川上、川中、川下に多くのプレイヤーが存在し、必ずしもその互換性が優れているとは言えないホテルディストリビューションにおいては、最初のディストリビューションの設計が非常に重要な意味を持ちます。ご説明した通り、川下のプレイヤーには独自の互換性が存在し、川中のプレイヤーにも独自の互換性がある中、いかに互いの互換性に優れた川下と川中の商品を組み込むか、またいかに多くの川上群のプレイヤーと互換性がある川中の商品を組むかで、おおよそホテルの販売チャンネル戦略の方向性が定まってくるといっても過言ではないでしょう。一度構築してしまったディストリビューションを変えることは、多くの労力とコストを必要とします。ご存じの通り、ホテルは24時間、365日休まず稼働しているわけですから、その中でホテルが使用しているシステムを交換することは、その一部分であってもいかに大変なことか、これは私が改めて強調するまでもないことです。

私は今まで多くのホテルの開業を見てきましたが「もともとベンダーと付き合いがあるから」、「使いやすいから」、「日本語だから」、「安いから」、「早く開通できるから」といってPMSやチャンネルマネージャーが選ばれる場面をたくさん見てきました。このディストリビューションの構築は、完全にホテルにおけるレベニューマネジメント、営業、マーケティングの観点から検討、決定されるべきであり、ホテル開業の際に検討される多くの決定事項、例えば「どこのブランドのアメニティを使うか」であるとか「ユニフォームのデザインをどうするか」といったレベルとは全く異なった高度な専門知識と、先見の明が要求されます。

このディストリビューションは非常に複雑化し、そしてその仕組みは日々進化しているため、その全容を常に理解し最適な判断を下していく専門性を備えていくことは容易ではありません。その点、私はインターナショナルチェーンホテルがホテル展開をする際にこのディストリビューション構築に関する権限を個々の施設に委ねていないということは非常に賢い選択だと考えています。個々の施設はチェーンホテル加盟の際、基本的には既に決められた川中、および川下のシステムを与えられます。もちろん、これにはおのおののチェーンホテルの会員組織の予約を円滑に進めるためといった事情もありますが、非常に高度で専門的な判断が求められるこのディストリビューションの構築を、本社のその分野にたけた専門部署ですべて一括して決めているということは、結果的にホテルの売上を最大化し、効率的なオペレーションを進めるのに大きく寄与していると考えています。

この場では、基本的に宿泊予約を中心としたディストリビューションの話をしていますが、先に少し述べたように、本来はこのディストリビューションとは宿泊予約領域のみを指すものではありません。それはホテルが使用するあらゆるシステムを指し、ホテルの運営を支えるシステムもますます多様化しています。レベニューマネジメント、オペレーション、マーケティング、経理、ミーティングやイベント、セキュリティ、レストランなど、ホテルで使われているあらゆるシステムの互換性をいかに確保し、自動化し、その情報を共有、活用していくか。これは、いま業界全体が直面している人材不足とその配置の最適化の課題、さらには価値あるデータの収集と活用という課題を解決するうえで乗り越えなければならない大きなチャレンジといえるでしょう。