料金体系(レートストラクチャー)の重要性―早割よりウィンタープロモーションの方が安いのはなぜ!?

どのホテルにも必ず、そのホテル固有の料金体系(レートストラクチャー)があると思います。「BAR料金が〇〇円で朝食つきの料金は〇〇円、ある特定のホールセラーに販売している料金は〇〇円」などというように、ホテル全体の商品の料金体系をレートストラクチャーとよびます。

この料金体系は、ホテルのレベニュータクティクスを行う上での要で、料金の設計図のようなものです。この設計図がしっかりとしていないと、実際に価格コントロールを行う時も思うようにコントロールができなくなりますし、その結果、予期していた通りのパフォーマンスとならない場合も出てきます。

どのホテルも、特に年間の予算作成の際などに、ホテルの料金体系の見直しと必要に応じた修正を行うと思いますが、当然、ホテルの料金体系はホテルの中・長期的な戦略や方向に沿った形での設計が行われなくてはなりません。

すべての料金体系の中心はBAR

ホテルの料金体系における中心的役割を果たすのが、ベストアベイラブルレート、BARレートです。(ベストアベイラブルレートについての詳細は、「ダイナミック料金とベストアベイラブルレート―需要に応じて変動するBAR料金の仕組みとその管理方法」を参照してください)実際には、BARレート以外にも朝食つきや早割料金などの様々なパッケージ料金、プロモーション料金を販売しているケースがほとんどだと思いますが、これらすべての販売プランの料金体系は、BARレートの料金体系の関連性のもとに成り立っていなくてはなりません。

ダイナミックプライシングを採用しているホテルは、すべてのパブリックレート(一般料金)をBARレートに紐づけた料金体系とすることで、その料金設計や料金管理が格段に簡便になるでしょう。すべての一般料金がBARレートと紐づいて、BARレートの料金コントロールに応じて平行して価格が上下するような仕組みを確立すれば、BARレートのみを変更することによって、その他すべての一般料金の価格変更も一括で反映することが可能となります。

また、BARレートに紐づいた料金体系にすることは、互いの料金プラン間の価格の衝突や矛盾をなくし、わかりやすく、透明性が確保された料金設計を可能にします。それは何よりも、消費者に対してわかりやすい料金体系を提示することにつながり、わかりやすい料金体系にもとづいた商品ラインアップは、消費者の信頼を得ることにつながります。

早割よりウィンタープロモーションの方が安いのはなぜ!?

一方で、この価格体系がきちんと設計されていないホテルは、残念ながら非常に多いのが現状です。BARレートや朝食つき、早割の料金などの「年間料金」は整合性をもって設計されていても、ウィンタープロモーションやラストミニッツプロモーションといった、「単発もののプロモーション」が入ってきた途端、価格体系に矛盾をきたしその体系が崩壊してしまうケースは非常に多く見られます。下記の料金体系の例を見てみましょう。

上記の検索条件で、BARレートは20,000円です。そして朝食をつける場合は、1名あたり2,000円のブレークダウンが加算されている料金、24,000円という料金体系です。さらに1か月前までに予約した場合は、早期予約特典としてBAR料金の10%オフの料金で予約できるという早割の料金体系もあります。

ここまで見ると、整合性のとれたわかりやすい料金体系となっています。しかし次のウィンタープロモーションが出てくると、少し雲行きが怪しくなってきました。このウィンタープロモーションは、BARレートよりも安い早割よりもさらに安い、BARレートの15%オフの料金体系となっています。

無類のプロモーション好きの日本のホテルでは、「ウィンタープロモーション」、「サマープロモーション」といったシーズナルプロモーションを非常に良く見かけますが、その料金体系は往々にして単純にBARレートからの割引幅を拡充したもので、上記のように他の料金やプランとの衝突を誘発する場合がほとんどです。

改めて上記の料金体系を見てみましょう。この料金体系において3月1日から1泊と検索した際、はたしてBARレートで予約をする顧客のメリットはなんでしょうか?同じ宿泊条件で17,000円のウィンタープロモーションが出ている中、そもそもBARレートで予約する顧客などいるのでしょうか?

さらにこのウィンタープロモーションは、早割の料金をも下回っています。消費者にとっては「早く予約をすることによって割引を得る」、一方でホテルにとっては「早めに予約を固められる」という「ウィンウィン」が特徴のこの早割ですが、別に早く予約することが促されていないウィンタープロモーションの方が価格が安い場合、はたしてこの早割で予約する顧客などいるのでしょうか?また、特に早めに予約をすることが促されていないなど「ホテルにとって得する条件がない」このプランにおいて、ホテルがあえて価格を削って出すメリットはなんでしょうか?

