ダイレクトブッキングを進めるためのテクニック- ベストレート保証

前回の「なぜホテルはダイレクトブッキングに力を入れるのか」では、なぜホテルにとって直予約を増やすことが有益なのか、その背景とともにご説明しました。ではダイレクトブッキングを進めるために、ホテルは具体的にどのような施策に取り組んでいったらよいのでしょうか?

まずこのダイレクトブッキングの推進は、以前ご紹介した「レベニューマネジメントの戦略的な仕事」の中に位置づけられている「ストラテジック・ディストリビューション」という項目に該当します。ホテルとしての中・長期的な視点や関与が求められる施策であり、1、2年という短い期間で達成できるものではなく、なおかつ時限的な施策でもありません。

つまり、ウェブ直予約を推進する施策は、ホテルの販売が続く限りほぼ永続的に取り組んでいかなくてはならない施策です。また、ウェブ直予約を推進するうえでよく用いられるテクニックの1つ「ベストレート保証」については特に、その設計と運用にあたってはレベニューマネジメントの関与が必須のオペレーションです。レベニューマネジメントの関わりなしに机上の空論だけで話が進んでしまうと、ベストレート保証の設計に失敗し、そして運用に失敗します。具体的に見ていきましょう。

ベストレート保証とは「ホテルの公式ウェブサイトで予約をした際に最良な料金を保証します」という、ウェブ直予約を推進するうえでの強力なテクニックの1つです。私はここであえて「最良」という言葉を引用し、「最安」という表現を避けました。この点は勘違いされているホテルも非常に多いですが、私は本来のベストレート保証とは必ずしも「最安料金の保証」が必要な制度ではないと考えています。

もともと、インターナショナルチェーンホテルで導入されたこのベストレート保証は非常に眉唾もので、その言葉を日本語に訳そうと考えたときに単なる言語的側面から「最安値保証」という訳が行われたものと思われますが、実際は最安値が常に保証されているわけではありません。

例えばマリオットやヒルトン、IHGといったインターナショナルチェーンホテルのウェブサイトを確認してみてください。彼らは決して「最安値保証」という日本語は使っておらず、一貫して「ベストレート」という英語のカナ表記を使用しています。この「最安料金か否か」という点は、恐らくホテルで働いているほとんど方にとってはあまり気にならないことでしょうし、マーケティングやPRの側面からすると、むしろ最安値といった方がウケもいいことは間違いないと思いますが、ディストリビューションの観点ではこの点は非常に重要です。だからこそ、この設計にレベニューマネジメントが主体的に関わる必要があるともいえるのです。

この制度について非常に詳しく説明をしているヒルトンのウェブサイトから、実際に条件を確認してみましょう。ヒルトンは自社のウェブサイト経由で予約することが1番お得であるということを謳い、もし自社の料金より安い料金を見つけた場合は、その料金に自動的に合わせる「プライスマッチギャランティ Price Match Guarantee」という制度を導入しています。

その説明文を見ると「もし他のウェブサイトで自社より安い有効な料金を発見された場合、その金額に合わせたうえでさらに25%の割引を提供します」という文言があります。ここで注意しなくてならないのが「自社より安い料金が発見されれば」という点であり、他のウェブサイトは自社料金より安い必要があります。言い換えれば、自社と同料金の場合は対象とはならず、厳密にいうとホテルは「最安値料金を提供する必要はないが、自社料金より安い料金が他のウェブサイトで販売されていてはならない」ということなります。

さらに条件を見ていきましょう。比較対象となる有効な料金である条件として、宿泊条件が全く同じでなければならないという文言も確認できます。具体的には

・宿泊条件がなく、すべての人が確認、予約できる料金でなくてはならない

・ベッドタイプが異なっていてはならない(例えばダブルとキングなど)

・お部屋からの眺望が異なっていてはならない

・違うアメニティが含まれていてはならない

・到着日/出発日が違ってはならない

・滞在人数が違っていてはならない

・宿泊条件が違っていてはならない(例えば、返金可の料金と返金不可の料金やキャンセル期限が異なる料金など)

