なぜ天気予報を見るのか – 〇月〇日のBAR料金をいくらに設定するべきか(1)

常日頃から多くのホテルや宿泊施設の方と話をしたり、意見を交換したりする立場に恵まれますが、私にとって宿泊施設の皆さまと話をする機会は非常に有意義な時間の1つです。一言で宿泊施設と言っても、レベニューマネジメントの観点からすれば実に様々なレベニューマネジメントの捉え方、そのオペレーションを行っているからです。

それは決して「ホテル」「旅館」「ホステル」といったような宿泊業態別に手法が統一されているわけでも、おおよそやり方が似通っているわけでもありません。同じホテルというカテゴリーに位置していても、Aホテルとその隣のBホテルではレベニューマネジメントの考え方、アプローチの仕方がまったく異なることも多く、そういった様々な取り組みを知ることは、常に私自身に多くの刺激と好奇心をもたらしてくれます。

多くの宿泊施設と話をする中で私自身が常に再認識する点は、レベニューマネジメントに絶対的なやり方は存在しないという点です。確かにレベニューマネジメントにもセオリーは存在しますし、私がこの場で書き綴ってきた多くの点は、紛れもないレベニューマネジメントのセオリーです。そして、そのセオリーを踏まえたレベニューマネジメントの実行を行うことによって得られる効果は計り知れないものがあります。一方で、実際のビジネスの世界、これはホスピタリティ業界に関わらずですが、セオリー通りに手法を実行している、実行できる組織は数少ないのではないでしょうか。それが良いか悪いかは別にしても、ビジネス環境にはそれぞれ独自の環境や文化、しきたりがあり、それがいわゆる標準化した手法、セオリーの適用を難しくしているように思います。重要なことは、何かしらの理由によりセオリーが適用できないからといってそれを諦めたり、無視したりせずに、自らの環境にそれをどのように適用させていくのか、その方法を絶えず探っていくことのように思います。

そういった点で、宿泊施設の方とお話をする際、施設ごとに実に多種多様なビジネス環境を持っていらっしゃることにいつも大変驚きますし、そういった環境下における施設独自の取り組みを聞くことは大いに好奇心を刺激されます。そして、その中で皆さんがレベニューマネジメントのセオリーを少しでも多く取り入れ、自らの組織を改革していこうと奮闘される姿を目にすると、微力ながらお手伝いしたいと思うことも少なくありません。

施設の皆さんと話をする中で「私たちは他の施設と比べて取り組みが大きく遅れている」とか「私たちはレベニューマネジメントについて業界内で完全に取り残されている」といった落胆、自責の念を述べられる方もいらっしゃいますが、私は過度の心配をする必要はないと思います。先ほど申し上げました通り、レベニューマネジメントの適用に画一的なセオリーはありません。皆さんがそれぞれのビジネス環境に合わせて独自の手法、スピードで適用させていくものであり、昨日より今日、今日より明日をより良いものにしていこうというマインドセットさえあれば、それがより良いレベニューマネジメントの構築につながっていくものと思います。

さて、色々な方と常日頃からお話をする中で間違いなく1番多い質問項目であり、決まって議論の的となるトピックがあります。それは「BAR料金をどのように決めたら良いのか」という点です。自分たちの組織の中で、BAR料金の設定の仕方やその管理方法はある程度確立されているものの(BAR料金の仕組みやその管理方法については過去の投稿をご参照ください。)、例えば「BAR 5からBAR 6にあげるタイミングはいつどのような時なのか」ですとか「どのような情報をもとにして料金帯の上げ下げを行ったらいいのか」といったご質問を数多く頂戴します。今回から数回にわたって、「どのようにBAR料金を決めたら良いのか」という点についてご紹介していきたいと思います。

ここで今回のタイトル「なぜ天気予報を見るのか」に戻りたいと思いますが、この突拍子もないタイトルに戸惑った方もいらっしゃるのではないかと思います。改めて質問ですが、私たちはなぜ天気予報を見るのでしょうか?答えは明白です。「晴れか、雨か、曇りかを知るために決まっているじゃないか」とお答えになる方がほとんどでしょう。私はこの問いとその回答に「どのようにBAR料金を決めたら良いのか」という点に通ずる要諦が含まれているように思います。

確かに私たちは「明日の空模様が晴れなのか、曇りなのか、雨なのか」ということを知るために天気予報に注意を払うわけですが、同時に、その情報自体には何の意味も持ちえないと思いませんか?晴れ、曇り、雨といった情報は大気の状態、自然の現象そのものであって、Good to know(知っていて損がない)程度の情報です。それが私たちにとって重要な意味をもたらす理由は、その大気の状態によって私たちの行動が変わってくるからです。雨であれば明日の外出時には傘を持っていく必要がありますし、洗濯物を外に干すことはできません。3月なのに真冬並みの気温が予報されていれば、一度はしまった冬物のコートを着ていく必要があるかもしれません。

ここで上記の質問に戻りましょう。「どのようにBAR料金を決めたらよいか」という問いは、上記の例示でいう所の「明日は外出時に傘を持っていった方がいいか、否か」の問いと同様です。明日は外出時に傘を持っていった方がいいか、明日の運動会は実施か延期か、これらはすべて「天気予報を受けた行動」であって、そのために活用されるものが天気予報です。天気予報がまったくわからない中、明日の外出時に傘が必要か否かは誰にもわかりませんし、明日の運動会が予定通りに実施されるかもわかりません。つまり「BAR料金をいくらにしたら良いか」という問いについても、いくらにするかという根拠なしには価格を決めることはできません。その根拠となるもの、それがフォーキャストです。