商品数をすっきり見せるための様々なテクニック―部屋タイプをできる限り少なくする

ホテルにおける商品数と購買の関係―  商品数を揃えれば売り上げは上がる?」において、商品数はただ多ければいいというものではなく、いかに各々の消費者にとって最適な提案を、迅速にかつ的確に、そしてわかりやすく伝えることができるかが肝心というご紹介をしました。それにそぐわない行為として、ただ闇雲にプラン数を増やすことはしないという他にも、商品ラインアップをすっきりさせることができるテクニックはいくつか存在します。先に「ホテルにとっての商品とは、”プランx 部屋タイプ”だ」と申し上げましたが、部屋タイプの区分をできるだけシンプルに、かつ最小限に抑えることも1つのアプローチです。

部屋タイプは例えば、スタンダードルーム、スーペリアルーム、デラックスルームといった部屋カテゴリー別に区分される場合がほとんどですが、実際の区分はこれだけにとどまりません。多くのホテルでは部屋カテゴリーでの区分に加え、ベッドタイプでの区分、さらには禁煙/喫煙での区分が存在し、結果、例え1つの部屋カテゴリー内であっても、下記のような複数の区分がさらにぶら下がっていることが一般的ではないでしょうか。

スタンダードシングル 禁煙

スタンダードシングル 喫煙

スタンダードダブル 禁煙

スタンダードダブル 喫煙

スタンダードツイン 禁煙

スタンダードツイン 喫煙

スタンダードトリプル 禁煙

スタンダードトリプル 喫煙

記載しているだけで目まいがしてきますが、これでやっと、1つの部屋カテゴリーにぶら下がる部屋タイプの列挙を終えただけです。これにもし部屋カテゴリーが5つある場合は、1部屋カテゴリーにつき8タイプ x 5カテゴリーの40部屋タイプが存在することになります。そしてさらに、これにホテルが販売しているプラン数をかけあわせていくとどのような結果になるでしょうか。料金プランが10あった場合、ホテルの商品数はそれだけで400商品となります・・・皆さんが消費者としてあるホテルのウェブサイトからホテルを予約しようと思った際、はたして400商品にすべて目を通すことができるでしょうか?

Sabreが発表したウェブサイトのベンチマークレポートによると、2019年、ホテルのウェブサイトを訪問した閲覧者がそのウェブサイトに滞在した平均時間は、おおよそ2分から3分でした。この数字がすべてのホテルに問うていることは、「あなたのホテルは、おおよそ2-3分という持ち時間で、消費者にすべての販売プランを見せることができて、なおかつその中からそれぞれの消費者に嗜好にあったプランを選ばせ、予約まで完了させることができますか」という点に尽きると思います。

部屋タイプを可能な限り簡潔にすること、これは売り上げを最大化するというレベニューマネジメントの目的にも適っています。部屋タイプの数をできるだけ大きなくくりでまとめ、そのまとまりをダイナミックにコントロールする、コントロールの幅を広げることが可能になるからです。ホテルに話を聞くと「部屋タイプを多くしてそれぞれに差額を設けることで、少しでも追加売り上げを増やしたい」という話をよく聞きますが、確かに細かく部屋タイプを設けてそれぞれに差額を設定し、レベニューマネジメントシステム(RMS)にその価格と在庫を自動でコントロールさせるのであれば、引き続き、消費者にとってのわかりやすさという点においては大きな疑問が残るものの、一理あるといえるかもしれません。

一方で、その料金コントロールと在庫コントロールをすべて人間の手によりマニュアルで行っているのであれば、人の手による細かい管理はレベニューマネジメントのダイナミズムを硬直化させ、結果的に多くの売り上げ最大化の機会を失ってしまうことにもつながりかねません。机上論では売り上げを最大化できるという計算上のシナリオと、実際に売り上げを最大化できるかというオペレーションの実際は、残念ながら異なるのです。

部屋カテゴリーをより大きな区分とするための切り口はいくつかありますが、まずは、厳密な部屋のサイズに沿った部屋区分の仕方を止めましょう。たかだか部屋の広さが1平米、2平米違うだけで部屋カテゴリーをわけているケース、場合によっては1平米以下の広さの違いだけであっても、「正確には広さが違う」という言い分から、部屋カテゴリーをわけているホテルを目にしますが、滞在する際の居住性という意味ではほとんどわからないくらいの広さの違いに差額をもうけることは、消費者にあまり良い印象を与えません。1平米や2平米くらいの違いで他に部屋の設備や景色に大きな違いがないのであれば、ホテルのオペレーションのことを考えても同じ部屋カテゴリーとしてくくってしまうのが賢明といえるでしょう。