フェンス

この矛盾は、「フェンス」と呼ばれるステイリストリクション(滞在制限条件)をつけることによって解消することができます。例えば、このウィンタープロモーションについては最低宿泊日数のフェンスを適用し、例として「4泊以上宿泊の場合は該当料金での予約が可」とすれば、プラン同士のすみ分けが実現し、互いのプランが衝突することはありません。

このように、ホテルにおけるレートストラクチャーは、BARレートを中心にしてそこからの割引率と、その割引率相応のフェンスをうまく組み合わせて、お互いのプラン内容や価格の衝突が起きないように慎重に組んでいかなくてはなりません。

年間料金において、互いのプラン内容や価格の衝突が起きないように料金体系を組んでいくことはもちろんのこと、特に単発のプロモーションなどを行う際は、既存の料金体系に照らし合わせたうえでその料金体系を崩すことがないよう、パズルのようにうまくピースをはめていく必要があります。

料金体系にそぐわないプロモーションはやらない方が良い

万が一、どのように検討しても既存の料金体系にそぐわないような価格でのプロモーションとなってしまう場合は、そのようなプロモーションはやるべきではありません。過去に「ホテルにおける商品数と購買の関係―  商品数を揃えれば売り上げは上がる?」でも指摘している通り、「新たにプランを作ること」と「売り上げを伸ばすこと」は決してイコールではありません。

また「価格を下げることで売り上げが伸びる」わけでも決してありませんが、もしどうしても価格を下げたい、その効果を信じているのであれば、代わりにBARレートの料金帯を、より安い料金帯に下げれば良いだけの話です。BARレートの料金帯を下げることによって、それに紐づいているその他のプロモーションやパッケージも平行して価格が下がるわけですから、価格を下げるという目的は達成する一方で、消費者にとってわかりやすいプラン販売とその料金設定は維持することができます。

さらに、部屋料金にそれ以外のパッケージ要素、食事やスパのマッサージ、サービス特典などがついた「パッケージ料金」については、その料金がBARレートを下回ることは常識的に考えて絶対にありえません。「“やっつけ”でパッケージを作っていませんか?―魅力ある宿泊パッケージとは(1)(2)」で取り上げていますが、この世で無料のサービスや無料のパッケージ要素などというものは存在しないように、どのようなパッケージ要素であっても少なくともそこにコストは必ずかかっており、パッケージ料金はそのコスト分の上乗せが反映されているような料金体系、すなわち、BARレートよりかは必ず高い価格体系となっているべきものです。BARレートより、パッケージ要素を含むパッケージ料金の方が安いという、摩訶不思議な料金体系があってはいけません。

整合性の取れた料金体系となっているか、定期的に見直しましょう

以上を踏まえたうえで、適切な料金体系の例を見てみましょう。フェンスの厳しさや、それに伴う割引率の幅はマーケットにより異なりますが、自らのホテルの料金体系を下記の図のようにグラフ化し、整合性のある料金体系となっているかどうかという見直しは、ぜひ、定期的に行いたいものです。

設計図は1つ

ホテルにおける料金体系とは、ホテル全体の料金体系を説明する1つの大きな設計図のようなものです。1つの大きな家を造る際に、各区画ごとに異なる作業指示が記載された設計図が複数あるわけがないのと同じく、料金体系も複数存在してはいけません。

何が言いたいかというと、ホテルの料金体系はマーケットセグメントやチャンネルに関わらず、すべての料金プランが互いの関わり合いの中で存在し、例えそれが企業契約料金であってもホールセール料金であっても、BARレートとの関係性のもとに成り立ってなくてはいけません。

例えば年間のホールセール料金を決定する際、前年度料金からの上げ幅や競合ホテルの料金、ホールセラーの言い値などで料金を決めていないでしょうか?今年のBARレートは去年から5%上げるという修正をしたにも関わらず、ホールセール料金は前年の実績がふるわなかった、競合が料金を下げてきそう、ホールセラーからより安い料金提示の希望があったなどの理由で、BARレートと逆行するような料金設定を行ってしまうと、料金体系の整合性が崩れます。

「ホールセール料金や企業契約料金は、一般料金とはマーケットセグメントが異なるし、販売するチャンネルも異なるから」という理由で、全体の料金体系における位置づけを意識しない、まったく単独での料金設定をしてしまうという例をよく見ますが、現在は複雑なホテルディストリビューションにより様々な料金がチャンネル、またはマーケットセグメントを越えて横断的に検索、予約される時代です。

一般料金と企業契約料金、ホールセール料金が並立して表示される予約環境において、お互いの関係性をまったく意識しない料金体系を組んでしまうと、必ずその矛盾を突かれ販売に大きく影響しますし、何より売り上げを最大化する上で大きな障害となります。

ホテルの料金において、BARレートや他の料金プランとまったく関係性がなく、独立して存在している料金プランというものは存在しません。どの料金も、それがいかなるマーケットセグメントやチャンネル向けの料金であっても、それはホテル全体の料金体系を表す1つの大きな設計図を構成する1ピースのパズルです。

例えそれがホールセール料金であったとしても、BARレートからの割引率や他のパブリック料金やマーケットセグメントの料金との比較において、矛盾なく、互いの存在が衝突しないような料金体系となっているか、常日頃から注意したいところです。