More with less (2)

「より少ない資源でできるだけ多くのことを成し遂げる」という意味のmore with lessの考え方は、レベニューマネジメントやディストリビューションの領域においても非常に多くの示唆を私たちに与えてくれますが、その例として、ディストリビューションを整理すること、具体的にはチャンネル同士を可能な限り完全な形で双方向につなぐ事で、人間による余計な操作や手間を減らし、より効果的に販売を行うことを申し上げました。

また、必ずしも「チャンネルを増やすこと」と「売り上げを増やすこと」が同義ではないこと、明確なチャンネルストラテジーや方向性、ディストリビューションの全体的な設計図なしに、ただ旅行会社やホールセラーから頼まれるままに販売チャンネルを増やすことで招く混乱と、チャンネルを増やせば増やすほど売り上げを拡大しているように見えて実は販売機会を損失しているかもしれない可能性について申し上げました。

このmore with lessの教訓についてもう少し挙げてみましょう。

More Revenue with less rate type

とにかく色々なOTAや旅行会社、ホールセラーや、場合によっては同僚の営業部員から提案を受けるままに、新たな販売先の獲得を名目に芋づる式にチャンネルが増やしているホテルは本当に多くあると思いますが、これと同じくらい、場合によってはより多くのホテルで見られる状態が「料金タイプ(プラン)が無限にある」ホテルです。

この料金プラン管理事情についても、チャンネル管理と似たようなところがあります。旅行会社などから「こういったプランを出したら売れます」「こういった特別特典をつけて欲しい」というお願いで、企画会社からの「この企画に参加する場合はプラン作成が必要」などいった理由で、日々、ホテルのプランは増殖していきます。その結果、どのホテルでも見られる事象が「公式ウェブサイトで空室検索をしたら該当プランが300件出てきた」、「プランAとプランBはまったく同じ特典内容だけどなぜか料金が異なる」、「なぜか朝食付き料金の方が部屋代のみの料金より安い」といった支離滅裂な料金体系です。

こうなってくると、もはや「どの料金プランを、どういう理由で、どういった規律で」販売していて、それらのプランが売れているのか売れていないのか、さらにはパッケージ要素を抜いた客室売り上げとして、チャンネルコストなどを差し引いた利益としての実態を把握する人が誰もおらず、このようなホテルのレベニューマネジメントは、特に目的や目指す方法もないままあてもなく漂流します。多くの皆さんはこの「漂流する」という状態を大げさだと思っているかもしれませんが、実際は本当に多くのホテルにおいて、いわゆる「レート・ディシプリン」(Rate Discipline)がなく、レートストラテジー全体を俯瞰している人が誰もいないということが起こっています。そしてその結果による収益拡大機会の損失は、あるOTAや旅行会社から特別プランを作成するように依頼されて、何らかの理由で作成しなかった(販売しなかった)ことによる損失を凌駕します。

レートストラクチャー(料金体系)の重要性については以前詳しく述べていますのでここでは繰り返しませんが、

  1. 販売しているすべての料金はBAR料金との関係性のもとに成り立っているか
  2. 1を踏まえたうえで料金の整合性が保たれているか
  3. 無理のない数の料金タイプ数におさまっているか

を改めて見直しましょう。ホテルやマーケットの状況が異なりますので、「料金タイプは〇個以内におさめた方がいい」「〇個を超える料金帯は望ましくない」などの絶対的なルールは存在しません。ただ忘れてはならないのが、料金プランを増やすことが=売り上げを増やすことではないということです。料金プランを作ることによって満足する、売り上げを増やしているような気になってしまうことは、ホテルが陥りがちなよくあるワナですが、新たなプランを作成することが手段ではなく目的となってしまう事のないよう、十分に注意したいものです。

More revenue with less promotion rate

上記で述べた料金タイプ(プラン)を減らすこと、それはすなわち販売をよりリテール料金(BAR料金)へ集約させることでもあります。先に料金体系についての項目で述べた通り、ホテルにおけるすべての料金タイプは最終的にBAR料金に帰結し、BAR料金との関係性のもとに成り立っています。理想はあくまでもすべての客室をBAR料金で売ることであり、ホテルとしては常にそれを目指すべきです。一方で当然、需要の観点から365日すべての日にちについて、すべての予約をBAR料金のみで販売することは実質困難であり、そのために団体料金や契約料金、ホールセール料金やプロモーション料金などが存在します。

特にプロモーション料金については、BAR料金との食い合いが起きないように明確なフェンスを設け、プロモーション料金が主体となるような販売手法は取るべきではありません。実際にBAR料金がホテルの中心料金タイプとして機能していないホテルは驚くほど多く存在します。そのようなホテルが用いる手法として、BAR料金をあくまでも「見せ値の役割」のみとし、その価格をアンカーにすることでプロモーション料金における高い割引率を魅せる方法がよく使われます。これはもはや、本来の意味でのBAR料金の使い方ではありません。むしろ、プロモーション料金が実質的なBARとして機能している典型的な例であり、それであればいっそのこと、そのプロモーション料金の価格帯をBAR料金とする方がシンプルにさえなるでしょう。

皆さんのホテルにおいてBAR料金主体の料金運営が行われているか、これをおおよそ確認する目安として、現在年間を通して販売しているBAR料金の料金帯の中で、1番販売頻度が多い料金帯を見つけてください。現在の年間の平均単価が先の年間最頻BAR料金を下回っている場合、それはプロモーション主体の料金運営となっており、BAR料金を中心とした料金体系が十分に機能していないかもしれない、1つの目安です。