また改装(リノベーション)をした部屋について、その改装を理由に従来の部屋タイプとは切り離して管理をし、さらに差額を設けて販売するケースも多く見られます。例えばもともとスタンダードルームとして販売していた部屋カテゴリーの中の一部の部屋を改装し、改装後は同じスタンダードルームでもその改装した部屋だけを「ニュースタンダードルーム」のような形で販売するケースです。

「新しい」「改装した」ということにプレミアムをつけ、それらをあえてわけて管理することが本当に理に適っているのかという点は、ぜひ、慎重に検討いただきたいと思います。例えば、海外の消費者にとっては「リノベーションされた部屋に差額を追加する」という考え方は一般的ではありません。そもそも日本のように「新しいものを良し」とする文化ではない国もたくさんありますし、そういった意味ではリノベーションの投資を価格に直接転嫁させるようなやりかたは、いささか奇異に映る場合もあります。ただ、私はここで「リノベーション自体に価値がない」ですとか、「リノベーションの投資を回収してはいけない」と言いたいわけではありません。

私は、「リノベーションとは本質的にホテル全体の価値を中・長期的に維持し、向上させるもの」であって、「リノベーションをしたことに対してそこから直接的な金銭的利益を得る(投資費用をそのまま価格に転嫁する)ものではない」と考えています。リノベーションは、経年劣化によりくたびれた部屋の設備を一新し、その雰囲気さえもガラッと変える効果を持っています。それはホテルにとって、マーケットに対して新たな価値を提供することにもなり、場合によってはもう一段階上の価値を提供し、マーケットの中での新たなポジショニングの獲得と、それによる新たな顧客層を開拓することにもつながります。

そしてその価値の向上による効果は、必ずパフォーマンスという形になって現れてくるでしょう。リノベーションによりホテルの稼働が上がったのであれば、消費者がその新たな価値を受け入れたということになりますし、そのおかげでホテルは平均単価を上げていくことができるかもしれません。そうすれば、部屋のリノベーションに対する投資費用を、初めから部屋の価格に転嫁するという露骨な商法をしないまでも、中・長期的にそのホテルの価値を向上させ、必ずや投資金額を回収できるような仕組みになってくるのではないかと思います。

さらに上記の理由から、私はむしろ、ホテルはスタンダードルームから積極的にリノベーションをしていくべきだとも思います。より高い単価を狙って、いわゆる「ハイエンド」と呼ばれる層を狙うという目的において、どのホテルにおいても上のカテゴリーの部屋やスイートの部屋のリノベーションをすることには余念がないですが、一方でスタンダードルームに関してはまったく手をつけられていないケースも多く、ホテルによっては「スタンダードルームはあまりにもみすぼらしいので、ショールームでは見せない」としているホテルもあるくらいです。

しかしスタンダードルームはホテルの顔です。どのホテルにとっても1番在庫数が多く、予約の問い合わせも1番多い部屋カテゴリーです。常に高い稼働が見込まれるスタンダードルームを中期的に売り止めにすることはなかなか厳しい事情もありますが、そのホテルの顔となるスタンダードルームこそ積極的にリノベーションを進めてほしいですし、それがホテル全体の本質的な価値の向上につながり、そして結果的にパフォーマンスになって現れてくるというサイクルとなるべきではないでしょうか。

また、日本ではあまり採用されていないアプローチですが、ベッドタイプを確約しない、禁煙/喫煙を確約しないという方法も、販売の最大化を可能にする有力な方法の1つです。先にあげた「大きなまとまりの方がよりダイナミックにコントロールできる」という点に通じますが、スタンダードのダブル/ツイン、禁煙/喫煙で各部屋タイプに5部屋ずつとするよりかは、スタンダードルームで20部屋という方がよりダイナミックなコントロールを可能とします。

特に都市圏のホテルはどこも「週末や年末年始にツインが足りなくなり、平日には出張需要によりダブルが足りない」ということはよく起こります。また、社会は確実に禁煙に向けた環境整備が進んでいる一方で、一部の根強い喫煙者のために喫煙の部屋をある程度確保しておかないといけなく、実際には売り残すことも多いという悩みを抱えるホテルも多いと思います。

「顧客のリクエストに完全に沿うことができないくらいだったら、部屋を売り残すことくらい喜んで甘受する」というホテルであれば別ですが、ビジネスとしてホテルを経営されている企業がほとんどですから、可能な限り売り上げを最大化したいという点はどのホテルも共通だと思います。部屋のカテゴリーとタイプをできるだけ減らす、ベッドタイプと禁煙/喫煙はリクエストベースとするというアプローチは、より柔軟な在庫コントロールを可能にし、結果的に売り上げを最大化するのに大きく寄与する手立てと言えるでしょう。

参考:https://www2.sabrehospitality.com/content/2020-benchmark-infographic , Sabre Benchmarking Study 2020