前回の「ART AND SCIENCE、フォーキャスト(3)」に続きディマンドフォーキャストについての説明を続けます。今回はいよいよ、ディマンドフォーキャストの作成段階です。

ディマンドフォーキャストの作成

前回はOn the bookレポートの作成まで紹介しましたが、まずは、レポートで作成されたオンハンドの数字をマーケットセグメントごとにディマンドフォーキャストに転記します。グループ予約やホールセールのアロットメントを含め、現時点で確約されている予約の状況を数字で記載していきます。

いよいよここからはフォーキャストの数字の入力です。マーケットセグメントごとに現在オンハンドとして記録されている販売室数、さらには販売売り上げから、あとどれだけのルームナイツが、どれだけの売り上げ分伸びるでしょうか?既にマーケットセグメントごとにデータが収集できているはずですので、それぞれのマーケットセグメントのブッキングペース、予約の入り方の特徴がわかるはずです。コーポレートセグメントを例に具体的に見ていきましょう。

前年同月の予約ペースと実績

例えば今日21年9月1日の時点で、コーポレートセグメントの9月15日のオンハンドのルームナイツは22です。前年同月である曜日調整後、20年9月2日時点での9月16日のコーポレートセグメントのオンハンドはいくつでしょうか?もし仮にその数字が今年と比べ異なり、例えば去年のオンハンドが既に40ルームナイツであった場合、そこにどのような理由があるでしょうか?去年は、コーポレートセグメントにまとまった予約がある特定の企業から入っていませんか?その特定企業はなぜ、今年は予約を入れてないのでしょうか?

外部要因

また内部要因だけでなく外部要因にも目を向ける必要があります。去年、既に40ルームナイツも予約が入っていた要因は、もしかしたら競合ホテルが既に満室であったからゆえにその恩恵を受けることができたのかもしれません。去年の競合ホテル、マーケットの予約の積み上がり方、価格の変化、最終的な実績の推移はどうだったでしょうか。それにより自らのホテルはどのような影響を受けたのでしょうか。

マーケットセグメントシフト

セグメント間のマーケットセグメントシフトは起きていないでしょうか?去年は40ルームナイツ入っていたコーポレートセグメントのオンハンドが今年は極端に低い場合、代わりに去年と比べ大幅にルームナイツを伸ばしている他セグメントはないでしょうか?コンソーシアセグメントが大幅にルームナイツを伸ばしていることはないでしょうか?昨今はセルフブッキングツールなどの企業出張予約ツールでOTAの価格をも横断的に検索、予約ができることを考えると、OTAへのセグメントシフトも十分に考えられます。

直近のブッキングペース

ここ1,2か月のコーポレートセグメントのリードタイムに変化はないですか?以前は短かったリードタイムが、後ろ倒しになることによってより長くなっているということはないでしょうか?ここ1週間の予約で、ピックアップが著しいこの先の予約期間はいつでしょうか?直近のブッキングペースやトレンドを参考にすることは、特に現在のようにマーケットの変化が著しく、前年同月のデータが参考にならない際に有効です。

以上のような様々な要因を考慮したうえで、コーポレートセグメントのルームナイツ、および売り上げ(平均単価)のフォーキャストを記入していきます。もし20年9月2日の時点で40ルームナイツあった9月16日のコーポレートセグメントの予約が、実績として60ルームナイツで記録されている場合、現時点で22ルームナイツしかないコーポレートセグメントのルームナイツを昨年並みの60ルームナイツ確保することは、果たして理に適っているでしょうか?現状、それだけの玉があるのであればもちろん可能かもしれませんし、昨年は何らかの特異要因でルームナイツが大きく押し上げられているようであれば、今年も同じように60ルームナイツのフォーキャストをすることは少し無理があるかもしれません。

またコーポレートセグメントの価格体系に去年から大きな変化はないでしょうか?例えば同セグメントの価格体系に大きな変更があり、去年から今年にかけて同セグメントの平均単価が既に実績ベースで5%押し上げられている場合、その分、予測の売り上げも去年の伸び幅よりかは押し上げられる可能性もあります。またこれからどのようなアカウントの予約が入ってくるかによっても売り上げは異なるでしょう。今日から16日までにメガアカウントの予約ばかりが予測されるようであれば、一般的に価格の安いメガアカウントの予約の入り込みによって単価は押し下げられます。