・OPAQUEサイトなど、予約完了までホテル名がわからないものは対象としない

・予約時に予約確約を出さない予約は対象としない

・特別な会員資格を有する予約は対象としない

・料金の参照にログインを必要とする予約は対象としない

・広告表記のみで実際に予約ページへのリンクがない予約は対象としない

・リセールサイトの予約は対象としない

マリオットやIHGなど、他のインターナショナルチェーンホテルの該当条件を参照してもほとんど条件は同じですが、マリオットはさらに以下の記載も確認できます。(ホテルディストリビューションにおいて、下記のような中国の販売元が常にホテルにとって頭痛のタネであることはよく知られた話です)

・Qunar、eLong、Meituan Travel、Ctrip/Trip.com、Ctrip/Trip.com の系列サイト、Fliggyのウェブサイトでの、事前払い、事前購入、または返金不可のレートでの購入は対象外です。WeChatで予約できる全てのレートは対象外となります。

ディストリビューションに専門的に関わっていない方からすると、色々と細かい条件設定があるなという印象くらいにしかないかもしれませんが、これらの条件の1つ1つが現在のホテルディストリビューションにおけるレートパリティの課題を浮き彫りにし、そしてその点を突かれてホテルが不利な立場に追い込まれないような工夫がされています。

例えば、公式ウェブサイトでの販売が返金可のプランと、あるOTAのサイトで返金不可のプランがあってそこに価格差がある場合、保証の対象とはなりません。また公式ウェブサイトで前日までキャンセル可のプランと、あるOTAのサイトで3日前までキャンセル可のプランあってそこに価格差がある場合、保証の対象とはなりません。Booking.comが提供している「Booking Basic」というプログラムにおいては「リクエスト予約」という仕組みがあり、予約時点では空室の確約がされないものもありますが、このリクエスト予約のプランとの価格差については保証の対象とはなりません。

また、最安値を出さなくてはならない場合と同等の価格であれば良い場合では、価格コントロールのアプローチ方法も大幅に異なります。同等の価格で良い場合、基本的には1つの宿泊プランに対して1つのレートコードで対応でき、チャンネルごとにレートコードを変える必要はありません。例えばベストレートという宿泊プランがあれば、同じレートコードをホテル直予約にも他のチャンネル、OTAなどにも適用すれば良いだけですが、もし直予約で最安値を出さないといけないとした場合、ホテル直予約用のベストレートと、その他チャンネル用のベストレートと、2つのレートコードを用意する必要があります。

1つの宿泊プランに対してレートコードの数が単純に倍増することに加え、その料金を毎日管理しなくてはいけないことを想像してみてください。ホテル直予約用に10の宿泊プランがあるのであれば、OTA用にさらに倍のプラン数(レートコード)を作成する必要があり、日々、それらの料金の上げ下げとプランの開け閉めのコントロールが要求されます。

また既に述べたとおり、このチャンネル単位の価格コントロールは現在の複雑なディストリビューションにおいてはほとんど機能していません。ベストレートの最適な運用にあたっては「他のウェブサイトと同等の最良料金が提供される(必ずしも最安である必要はない)」という明確な定義づけと、現在のホテルディストリビューションにおけるレートパリティを適切に管理し、その抜け穴をふさぐための細かい条件設定が必要となるのです。

ホテルとしてベストレート保証プログラムを始める場合は、実に緻密な設計とその運用が肝心であり、単なる経営陣のかけ声だけの、象徴的な意味合いだけが強調されたプログラム内容は、ホテルがダイレクトブッキングを進めるための妨げとなるばかりではなく、何よりもそれを管理しなくてはならないホテルオペレーションが完全に疲弊します。

以上のような説明を見て「実際はひどく形骸化した制度ではないか」と思った方も多くいらっしゃるかもしれません。ただ私自身は、ベストレート保証はその内容よりもやることに意義があるのではないかと考えています。

実際に保証を受けるには高い壁や細かい条件があったとしても、ホテルとしてさらに割安な料金を提供しなければならないリスクを承知でベストレート保証をするということは、それはホテルの自社価格に対する自信の裏付けでもあり、消費者へ「ホテルの公式ウェブサイトで予約することへの安心感」を提供することにつながります。

常に細かく価格を確認する消費者は一定層おり、場合によっては価格調整や返金が必要な場面があったとしても、「〇〇ホテルに予約する時はいつも公式ウェブサイトから予約しよう」という自信と安心感を顧客に提供することができる、これがホテルとしてベストレート保証プログラムを提供する1番のメリットであり、ダイレクトブッキングを進めるうえで非常に重要な要素であるといえます。