「ダイレクトブッキングを進めるためのテクニック- ベストレート保証」の項目では、現在、既に幅広くホテルで活用されているベストレート保証の仕組みについてご紹介しました。ここでは、ベストレート保証以外にもホテルとして取り組むことができるテクニックをいくつかご紹介します。
例え、ホテルの事情によりベストレート保証の仕組みを提供することができないにしても、私はそれが致命的なことだとは考えていません。もちろんできるにこしたことはないと思いますが、例え価格で訴求できなかったとしても、特典などで訴求する方法もありますし、オペレーションの観点から見るとそちらの方が取り組みやすいものである場合もあります。(ただ、ダイレクトブッキングを推進する仕組みは「これをしたらこれをしなくていい」というような比較・選択の問題ではありません。ベストレート保証などで価格面の訴求があったとしても、同時にバリュー面での訴求もあるにこしたことはありません)
例えば、フリーWIFIや朝食無料などは非常に訴求の高いバリューであると言えるでしょう。日本は一般的にフードコストが高く、朝食無料などはなかなか踏み切れない特典の1つかとは思いますが、効果は高いといえると思います。また、アーリーチェックインやレートチェックアウト、アップグレードなども定番の特典ですし、ホテル内のジムへのアクセスを有料としているホテルが多いことを鑑みると、そのアクセスを無料とすることも有力な特典となるのではないでしょうか。
さらにバーやラウンジで使用できるフリードリンクチケットであれば、2杯目の注文やフードの追加売り上げも期待できるかもしれません。この特典を考えるときに、ホテルとしてはどうしても「どんな特典であれば出せるか」という、言わば「耐性」の視点、後向きの姿勢で考え出されることが非常に多いと思いますが、あえて叱咤激励するとすれば、中途半端な特典を出すくらいであればやらない方がましです。まずは金銭的負担を考慮せずに、クリエーティブに考えてみることをお勧めします。そして金銭面の考慮をする場合であっても、片やOTAに対し17%の送客手数料を払うことに比べたら、ある程度の金額のものはいわゆる「検討に値する」レベルまで残ってくるのではないでしょうか。そしてその金銭的判断も、その成否の判断を単に「朝食のコスト1,000円と送客手数料1,000円」という金額の単純比較で考えるのではなく、部門を越えたホテル全体の判断として、ホテルの長期的なバリューや顧客のライフタイムバリューを高めるものとして俯瞰的な判断をしたいものです。
また公式ウェブサイトや予約エンジンの操作性もぜひ、気をつけたいところです。販売プランのラインアップは互いにきちんと道理が通っていて、価格の矛盾やプラン内容の衝突は起きていませんか?写真やビデオなどのリッチメディアが適宜使用されていて、なおかつ最新のものにアップデートされていますか?また商品の選択から予約完了まで、いくつのクリックでそのプロセスを完了できるようになっているでしょうか?
OTAがホテル予約においてここまでそのシェアを伸ばすことができた理由の1つが、その操作性の高さです。OTAは、顧客にとってウェブサイトがいかに使いやすいか、見やすいか、情報がわかりやすいか、そしていかに簡単に予約を完了できるかという点に細心の注意を払っており、その操作性の向上に多大な、かつ継続的な努力を続けています。
例えばホテルの予約エンジンでよく見られる「消費者が空室検索後に表示される150商品から自分に最適な商品を選択しなくてはならない」、「部屋の写真が1枚しか記載されていない」、「予約を完了するために、会員登録や住所登録などを求められる」という一連の操作性の悪さは、それだけでOTAから予約させるのに十分な動機です。
いかに使いやすく、見やすい公式ウェブサイト、予約エンジンとなっているか、これはホテルとしてぜひ、継続的に確認、向上したい点ですし、自らの視点だけで確認するのではなく、周りの友人や家族などの助けも借りて「ユーザー目線で使いやすくなっているか」という点は常に意識してほしいと思います。
レートパリティについてもぜひ、おさえておきたい点です。このレートパリティの問題は、それだけで数時間は話すことができるほど複雑な問題で、また改めて取り上げたいと思いますが、ダイレクトブッキングを進めようと様々な施策を打っている中で、例えホテルとしてベストレート保証をやっていてもいなくても、他のウェブサイトで自社サイトより安い料金が出ている場合、これは致命的です。他のどのような施策もかすむでしょう。他のウェブサイトで自社料金より安い価格で予約ができるという状況は絶対に避けたいものです。
その他、例えばメタサーチに自社料金を掲出することや、リターゲティング等のデジタルマーケティング手法を用いるという戦術は、今までご紹介した、ダイレクトブッキングを推進する上での「環境」が整っていることが前提となっての能動的なアプローチになりますので、ここでは詳細は述べません。
上記でご紹介した様々なテクニックやベストレート保証の仕組みは、あくまでもダイレクトブッキングを進めるうえでの1つ1つの手段であり、それをやることが目的ではないということはぜひ、注意してほしいところです。これらのテクニックや、それを周知していくための広告活動、つまり手段である一連の「点」を最終的に「線」として結んでいく包括的なアプローチがあってはじめて、ダイレクトブッキングへのチャンネルシフト戦略はその方向へ徐々に進み始めます。そして何よりも、このダイレクトブッキングの推進は「ホテル業界のトレンドだからやっている」「経営陣からやれと言われたからやっている」という、いわば受動的な姿勢で行う限り、絶対に成功しません。
ホテルが実際にチャンネルコストを洗い出してその金銭的負担を特定、顧客満足に対する危機意識が芽生えてはじめて、ダイレクトチャンネルへのチャンネルシフトの重要性を自ら実感し、問題意識として上がってくるものです。そして初めに述べたように、この効果は1年や2年単位では見られないかもしれません。3年や5年単位で初めて実際に数字として現れてくるものであり、ホテルが商品を販売し続ける限りずっと続けていかなくてはならない永続な施策であるという、その覚悟をホテルに迫っています。