全体のフォーキャストは各マーケットセグメントのフォーキャストの総和

これらの作業を各マーケットセグメントごとに繰り返していき、マーケットセグメントごとにフォーキャストを立てていく、その最終的な総和がホテル全体のフォーキャストとなります。したがって、ホテル全体のフォーキャストは最後に導き出されるものになります。

ホテルの容量、抑制条件は考慮しない

繰り返しになりますが、アンコンストレイントディマンドを予測するディマンドフォーキャストにおいては、ホテルの総客室数、容量を考慮しません。したがって、各マーケットセグメントごとにフォーキャストを立てていた結果、全体のルームナイツの総和が100部屋のホテルに対して1,000部屋になりましたという事が起こるのがディマンドフォーキャストです。

さらには、需要を抑制するためのステイリストリクションやオーバーブッキング、価格による需要抑制などのあらゆる抑制要素も考慮しません。ホテルの容量制限や需要抑制などのあらゆる制約を取り払ったうえでのディマンド(アンコンストレイントディマンド)を予測するのが、ディマンドフォーキャストです。

ディマンドフォーキャストでは総需要を把握します。まずは総需要を把握したうえで、実際にそれを物理的なキャパシティ(総客室数)に収めるためにどのような戦術を考えていったら良いかという次のステップを踏み、そのための戦術をストラテジックフォーキャストなどで実際に検討していきます。

Art and Science

このようなやり方を見て、一部の方はレベニューマネジメントを揶揄する表現である3K「勘」、「経験」、「気合い」という言葉を思い出したかもしれません。「フォーキャストといっても案外、勘と経験に頼るところが多いんじゃないか」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、私はレベニューマネジメントにおいてこの勘と経験が及ぼす影響をまったく否定しません。以前「レベニューマネジメントは技能と理論(Art and Science)の両方が必要だ」と述べたとおりです。

長らくホテルのパフォーマンスについての様々な数字を見てフォーキャストを立てたりしていると、そのうち「どのような数字を見るべきか」「どのような数字に関連性があるのか、ウェイトをおくべきか」「このような場合はどのような結果になりやすいか」ということがおのずとわかってきます。これはレベニューマネジメントに限らずどの分野においても言えることなのではないでしょうか。ある程度その作業を経験すると、その作業に関するコツがわかってきて、それがより優れた結果を生み出すというのは皆さんも経験があることだと思います。

またレベニューマネジメントには「気合い」も欠かせません。どれだけ優れたマーケットデータや過去の実績の分析などをもとに様々なシナリオを描いたところで、それがシナリオのままでは単なる絵にかいた餅に過ぎません。どこかの時点でそのシナリオを実際に実行する「エイヤー」の気合いが必要となります。それは実際にフォーキャストの数字を入力する時であり、そのフォーキャストにもとづいて価格を変える時でもあります。

いつもフォーキャスト通りに正確に物事が進むとは限りません。(そういう時、私たちは「天気予報だって外れるんだから」といって自らを慰めます)またフォーキャスト通りに物事がいかなかった結果、それに基づいて判断した料金戦術が失敗することもしばしばです。私もレベニューマネジメントを始めた頃は、自らの判断に自信が持てずに悩んだ時期もありました。

その時にある同僚に言われた言葉が「決めたことが正しいか、正しくないかなんて悩むな」という言葉です。「結局それが正しかったか、正しくなかったかなんて結果を見ないと誰もわからないんだから、誰もわからないことについて悩むことはないんだよ」というアドバイスとともに「代わりに、なぜ自分がその決断をするに至ったかを、常にきちんと説明できるようにしたら良いのではないか」とアドバイスを貰いました。

これは私が常に心に留めている言葉です。少なくとも自分自身で筋道を立ててきちんとした結論を出すことができて、なぜそのような結論を出したのか第3者にもきちんと説明できるようであれば、それがもたらす結果について出る前からくよくよと考える必要はないと思っています。そういった意味でも、レベニューマネジメントに気合いの要素が入ってくることを私は決して否定しませんし、どのような業務にも気合いの要素は多かれ少なかれ必要なのではないでしょうか。

これでディマンドフォーキャストが完成しました。基本的に、ディマンドフォーキャストはホテルの販売期間と同じ分だけ行っていきます。もしホテルが先12か月分の販売を行っているようであれば、ディマンドフォーキャストも先12か月分を行います。