ここまでレートパリティの問題について、その導入から具体的な仕組み、そして実践的な解決方法まで計6回にわたって説明してきました。1つのトピックでここまで多くの時間を割いて取り上げたのは初めてですが、レートパリティの問題はそれほど大きく、ホテルディストリビューションにおける1番のホットトピックといっても過言ではないでしょう。

前回の「レートパリティの迷宮へようこそ―彼を知り己を知れば百戦殆からず(4)」においては、チャンネル間で料金が崩れる原因を踏まえた具体的な対策をご紹介しました。しかし残念ながら、それらの対策をすることによって価格が崩れる度合いやその頻度を格段に減らすことはできたとしても、レートパリティの問題を完全に解決することはできず、ホテルと販売元の攻防、「いたちごっこ」は今後もずっと続いていくものと思われます。

何よりも決して黙らないこと

宿泊施設の方とレートパリティの問題について議論していても、多くの宿泊施設の方はこの問題をよく知っています。レートパリティが保たれていないことは知っていますし、またある特定のOTAが、その規律を乱す行動を意図的にしていることもよくわかっています。しかし皆さん、一様になかば諦めのような表情を浮かべながら「これはAの仕業ですよ、本当に困ったものでね・・・」とおっしゃりながら、実際には手をこまねいていることも少なくはありません。

レートパリティの問題は決して傍観してはいけません。「いつもの手口か」とOTAの好き勝手にさせたままではいけません。なぜならば、これこそが、じきに諦めて宿泊施設側が何も声を上げなくなる状況、これこそがまさに、OTAや旅行会社が狙っていることなのですから。

宿泊施設の方から一様にお聞きするのが「一度文句を言ったら1か月くらいおとなしくなったけど、知らぬ間にまた悪さを始めた」というコメントです。この言葉にまさに体現されている通り、OTAはホテルからクレームがあるとしばらく悪さを控えますが、ほとぼりが冷めた頃にまた意図的に悪さを再開します。そしていつの間にか宿泊施設が何も声を上げなくなって、もはや黙認されているような状況を作ることでその手法を正当化していきます。

こういった状況を作らないためにも、宿泊施設側が声を上げ続けていくことは非常に重要です。継続的に声を上げ続け、OTAのマーケットマネージャーとこの問題について緊密に議論することが、自らのレートパリティに対する意識を高め、何よりも「私たちは常にあなた方の販売方法を監視している」というOTAへの大きな牽制になります。

また、このレートパリティの問題が起きやすいのは、インターナショナルチェーンホテルより国内チェーンホテル、チェーンホテルより独立系のホテル、宿泊施設です。これは、インターナショナルチェーンがホテルディストリビューションの仕組みに非常に長けていて、隙のないディストリビューションを組んでいるのに対し、国内チェーンホテルや独立系のホテルは、概してディストリビューションの仕組みがいびつで、その不整合がいくつかの隙を生みやすいという状況があります。さらに、世界各地にホテルを持ち、OTAにとっても上顧客であるインターナショナルチェーンは、そのパワーを背景にOTAに対して時には強い物言いをすることができるため、OTAもそのような影響力のあるチェーンホテルに対してはあまり下手なことはできないという、「互いの立場をわきまえている」という事情もあります。

特にOTAのターゲットにされやすい、独立系の、国内のホテルや宿泊施設の皆さんは、まずはこのレートパリティの問題に真剣に目を向けるようにしましょう。特にレベニューマネジメントの世界においては「たかだか1,000円の価格の違い・・・」などという考え方は決して許されません。その「たかだか1日で3予約」の、「たかだか1件当たり1,000円の価格の違い」の積み重ねは1か月で90,000円となり、1年で108万円となります。つまり、今、目の前で起こっているたった1,000円のそのレートパリティの問題を解決しないことによって、1年で100万円以上の売り上げを取り損ねていることにつながっています。

まずは毎日10分で構いませんので、メタサーチを使って、消費者の目線で自分たちの価格の整合性が保たれているか、レートパリティが保たれているかという点を、いくつかの宿泊日程をランダムに選んで確認するクセをつけましょう。もしレートパリティが崩れている日にちを発見したら、まずは内部要因からその原因を探っていきましょう。登録料金に誤りはないですか?チャンネルによって在庫状況に差異は出ていないでしょうか?また、税金やサービス料の表記や登録は統一されていますでしょうか?

もし内部要因にその原因を見つけられない場合は、外部要因を疑いましょう。メタサーチから実際にその該当のOTAに遷移したのち、最終金額までたどり着いたうえで、金額に差異が出ていないか確認しましょう。もし金額に差異が確認できる場合は、そのOTAでの登録料金に相違がないことを確認することはもちろんのこと、それでも原因を見つけられない場合は、実際にテスト予約として予約をすることによって、その料金の出どころがわかるようになります。あるOTAで予約をしたところ、想像もしなかった予約元から予約通知が流れてくるかもしれません。そして、その予約通知をもとに「まったく心当たりのない予約元から御社の予約が入った」と該当OTAのマーケットマネージャーに報告すれば、必ずその原因を調べてくれるはずです。

多くの皆さんは、レートパリティを是正する方法が、「日々の確認とその記録、そして身元不明の料金に対しては、テスト予約をしてその料金の出所を突き止める」というあまりにも地味な方法に、落胆されているかもしれません。残念ながら、2021年現在、レートパリティをきちんと保つための特効薬はありません。誰でも取り組みやすい特効薬がないからこそ、このレートパリティの問題は、今でも多くのホテルにとっての長年の懸案になっているといえると思います。そういった意味で、レートパリティの問題は、ホテルがディストリビューションや料金体系(レートストラクチャ―)など、レベニューマネジメントにおける多面的な観点から、中・長期的に継続的に取り組んでいかなくてはならないレベニューストラテジーであると言えるでしょう。

しかし見方を変えれば、毎日10分の、非常に機械的で単調な作業を地道に繰り返していくことにより、売り上げを上げることができるかもしれません。今までは、レートパリティが崩れることにより1,000円安いOTAへ逃げていた顧客を、レートパリティを是正することによって、公式ウェブサイトで、なおかつ価格を1,000円切り落とすことなく、誘導できるようになるかもしれません。ここには、新たな顧客や販売機会の創出であったり、斬新なマーケティング手法の導入といった「派手さ」は決してありませんが、私はビジネスとは案外、こういった単調で地味な作業の積み重ねだと思っています。

故に曰く、彼を知り己を知れば、百戦殆からず― 孫氏・謀攻