその料金を知ることとなり、その金額の認識は一致しています。もし、直接契約料金とは異なる金額でホテルがそのOTAから予約通知を受信すれば、OTAがこのようなトリックを使って直接契約料金以外の料金で販売を行っていることがホテルにばれてしまいます。したがって、OTAも料金の透明性が確保されている現地決済においては、あまり派手な価格操作をすることはできません。

これが、先ほどご紹介した「A」の例において、不当に価格が下げられているアメリカからの検索結果の予約条件が「返金不可」だった理由です。恐らく、日本のホテルが登録しているAとの契約料金は12,870円なのだと思います。そしてAとしても、建前上はこの料金のみの契約、販売となりますので、検索元が日本の場合、つまり日本のホテルに知られてしまうような環境においては、その契約料金である12,870円のみで販売せざるを得ません。

一方で、その管理が及びにくいアメリカでの予約環境においては大胆に価格操作を行い、ホテルに販売価格を知られない事前決済、ベッドバンクを経由した予約にすることによって、巧妙にホテルからの管理の目を逃れているわけです。

この事前決済を隠れみのに使って価格操作を行う行為は、どのOTAでも常態化しています。例えば、アメリカのIPアドレスからOTAの「E」で、ある日本のホテルの予約を進めようとした際、下記のような選択肢が表示されました。Pay now、つまり事前決済とPay when you stay、現地決済で異なる宿泊料金を提示されるケースです。

これも先ほどのAのケースと同じく、キャンセル期限が異なる料金なのでしょうか?実際に予約を進めてみたいと思います。

405ドルの事前決済を選択したところ、さらに細かいオプションが出てきました。405ドルの選択肢が2つ並んでおり、返金不可(Non-refundable)のオプションに加え、キャンセル可能(Free Cancellation)の予約についても同じ405ドルで購入可能なことがわかります。つまりこの場合、予約時の事前決済か現地決済かの選択肢は、キャンセル期限の違いにすら起因しないことがわかります。単に事前決済するか、現地決済するかで20ドルもの価格差が出てくるわけです。

念のため最後まで予約を進めてみましょう。右側の現地決済と左側の事前決済では、結局おおよそ23ドルの価格差が出ることが判明しました。

これも、仕組みは先ほどのAのトリックと同じです。恐らく現地決済の料金が、ホテルが実際にEの管理画面に登録している該当の日の宿泊料金なのだと思います。OTAは料金がわかってしまう現地決済の金額は登録料金を維持したまま、一方では事前決済という隠れ蓑を使って、ベッドバンクや第3者から仕入れた料金を適切に使用せずに価格ゲームを仕掛けているということでしょう。

ここまで実例を用いて、OTAがレートパリティを崩すテクニックについて紹介しました。恐らく、皆さんもその仕組みの巧妙さに感心するほどのテクニックだと思いますが、感心してばかりではいられません。私たちはこのような手法を熟知し、先回りしてそのようなテクニックが使用できないような仕組みを構築しなくてはなりません。次回はいよいよ、その対策について取り上げていきたいと思います。