PMSが今後のホテルディストリビューションの未来を占う!?

ホテルで働いている皆さんにとって1番重要なシステムは何かと言われれば、多くの方がそれはPMS (プロパティマネジメントシステム、Property Management System)であるとお答えになるでしょう。ホテルオペレーションに欠かせない多くの情報が集積されているPMSですが、逆にこのPMSに多くの情報が集中しすぎているという現状、そしてこのPMSの提供が数少ない企業によってほとんど寡占されているといっても過言ではない状況が、皮肉にも、ホテルにとってのPMSの重要性をさらに強めていると言えるとも思います。世界的なホスピタリティ業界の情報誌であるスキフトの調査によると、世界にはおおよそ700から1300程度のPMSベンダーが存在し、世界のホテル部屋数においてそのうちの16%のシェアを握っているのが、オラクルホスピタリティが提供しているOpera Suiteであるといわれています。

ホテルで働くほとんどの方にとって、PMSはあらゆるホテルディストリビューション、システムの中心をなす存在であると思います。すべての情報が最終的にPMSに集約されるように設計されている、このディストリビューションの形は多くの方にとって疑問の余地はないでしょう。しかし一方で、全ての情報がPMSに集積されるようなこの設計になっている結果、逆にそれはホテルの手足を縛っていることになっていないか、今回はそのような点を考察したいと思います。

宿泊予約関連領域については、ディストリビューションの構築において、このPMSの選択によって残りのディストリビューションの設計がほぼ決まってくるという現実は、前述したとおりです(詳細は過去の投稿「はじめのディストリビューション構築の重要性」を参照してください)。選択するPMSのベンダーによっておのずと選択する川中の商品も決まってきますし、選択する川中の商品によって、おおよそホテルの販売チャンネル戦略も決まってきます。つまりそれを望まずとも、ホテルの販売戦略の一端はPMSの商品スペックとその互換性に依存しているわけです。

このPMSに完全に依存しているホテルディストリビューションの現状は、宿泊予約の領域以外でも言えるでしょう。例えば、ホテルが客室清掃管理により特化したホテルマネジメントシステムを導入しようと思い、その管理に特化した使い勝手の良い素晴らしい商品を見つけてきたとしても、PMSとの限られた互換性の点から導入を見送らざるを得ない状況は往々にして発生します。PMSプロバイダーは「ホテルシステムの総合商社」として多くの関連システムを自社開発し、PMSとの連携を売りに顧客の囲い込みをはかる手法を取っていますが、ではそれらの関連商品において、常に世界の先進をいく素晴らしい商品を提供し続けられているでしょうか?残念ながらそうとは言えない状況です。それどころか、それら関連商品の専門性と先進性は日々進化し、その守備範囲はますます増え続けるばかりです。

そもそも、PMS(プロパティマネジメントシステム)はその名の通り「施設を運営するためのシステム」で、滞在客のチェックインやチェックアウト、お部屋の状況コントロール、簡単な清掃状況の管理などおもに「ホテル宿泊に伴う関連オペレーション」に特化した機能です。しかしながら、顧客であるホテルからの要望によりその守備範囲は徐々に拡大していき、宿泊予約の機能についても、その機能拡充の過程でPMSに徐々に備わってきた機能の1つです。このようにして過去数10年かけてPMSの機能拡大が図られてきた結果、PMSは本来の「施設におけるオペレーション業務」以外の役割も担うようになり、その重要度を高めてきました。ただ同時に、皮肉にもこの構図はホテルとPMS、およびPMSベンダーとの関係をさらに強く縛るようになり、他の外部プレイヤーとのシステム連携における壁をさらに高くするようにもなりました。

いっそのこと、PMSベンダーはすべてのシステムを自社開発するという方向性から舵を切って、自社開発より他社商品との連携にその重点を置いてくれた方がホテルにとってはよほど有難いですが、PMSベンダーにとってこの「囲い込みの商法」は利益の源泉でもあります。異なるシステム間の連携は現在でも大きな課題として残されています。せっかく良い専門システムが市場に出てきても、PMSとの連携不足により使うことができない、また例え開発により連携が可能であったとしてもPMSベンダーより多額の開発費、ラインセンス料、月額費用を要求される、残念ながらすべてのしわ寄せはホテルにきているのが現状です。

