前回の「レベニューマネジメントに不可欠な要素、フォーキャスト(4)」では、ディマンドフォーキャストの具体的な作成方法をご紹介しました。フォーキャストにおいて1番重要な、それでいて厄介なディマンドフォーキャストの作成が終われば、あとはそのディマンドフォーキャストをもとに派生型のフォーキャストを作成していきます。それがストラテジックフォーキャストとレベニューフォーキャストです。

ストラテジックフォーキャスト

既に何回も触れたように、ディマンドフォーキャストは容量や需要抑制などの一切の制限要素を考慮せず、あくまでも総需要を把握するためのフォーキャストです。このストラテジックフォーキャストにおいては、その総需要を容量内におさめるためにどのような需要抑制策が必要かという観点で作成します。具体的には以下のような要素を検討します。

BAR料金帯の設定

例えばあなたのホテルがBARの料金管理方法としてDaily BARを採用している場合(BAR料金の管理方法については過去の記事をご覧ください)、6か月後の12月1日のBARの料金帯はどの料金帯を採用したら良いでしょうか?この判断のもとになるのが、あらかじめ作成したディマンドフォーキャストです。

もしディマンドフォーキャストにより総需要がかなり高いことが既に予測される場合、あらかじめ高い価格帯を設定することによって需要を抑制し、売り上げの最大化に努めます。

BAR料金以外の価格コントロール

BAR料金に紐づいている他の一般料金や、コーポレート、ホールセールなどの料金戦術もあわせて検討します。例えばディマンドフォーキャストで高い需要が予測され、BARの料金帯も1番高い料金帯が設定されている日に、早割や連泊割などのプロモーション料金を販売することは妥当でしょうか?既に高い需要が予測されているのであれば、プロモーション料金を販売し続けることはみすみす売り上げ最大化の機会を逸してしまう事にもつながりかねません。

また、このような価格コントロールが検討されるべきはリテールセグメントだけに限りません。例えば、コーポレートセグメントにおいてホテルの一存により自由に料金コントロールができるNon-LRA(Non- Last Room Availability)の料金帯は、既に高い需要が予測される期間などは、早め早めのコントロールが必要です。

ホールセールセグメントも例外ではありません。高い需要が予測される日には期間限定のプロモーション料金を閉じる、アロットメントを引き上げるなど、手持ちの在庫を引き締めできる限り自らがコントロール可能な状況に持っていく必要があります。

ステイリストリクション

需要抑制策として非常に有効なステイリストリクションも、このストラテジックフォーキャストにて積極的に検討されなければなりません。特に高い需要が予測される期間があるものの需要に波がある場合、できる限り需要をならして販売数を均等に底上げするには非常に有効なアプローチです。ステイリストリクションについての具体的な説明は、過去の記事をご覧ください。

あらかじめ想定される総需要に対して上記のような様々なルールの適用を検討し、総需要を容量内におさえていく施策を計画するのがストラテジックフォーキャストです。このような様々なルールの適用は、あらかじめそのルールが適用される条件を定めておくことによってその検討と実行を容易にします。

例えば「フォーキャストにおいて稼働が〇%を超える日については、BARの料金帯Xを適用する」「フォーキャストにおいて稼働が〇%を超える日については、オンザブックが〇%に達した時点でプロモーション料金を販売停止とする」などというガイドラインをあらかじめ設定しておけば、ストラテジックフォーキャストの策定はより容易となります。

レベニューフォーキャスト

そしてディマンドフォーキャストをもとに作成するもう1つのフォーキャスト、それがレベニューフォーキャストです。このフォーキャストはホテルを日々運営していくための「現実的なフォーキャスト」で、多くの人にとっての指標となります。つまり「〇月〇日の稼働率の予測は87%, 平均単価は35,000円、売り上げは3,004,500円」という具体的な数字を表し、どの施設においても「これでは予算に達しないじゃないか!」などというやり取りを巻き起こす、あの数字です。

レポートを構成する数値項目はディマンドフォーキャストと似通っています。販売室売数や単価、売り上げがマーケットセグメントごとに記載されていることはもちろんのこと、到着数や出発数、個人・団体の販売内訳、キャンセル数や販売不可部屋、無料宿泊部屋などの詳細が日ごとに記載されています。一方で、ディマンドフォーキャストとの決定的な違いはその数字が現実的であること、つまりホテルのキャパシティ、総客室数内におさまっていることです。

このレベニューフォーキャストは実際に様々な関係者にも共有されます。総支配人をはじめ営業部やマーケティング、宿泊部などに対してはレベニューミーティングを通して状況のアップデートと共有が行われ、オーナーに対してはこの先の販売見通しを示すものとしてその共有と詳細な説明が行われます。

ここまで5回にわたってフォーキャストについてご紹介してきました。一口にフォーキャストといっても実際にはいくつかの種類の、それぞれ違う目的のフォーキャストがあり、世の中の多くの皆さんが目にしているフォーキャストはその中の「レベニューフォーキャスト」であること、また、そのレベニューフォーキャストを作成するにあたってはまずは総需要を把握する「ディマンドフォーキャスト」の作成から始まり、その総需要を容量内に収めるための施策の計画である「ストラテジックフォーキャスト」を踏まえ、その結果として仕上がってくるのが「レベニューフォーキャスト」であるという相関関係の話をしました。

セオリーでご説明できるのはここまでです。Art and ScienceのArtの部分については、日々の試行錯誤の中で学んでいってください。