1つの未連携のシステムを新たにPMSと連携させるのに要する開発において、PMSベンダーからいかに高額の費用を要求されるか、ここではヨーロッパのあるPMSベンダーが自分たちでPMSの開発を始めるにいたった実話をご紹介します。「チェコのプラハでホテルの開業にたずさわっていた時、モバイル端末での使用に適した操作性を提供するPMSがありませんでした。そこで自分自身でモバイル用のアプリケーションを開発し、それをPMSと接続させたうえで顧客情報をそのアプリケーションに連携させようと試みました。しかしPMSのベンダーに連携を依頼したところ、APIのアクセスに6,000,000円を要求されました。私はそのままホテルのオーナーのところへ出向き、”6,000,000円を私に使わせてください、私はそのお金でこのホテルに適したPMSをまるごと作りますから”と直談判し、結局、PMSとのシステム連携費用だけで新たなPMSをまるごと開発し、そのまま会社をおこしました」

こうした現状を打破するために求められることは、やはりPMSベンダーによる積極的な外部システムプレイヤーとの連携推進です。これは技術的には言うまでもないことですが、費用や連携に要する期間、その対応などの環境面での整備も含まれます。PMSベンダーによってはPMSのオンプレミス(ホテル内にサーバーを設置して管理する)からクラウドへの移行を積極的に進めているほか、API公開を積極的に行って外部のプレイヤーが連携しやすい環境を作ろうと努力をしている会社もある一方で、いわゆる「ベンダーロックイン」のような状況を強いている会社も多く存在します。

このPMSと外部システムプレイヤーとの相互連携が進むと、ホテルにとっては、既存のディストリビューションを大きく変えずに、分野によって柔軟に新しいシステムを導入することが可能になります。現在のPMSを維持したまま、RMS, CRS, CRM, ホテルマネジメントシステムなどについて、それぞれの分野において1番優れた商品、自分たちのホテルにとって1番使いやすい商品を柔軟に導入することができ、また何かしらの理由でそのシステムを変えたいと思った場合も、その接続の切り貼りだけで対応することが可能になります。この状況は、何よりホテルにとって新しいシステムやテクノロジーの選択の幅を広げ、業務の自動化をさらに推し進めることが可能になるばかりでなく、このホテルディストリビューション自体に新たな技術革新をもたらし、現在はまだ実現化されていないようなアイデアやシステムが生まれてくる環境の創出をも促します。

一方でこういったすべてのシステムの中心である「システムハブ」の役割をあえてPMSに求めずに、こういった役割のみに特化した新たなプレイヤーが出てくるという可能性もあるかもしれません。このプレイヤーは文字通り、ホテルのあらゆるデータの蓄積とシステム間の連携の役割に徹します。この環境下で既存のPMS, CRS, RMS, ホテルマネジメントシステムなどもまた、それぞれの役割にのみ、特化することになります。

PMSは文字通り「プロパティマネジメントシステム」として、施設でのオペレーションを回すことだけに特化します。チェックイン、チェックアウトを行い、客室清掃の状況を管理することなどに特化し、それらに必要なデータ(予約情報や顧客情報など)は必要に応じて逐一、データハブからダウンロードした上で、更新された情報をまたデータハブにアップロードします。ホテルでの電話予約を含めて宿泊予約はすべてCRSで行われ、その情報は一度すべてデータハブに集約されたうえで、必要に応じて各外部システムに提供されます。CRMは顧客データをわざわざPMSから逐一吸い上げる必要はなく、データハブからその情報をダウンロードしたうえでCRM内にて様々な施策を実行します。

このミドルプレイヤーは、いわばプラグインのように、ホテルディストリビューションにおけるあらゆる外部システムとの連携、システムのハブのような役割を果たすわけです。この明確な分業により、PMSも度重なるホテルからのリクエストに応えて新たな機能の開発に膨大なコストと時間をかける必要もなくなり、本来のPMSの機能の充実に特化することが可能となります。このミドルプレイヤーの役割で、どこのPMSベンダー、もしくはホテルとは全く関係ない会社がビジネスの覇権を握るかという思惑や駆け引きはあるでしょうが、既存のPMSにおいて外部プレイヤーとの相互接続に技術的、環境的な壁があり、それが改善されないのであれば、このような形でのホテルディストリビューションの再編も求められてくるかもしれません。

参考:Hotel Distribution 2020 Channel Mix/The Tech Landscape- Skift Research